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異能探偵ジェーン・ドゥの事件簿  作者: ショウゴロウ
1章 異能探偵
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11話 名無し


霧裂き魔(ミスト・リッパー)の動きは単純だ。

歩いて、剣を振る。実際には達人のような何かがあるのかもしれないが知らないので無視する。


霧の目は使えず、本物の目も包帯で覆われている。今の奴は相手の場所もまともにわからない。


まっすぐに突っ込んできた奴を避けて前に進む。


「お前の目的はわかってる」


見当違いの距離で振るわれる剣を避けて睨む。


ジェーンさんがずっと考えてわからなかった霧裂き魔(ミスト・リッパー)の動機。

特定のターゲットがいるわけではない。通り魔的犯行というには規模が大きすぎる。実力の誇示にしては名を知らしめる気が感じられない。


ギリギリ当たらない距離で振り下ろされた剣を右手で受け止めた。


【ハラガスイタ(・・・・・・)】


斬られた時に聞こえた声から怒りや憎しみの感情を感じなかった。途切れ途切れで意味がわからなかったソレ。


「お前はただ、腹が減っていただけ。人を襲ったのもそれを満たすためだ」


2回も斬られてようやくわかった。コレに悪意なんてない。飢えを満たすため、生きるための行動だった。


「人の尺度でお前を捕まえようとするのは間違いなのかもしれない」


大きく跳んで距離をとった奴に一歩近づく。もう既に右手は治っている。


突き出された剣を首を傾けて避けて掴む。


「それでも、お前は『異能探偵助手』として、僕が止める!」


深く息を吸い、胸を叩く。


「廻(まわ)れ!【エイン・オロス】!」


ドクン


鼓動のような音が響き、胸から黄金色のエネルギーが溢れる。


今までただの超再生の異能だと思っていた【エイン・オロス】の力、その真価は再生力ではなかった。

【エイン・オロス】が与える異能は『無限のエネルギーを生み出す永久機関』。そのエネルギーの使い道は再生力だけではない。


「オ、ラア!」


慣れないながらも左拳を握り込み、胴体を殴りつけた。

故郷でも力自慢ではあったがそれとは比べ物にならない威力。溢れるエネルギーを身体能力の強化に使えば常人を超えた力を発揮できる。


しかし、相手は死体。動いている謎を突き止めない限り捕まえることはできない。


「時間稼ぎだ、僕は永遠に戦えるぞ!」


僕の力なら負けることはない。勝利条件を見つけるのは、探偵(・・)の仕事だ。



「任せて、ジャン君」



〜〜〜〜〜〜



最初は、触覚だった。─柔らかく暖かい感触、ベッドだ─

次に嗅覚。─嗅ぎ慣れたインクと紙の匂い、お気に入りの花の香水、私の部屋だ─

聴覚。─紙を捲る音、近くに誰かいる─

そして、視覚。─窓から差し込む光、まだ昼前だろう─


「霧裂き魔(ミスト・リッパー)は!?」


飛び起きて叫ぶ。使われていなかった喉を急に動かしたことで咽せてしまう。


『まずそれ?』

「パティ…」


読んでいた本を膝に置いて呆れ顔の彼女に説明を求めると普通に教えてくれた。


『あれから2日。今の所被害報告は無し』

「よかった…ジャン君達は?」


確かだいぶ大怪我を負っていたはず…


『ボス(ゲイル)は右腕を落とされて戦力半減、助手(ジャン)は…』

「ジャン君は!?」

『流石に胸に大穴はキツかったのか今朝まで寝込んでた』

「よかった…よかった?」


そのままスルーするには厳しい情報があった気がするが無事ならば良い。


「じゃあ、早く動かないと…」

『少し休んだら?動くにしても明日、百歩譲って夜からでいいと思うけど』

「もう2日休んでるの。霧の目が使えなくなってる今のうちに動かないと…!」


腕を使って無理やり立ち上がろうとした──なのに腕に力が入らない。


「早く解決しないと、いけないのに…!」

『なんで探偵(ジェーン)は異能事件の解決にこだわるの?』

「なんでって、私は『異能探偵』だから…」

『じゃあ、なんで異能探偵にこだわるの?』

「それ、は…」


言うつもりはなかった。なのに、動転していた私は思考のまとまらないまま口を開いていた。


「私は、『異能探偵』じゃないといけないの!私には師匠からもらったコレしかないの!コレが…『異能探偵』がないと私は…ジェーン・ドゥ(私)は正真正銘のジェーン・ドゥ(名無し)になっちゃう!」


私は意味もわからない言葉を発し続け、いつの間にかパトリシアに抱きしめられていた。


「だいじょうぶ」

「!」


一瞬誰の声なのかわからなかった。


「わたしたちは、じぇーんじゃないあなたをしらない」


「だけど、きょうまでのかつやくをしってる」


「げいるも、ゔぉるふも、それこそじゃんだって。あなたをななしだなんて思わない」


言い切ると、パトリシアは大きく咳き込んだ。


「パティ!」

『近づかないで』


私とは比べ物にならないような時間使っていなかった喉を、無理に動かしてくれた。その気持ちが、言葉が嬉しかった。


「パティ!…ジェーンも起きていたか。霧裂き魔(ミスト・リッパー)が暴れてる!」

「まだ昼前なのに!?急いで出ないと…!」

『今行っても足手まとい』

「でも!」

「大丈夫、ジャンくんが対応している。霧の異能を使えないなら逃げられることもない。負けることもないはずだ」

「ジャン君が…?」


だからと言ってベッドに寝たままではいられない。


「焦らないで。ここにいるのは非戦闘系の契約者二人に歩くこともままならない女一人、できることは少ない」

『その分急いでできることをする。できる?』

「っ、もちろん!」


壁に寄りかかりながらも、気合いで立ち上がった。


グレイ=ニル

出典:ヴァルハイム神話

同神話に登場する封神の鎖。予言された神々の王の死を覆すため、悪神を封印するために善良な妖精がその身を捧げて作り上げられた。

──神を人に堕とす力を神々は恐れ、かの妖精の献身に涙を流した。

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