第5話「初めてのシンクロ」
練習の日。スタジオではそれぞれが個人練習をしていた。俺は繰り返し何度もプレベのネックを抑える。シノは少し離れた場所でタムタムでリズムを取る練習をしていた。
「じゃあ、前回の続きからやるか」
月白がギターのチューニングを終えて言った。俺はアンプをベースに繋ぎ、シノもスティックを回す。
「『夜明けのリフレイン』、二番のサビから」
シノがスティックを打ち付けカウントが始まる。前回までは何度もここで崩れていた。俺のベースラインとシノのキックドラムがずれて、結局ストップを掛けて喧嘩になって終わりという繰り返しだった。
しかし今日は違った。
俺のベースが最初の音を刻んだ瞬間、シノの右足がキックペダルを踏み込む。二つの低音が重なり合い、スタジオの床を震わせた。
普段なら、俺は自分のリズムを押し通し、シノは我が道を行く。俺たちの音は衝突し、ぶつかり合って不協和音を生み出していた。
だが今回は、俺のベースラインがゆったりと流れ始めると、シノのハイハットがその波に乗るように細かく刻まれた。チッ、チッ、チッ——まるで俺の四弦の振動を数えるように、正確に、けれど機械的ではなく、微妙に前後に揺れながら。
二小節目。俺の指がネックを滑り、音程が上がる。その瞬間、シノのスネアが「パン」と鋭く入った。タイミングはぴったりではない——ほんの少し遅れて入ったその音が、逆に俺のベースを引き立てている。まるで会話をしているみたいに。
「おっ」
月白が思わず声を漏らした。チームの音がグルーヴを作り上げている。
サビに入る直前、俺のベースが一瞬だけ音を止める。その無音の瞬間に、シノのキックドラムが「ドン」と太い音を響かせた。まるで俺が投げたボールを、シノが完璧にキャッチしたような感覚。
そしてサビ。
俺のベースが力強く前に出ると、シノのドラム全体がそのエネルギーを受け止めるように爆発した。スネア、キック、タム——すべてが連動して、俺のベースラインを下から支え、上から包み込む。
俺たちの音は、もはや別々の楽器ではなかった。一つの巨大な楽器が脈動しているような、そんな一体感がスタジオを満たしていく。
月白のギターが加わると、その土台の上で自由に舞い踊った。俺とシノが築き上げた強固なリズムの城塞の上で、月白のメロディーが安心して羽ばたいている。
音が消えた後の静寂の中で、俺とシノの間に見えない糸が張られているのを、俺ははっきりと感じ取った。
「……なんだよ今の」
月白はギターを置いて、俺とシノを見つめた。
「お前ら何があったんだ? いきなりなんでそんなに合うようになったんだよ」
俺は額の汗をタオルで拭いながら、スタンドにベースを立てかけた。
「……秘密」
「は?」
シノも黙ったままスティックをくるくると回している。いつものような皮肉めいた表情はなく、どこか満足そうな顔をしていた。
「おい、なんか隠してるだろお前ら。まさか俺抜きで練習でも一緒にやったのか?」
月白は二人の顔を交互に見つめる。俺は月白から視線をそらし、シノは相変わらず無言だ。
月白は何かを確信したように手を打つ。
「……ひょっとしてお前ら付き合って……」
その瞬間、二人は声を揃えて叫んだ。
「ふざけんな!」
「なんでこんな奴と!」
被った。さっきの演奏以上に完璧なタイミングだった。
月白は苦笑いを浮かべながら手を叩いた。
「おう、よくわかった。とりあえず今日はいい感じだったから、この調子で最後まで通してみようぜ」
俺がシノを見ると互いに顔を合わせたが、シノは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。俺は再びベースに向かった。月白は嬉しそうだ。シノにも安心したような表情が浮かんでいた。俺も、少しだけ楽しくなってきていた。




