13話 事件解決
鋭い剣──霧裂き魔が大気を切り裂く。
「ウォ、オオオ!」
剣を避けて潜り込み、胴体にしがみついて動きを止める。
銃声が響き、叩きつけられようとしていた右腕が弾かれた。
「!?」
普通なら大穴が空く威力の弾丸が直撃したにも関わらず剣を握る右手に穴は空いておらず、剣を取り落とすこともなかった。
「右手だけ硬い!他は効くのに…!」
見れば爆発による細かい傷は全身についているというのに、剣を握る右手だけ傷ひとつついていなかった。
「じゃあ…!」
ゲイルさんから貰ったナイフを取り出し、手首から差し込む。
エネルギーで強化されたナイフは容易く肉を貫き、そのまま手を切り裂くべく引いたがすぐに止まった。
「…糸!細くて透明の糸で縛られてます!」
糸とは思えない硬さにナイフは折れ、手から滑り落ちる。
慌てて距離を取り、奴の右手を睨んだ。
「ジャン君、これ!」
赤い粉が舞う小瓶が投げ渡される。
「それを手の近くに!専用の弾で爆発する!」
「あれか…!任されました!」
乱雑に振り回される剣を掻い潜り、右手に近づく。
浴びせられる銃弾を対応しているうちに小瓶を手首に開いたままの穴に突き込んだ。
「OKです!」
「ヴォルフ!」
呼びかけると同時、銃声が響く。
銃弾は僅かなズレもなく瓶の中央に当たり、粉塵をばら撒いた。
爆発。煙が充満し、爆心地の霧裂き魔が見えなくなる。
「やった…?」
「まだだ!」
屋根から怒声が響く。
「まだ視える、生きてる!」
「そんな…」
煙が晴れる。服はボロボロ、肌は煤けてはいたが、奴は生きていた。
つけたはずのキズはなく、汚れだけが今までの奮闘を示している。
「最大火力が…」
「まだです!身体を治すのに貯めてたエネルギーを使ったはず…!」
飢えを満たすこととは真逆の行動。これは奴からしても不本意なはずだ。切り札を使わせた、そう考えたい。
「っ!」
後ろに下がって飛びかかってきた奴を避けた。攻撃が雑になっている、追い詰めている。
なのに勝利に近づかない。
「糸をどうにかする方法…いや!」
ジェーンさんが声を上げた。
「手がダメなら別の場所を落とす!」
「任せろ」
サクリ、と軽い音を立てて奴の右肩に矢が刺さった。
紐から矢、矢から体へと霜が広がっていく。全身が凍りつくまで大して時間は掛からなかった。
「ゲイルさん!」
「悪い、弓を使うのは久しぶりだったんで遅れた」
矢についていた長い紐を辿った先には弓と紐の先端を持ったゲイルさんが立っていた。
「ヴォルフ」
「はいはいっと」
銃弾に貫かれた氷像は一拍おいて砕け散った。
「そっか、どっちにしろ身体がないと奴は動けない…」
「できれば綺麗に残したかったんだけどね。でもこれで霧裂き魔は終わった…」
残った剣を回収しようと近づいた瞬間、何かが飛び跳ねた。
「ジャン君!」
「!」
胸の中央、心臓がある部分に剣が突き刺さっていた。
〜〜〜〜〜〜
「っ!」
一瞬飛びかけた意識を気合いで保つ。
剣の柄を握っていたのは右腕、それも肘から先だけ。中途半端に凍りついたままビチビチと動き続けていた。
「離、れろぉ、!」
剣身を掴んで押し戻すが如何なる力かどんどん迫ってくる。
「任せっ、重!?」
ジェーンさんも腕を握って引っ張るが速度が遅くなるだけだった。
「3人も!」
「おい!監視班!来い!」
「──!」
「あまり力に自信はないんだけど…」「ヂュー!」
まるでカブを引くかのような様子だが、現実には少しずつめり込んでいく。
「っ!」
剣から流れ込んでくるのは飢餓感、怒り─困惑?
少し考えて、答えはすぐに見つかった。
「悪いな、心臓はもう持ってかれてる」
手を伸ばし、右手を縛る糸を掴む。
「真相はまだわからない」
硬い糸を掴んだことで手から血が吹き出す。
傷は気にしなくていい、後で治る。
全部のエネルギーを腕、手そして糸に注ぎ込む。
「だけど!それがなんだろうと僕が──」
半透明の糸が光を中途半端に反射して虹色に光る。
「僕達が、解決する──!」
糸が千切れ、勢い余って腕を引っ張っていたジェーンさんたちが後ろに倒れ込む。
宙を舞った腕は砕け散った肉体と一緒に霧となって消えていく。
剣も石畳に突き刺さって動くことはない。
胸の穴、血の吹き出した手が治っていく。
「事件、解決…」
肌寒い晴天の下、僕は2日ぶりに気絶した。




