26話 鏡の魔女
現在、霧鴉探偵事務所では二つの事件を並行して調査している。
一つ目は『火蝶魔事件』。連日謎の爆破事件を起こす契約者による事件だ。犯人は『カルマグニ・パティン』の契約者、アシュトン・ヴェイル。神出鬼没な彼を捕まえる術がなく、膠着状態にある。担当は僕、ジャン・ボイルだ。
もう一つは『エレノア・ヴァレンフォード誘拐未遂事件』。エレノア・ヴァレンフォード嬢が誘拐犯に狙われており、その解決が依頼されている。容疑者として名が上がったのはグレイヴス家、かつてジェーンさんも被害にあった誘拐事件の黒幕候補の1人だ。エレノア嬢がグレイヴス家の夜会に招待されたことに便乗し、決定的な証拠を掴もうとしている。担当は『異能探偵』ジェーン・ドゥ。
事件の終幕は目前に迫っていた。
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「夜会に連れて行けるのは従者一人だけ。これが一番効果的だよ」
「そうですけど…大丈夫なんです?」
「生半可な契約者に負けるような鍛え方はしてないよ。まあちょっとエレノアが危険だけど…」
「…説得するしかないですね。僕が行けないのは心配ですけど…」
「じゃ、行ってくるね!火蝶魔は…東区は任せた!」
必要な荷物を詰めたトランクを持って部屋を出るジェーンさんを見送り、こちらも準備を整える。
「とりあえず…ジェーンさんが帰ってくる前に終わらせられるよう、頑張ろう!」
カーネリオンのケースを背負い、日課のパトロールに出かけることにした。
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「えっと、ここあたりだって聞いたけど…」
パトロール中にノーラさんからもらった情報曰く、南区の工場街に僕の探し人がいるらしいが…
黒煙を吐く煙突の間、くたびれた様子の従業員たちの中に探し人の特徴は…
「アンタの占いのおかげで無くした指輪が見つかった!ありがとう!」
「気にしないで、代金分の仕事をしたまでよ」
「いやいや、代金以上だ。最初は冷やかしだったがアンタを見つけられてよかった!」
人混みから女性の声と誰かを褒め称える言葉が聞こえる。
人混みをかき分けて中心を見ると黒いベールを被った女性がいた。
「ようやく見つけた…」
「あなたは…」
霧裂き魔事件の時、すれ違いざまに助言をくれた人。火蝶魔を捕まえるのに必要なピース。ずっと探していた探し人。
「すいません、占っていただけませんか?」
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「おい兄ちゃん、抜かすんじゃ…」
「いや、大丈夫。私も彼と話したかったから」
不満げな男性を止めてベールの女性が立ち上がる。
「ごめんなさい、今日は店仕舞い。明日もここに来るからその時にお願い」
「アンタがそう言うんなら…」
人混みが掃けて閑散とした通りを鏡を抱えた女性が歩き出す。
「私はミナ・フォーチュン」
「僕は──」
「知ってるわ。あなたはジャン・ボイル。霧裂き魔事件を解決した異能探偵の助手」
「ありがとうございます…?」
無言のまま乗合馬車に乗って東区についた。
「…ここね」
「ここは…」
東2番通り近く、グレイフォードの中央に近い時計塔が見れる通りだった。
「未来を見せて、【カタプシア】」
鏡を覗き込んだかミナさんは呟き始めた。
「…三日後の夕方。ここであなたと蝶の刺青を入れた男が戦っている。火蝶魔?」
「は、はい。火蝶魔は蝶の刺青を入れた男です」
「そう。これで私の見た未来は果たされた」
そのまま立ち去ろうとする彼女を慌てて呼び止める。
「説明をいただいても!?」
「…私の契約精霊は『カタプシア』。自身の鏡像を代償に未来を覗く異能を与える」
「鏡像…」
そう言われてみると胸に抱えた鏡には抱えている手が写っていない。
「じゃあ霧裂き魔の時も、今回も。なんで手伝ってくれたんですか?」
ただのお節介で動くような人には見えない。
「未来が見えたの」
「未来が?」
「道行くあなたを見た時、鏡は虚空と話すあなたを写した」
「えっと…」
ミナさんの代償は鏡像、話からして未来視の異能は鏡に映る未来を見る、という形だ。
つまり、ミナさんは未来の自分の姿を見えない。
鏡に写った未来で僕と会話しているのだと推測し、それを実現するために話しかけたということになる。
「今回もそう。鏡は虚空の椅子に話しかけるあなたと、この通りで虚空と会話するあなたを写した。私はそれに従ったまでよ」
「そういう未来が見えたから、その通りにしたと?」
「ええ」
話が済んだと判断したのか、そのまま立ち去る彼女を呼び止める言葉は思いつかなかった。
彼女の後ろ姿に己の意思は感じられなかった。
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あっという間に三日が過ぎた。
「気をつけて行くんだよ、エレノア。ジェーンさんも、よろしくお願いします」
「ええ、任せてください」
ジェーンさんはエレノア嬢のメイドとして夜会に同行し、護衛を務めると同時にグレイヴス家の犯罪の証拠を掴む。
「ふう…行くよ、カーネリオン」
ボロ布で拭き上げたカーネリオンをケースにしまい、準備した道具を確認する。
「いってきます」
「いってきます、お父様」
決戦の時は来た。
決意を込めた拳を握り締め、事務所を後にした。




