不思議な部屋
「ついておいで」
アルビー先生の案内で、私は不思議な部屋に通された。
ネモフィラのような、小さな青い花々の花畑の、ど真ん中にあると思われる、小屋にある部屋だ。
小屋は、外見よりも内装が広いように感じられた。
小屋の外装は、赤い三角屋根が特徴の、木造の平屋で、小ぢんまりとしている。
だが、入ってみると、玄関から広々としていて、天井が高く、部屋がいくつもあった。
私は今、長くて真っ直ぐな廊下の、つきあたりの部屋にいる。
部屋に窓はなく、昼間でも薄暗いが、床が優しく光っているので、嫌な感じはしない。
「綺麗な床……。
模様が青く光ってる……」
床には、中心に、たくさんの小さなネモフィラの花模様があしらわれており、その周りを、桜の花模様が円形に規則的に配置され、更にその周囲をチューリップの花模様が飾っていた。
それぞれの花模様に、複雑な蔦模様が絡み合い、調和して、青白く光っている。
「ホッホッ。これは、魔法陣じゃ。
この陣に入って魔法を起動すると、決まった場所に移動することができるんじゃ」
「もしかして、この陣で、アルビー先生の家に帰ることができるんですか?」
「ホッホッ。正確には、わしの家のある地区の、これと似たような魔法陣のある場所に、移動できる」
「さて、説明はこのくらいにして、帰るとしようかの」
アルビー先生が先に魔法陣に入り、私にも魔法陣に入るように促した。
ゴクリ。
私は、唾を飲み込んだ。
(初めての経験……、怖い……)
私が一歩を踏み出せずにいると、アルビー先生は私に歩み寄り、左手を差し出し私の右手を握ってくれた。
(温かい……)
アルビー先生の手の温かさに、緊張が緩んできた。
(ようし、行くぞ!!)
私は、エイヤッと一歩を踏み出し、魔法陣の中へ入った。
アルビー先生も一歩踏み出し、手をつないだまま魔法陣の中央へ進んでいく。
私も、つられて魔法陣の中央へと、進んでいった。
「心の準備はいいかの?
わしの手を離すでないぞ」
アルビー先生は、そう言うと、左手で私の右手をしっかりと握ったまま、右手だけで合掌のポーズをとった。
アルビー先生の右手で、何かがキラリと光った。
アルビー先生の右手の薬指にはめてある、指輪だ。
魔法陣と同じように、青白く光っている。
「エリー、花の精エリスよ!
わが声に応え、先導せよ!!」
アルビー先生の低くて深みのある声が、響き渡った。
リ~ン、シャン。
鈴のような音がしたかと思うと、魔法陣が薄桃色に強く光り始めた。
アルビー先生の指輪も、薄桃色に強く光っている。
(眩しい……)
私は、あまりの眩しさに目をギュッと瞑った。
「着いたぞい」
アルビー先生が言った。
恐る恐る目を開くと、先ほどとは別の部屋に立っていた。
今いる部屋も、窓がなくて薄暗く、床に魔法陣が青白く光っているが、花柄の模様が違っている。
床の中央を彩っているのは、たくさんの小さな桜の花模様。
そして、その周りをチューリップの花模様が、更にその周囲をネモフィラの花模様が飾っている。
ふぅ。
私は、安堵のため息をついた。
「おやおや、緊張したかの。
どこも、痛いところはなかろうな?」
「はい。大丈夫です」
「よしよし。じゃあ、この部屋で待っておれ」
アルビー先生と私は、魔法陣の部屋を出て、テーブルと椅子の置いてある落ち着いた感じの部屋に移動した。
アルビー先生に勧められるまま腰掛けて待っている間、部屋の内装をじっくりと眺めた。
中央に鎮座するは、1脚の大きなラウンドテーブルと6脚のダイニングチェア。
テーブルも椅子も(加えて床も)木材はウォルナットで、深い色味に滑らかな木目がとても素敵だ。
テーブルの中央には、レースのテーブルセンターが敷かれ、その上に陶器の壺状の花器が飾られている。
花器は、白地に濃紺の水玉模様で、とてもキュートだ。
(この花器、ポーランドの陶器みたい)
花器に飾られている花はピンク、白、黄色のチューリップで、花器と花はお互いを引き立てあっている。
床には、絨毯が敷いてある。
この絨毯が、フカフカで足元が心地よい。
絨毯の模様も、ヴィンテージ風で素敵だ。
赤を基調とした暖色系ではあるが、白や濃紺の模様がアクセントとなって、落ち着いた感じになっている。
壁はクリーム色で明るさを演出している。
壁には、花の刺繡の入ったタペストリーがかかっている。
(カラフルでポップなタペストリー!!
凝っているなぁ)
とても素敵な部屋のインテリアに感心していると、アルビー先生が年配の女性を連れてきた。
「ローラ、この子がアイリじゃ」
アルビー先生が、私を紹介した。
「あ、桜宮 愛梨です。
愛梨と呼んでください」
私は、慌てて立ち上がり、自己紹介した。
「アイリーンちゃん?
はじめまして。
アルバートの妻の、フローラ・ガードナーです。
どうぞ、よろしくね」
フローラさんが、目を細めて優しく微笑んだ。
(すごく、優しそう。
頭に、白に近い銀髪を三つ編みにして、巻いているんだ。綺麗~。
でも、アイリーンちゃんって……。
名前を洋風に聞き取ったのかな?)
とまぁ、いろいろ考えていると、フローラさんが、両手で私の顔を包んだ。
「大変だったわね」
「あ……」
フローラさんのいたわるような声が身に染みて、顔を包んでくれている手の温かさに安堵して、涙が出てきた。
「私、帰りたいです」
「そうね。
一緒に、帰る方法を探しましょうね」
「フローラさん……」
「私の事は、ローラと呼んでね。
泣かないで。
きっと、大丈夫だから」
「ホッホッ。方法は、あるはずじゃ」
アルビー先生が、言った。




