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第2話「ドラム・オーディション」

 対バンライブは散々な結果に終わった。途中から入れた外部ドラマーは、正確ではあるがメトロノームのような演奏。客席のリアクションは微妙で、演奏後の拍手もみんな義務的だった。椎名がいたスピーシーズであればあんなことにはならなかっただろう。

 俺はスマホでSNSをエゴサして、今回のライブの感想を漁ったけどどれもひどいもの。こいつなんて「スピーシーズ終わったな」なんて書いてやがる。

 喫茶店で向かいに座ってブラックでホットコーヒーを飲んでいる月白に、無言でスマホを滑らせてよこす。月白も無言でそのスマホで書かれていることを読むと一言だけ呟いた。

「リズム隊って大事なんだな」

 俺はそれを聞いて舌打ちをした。

 椎名が抜けてから、スタジオの空気も抜けたようになった。いつものように機材をセットして二人で音合わせを始めても、全然物足りない。月白のギターと俺のベースだけだと、音に厚みがないというか、なんというか、骨組みが見えすぎてスカスカだ。

「で、どうすんだよ。新しくドラム入れるんだろ? 当てはあるのかよ?」

 月白はスクロールしてたスマホを俺に返してくる。そして自分のスマホを引っ張り出して操作を始めた。

「コバ、ドラムオーディションやろう」

 そういうと月白はスマホの画面を向ける。

 画面には公式SNSの文面の下書きが書かれていた。そこにはこう書かれている。

『スピーシーズ、新メンバー(ドラムス)募集。詳細はDMまで』

 俺はソファーの背もたれに体重を預けて、天井を睨む。机の上のアイスカフェオレのグラスで氷がカランと音を立てる。

「椎名の代わりなんてそう簡単に見つかるのかよ?」

「やるしかないだろ。俺たちにはドラマーが必要だ。スピーシーズで成功するためには」

 チラリと月白の表情を窺う、どこまでも真摯で真面目な顔をしてる。

 ムカついてきた。こいつは椎名の代わりにどこの馬の骨とも知れないドラマーを入れるつもりだ。

「お前は、結局、スピーシーズをプロにするという夢を叶えたいだけだろ?」

 俺の言葉に、月白は眉をひそめた。

「それの何が悪い?」

 月白に顔を向けた。月白は真剣な眼差しで俺を見ている。

「俺は……俺はただ、今までのスピーシーズを守りたいんだよ」

 気がつくと、俺たちは全く違うことを考えていた。月白は未来しか見ていない。俺は過去にしがみついている。



 結局、月白がバンドの公式アカウントでドラマー募集の投稿をした。

 地元のバンド界隈では小さな話題になった。俺のスマホにも何人かの知り合いから「どうしたんだ?」というメッセージが届いた。椎名脱退のことを知っている奴らからは「大丈夫か?」という心配の声も。

 くだらねえ。応援してくれる人たちがいるのは嬉しいけど、同時に「もうスピーシーズは変わってしまったんだ」という現実を突きつけられる気分だ。


 ドラムオーディション当日。スタジオに着くと、すでに三人の候補者が待っていた。


 一人目は見た目からして変わり者で、ベレー帽をかぶりチェックのシャツを着て、椅子にまっすぐに姿勢を正して座っている。

 その見た目で俺たちは気圧されたが、月白は気を取り直したように言う。

 「それでは、まずドラムスの演奏を始めてください」

 「あー、僕ヒューマンビートボックスの方が得意なんですよね」

 「は?」

 月白と俺は顔を見合わせた。

「ドラムの音を口で再現するんです。こんな感じで」

 そいつは口でバスやスネアの音を真似し始めた。確かにめちゃくちゃ上手いけど、それドラムじゃねーだろ。

「……おい、普通にうまくないか?」

 月白の呟きに、俺は即座にかぶせた。

「いやいやいや! スピーシーズは口でリズム刻むバンドじゃねぇから! 飲み会の余興じゃねぇんだぞ!」

 それでもボイパ男は器用にフィルインをかましてきた。……妙にかっこいいのが腹立つ。


 二人目は逆にやる気が全く感じられなかった。

「とりあえずあんたら有名だから、ドラムやらせてよ。俺も有名になりたいし」

 演奏をさせてみると、席に座りチューニングすらせずにまず無気力に伸びをして、スティックは片手だけ鉛筆握り。演奏は初心者のそれだった。それでいて演奏が終わると「俺って有名になれますかね?」と尋ねてきやがった。

 こいつは何しに来たんだ? 音楽への情熱なんて微塵も感じられない。


 そして三人目。帽子を斜めに被った小柄な女の子だった。

「で、あんたらがスピーシーズ?」

 帽子をツバを後ろに回した女の子は俺たちを見回して鼻で笑った。

「思ってたより大したことないわね。YouTubeで見た時はもう少しマシかと思ったけど」

「は?」

 俺は思わず声を上げた。ナメてんのか?

「おい、初対面でいきなり失礼じゃねーか?」

 女の子は眉を釣り上げて返す。

「失礼も何も、事実でしょ。さっきの二人のオーディション見てたけど、あんな素人レベルと同じ扱いされるのは心外なのよ。私の時間返してよ」

 こいつ、マジでクソ生意気だな。履歴書を見ると、「東雲詩音(22)」とあった。年下のくせに何様のつもりだ。

「お前、年上に対する口の聞き方知らないのか? 俺たちの方が先輩だぞ」

「年功序列? おっさん臭いわね。実力で語れないの?」

 月白が慌てて間に入ろうとしたが、俺の我慢は限界だった。俺は無言で立ち上がり、入口のドアに歩いていく。

「ふざけんな! こんなのやってられるか!」

 俺はスタジオのドアを勢いよく蹴りを入れて外に飛び出した。

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