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第15話「プロデビュー」

熱気が押し寄せてくるステージから階段を降りてきて、楽屋通路を歩く。アドレナリンが尽きてきたのか、足首の痛みがどんどんと脳に伝わってくる。

控え室に戻った途端、俺は膝から崩れ落ちた。

「コバ!」

月白が駆け寄ってくる。

俺はタオルで汗を拭いながら、月白の肩を押し返す。

「大丈夫。アドレナリンが切れただけだ」

「お前、ちょっと足を見せてみろ」

月白は無理やり俺の足を取ると、ジーンズを捲り上げる。

包帯を解くと、足の患部は赤黒く腫れ上がっていた。空気に触れるだけで脳が痺れるような激痛が走る。

「まずいな……腫れている。折れてるかもしれない。氷取ってくる!」

月白は慌てて楽屋のドアを開けて、外に駆け出していく。

後ろで俺の様子を見ていたシノは、その表情は驚愕で目が見開かれている。

「何よこれ!足、もっと酷くなってるじゃない!こんなので演奏してた訳!?」

シノが俺の足を見て、激怒している。面倒なやつだ。

「こんなの大したことないだろ。ライブは成功したんだから」

シノは俺のそばまでくると胸ぐらを掴み上げる。

「大したことないっですって?」

シノの声が震えていた。その目には涙が溜まっていた。なんだこいつ。

「あんた、交通事故がどれだけ危険か分かってるの!?」

俺はそのシノの剣幕にぎょっとした。本気で俺のことを心配して泣いているのか?

「シノ……」

シノは涙をこぼしながら叫ぶ。

「私の兄貴も交通事故で死んだのよ!軽く考えてんじゃないわよ!」

俺は急に今まで自分が無理をしてたことが、恐ろしく感じた。もし、あの事故がもっと酷かったのなら、俺はここにはいなかったのかもしれない。

シノはポロポロと涙を落としながら、それでもかろうじて声を絞り出す。

「あんたが死んだら、スピーシーズはどうなるのよ!月白はどうなるのよ!あんたが死んだら私は……」

シノはそこまで言いかけて、顔を手で覆った。

「シノ……」

俺は初めて、シノがこんなに感情を見せるのを見たような気がする。普段はこいつは何を考えているのか分からないような顔で、いつも憎まれ口ばかり叩いてた。

だけど、こいつにとって、それだけ交通事故で誰かを失うというのは耐え難いことなのだろう。それだけ、事故で兄貴を失ったことがシノにとって大きな喪失だったんだ。

「ごめん。もう、こんな無茶はしない」

シノは拳で俺の肩を殴りつける。

「当たり前よ!もう二度とこんなことしないで!!」

その時、控え室のドアが大きな音を立てて開かれて、月白が駆け込んできた。

「おい、すごいことになったぞ」

月白はそう話しながらも、シノに氷が入ったコンビニの袋を手渡す。

俺は月白の様子をみて疑問を口にする。

「そんなに慌てて……何かあったのか?」

「いや、さっき楽屋の通路で大手の事務所の関係者の人たちと会ったんだが……」

楽屋のドアにノックの音が響き渡る。月白は慌てて振り返ってドアを開けた。

そこには、先ほどまでライブ会場の前席に座っていた音楽事務所の業界関係者の人が立っていた。

「スピーシーズの皆さん。お疲れさまでした。大変素晴らしいライブでした」

俺は床にへたり込みながらも頭を下げる。シノですら立ち上がって帽子を脱いだ。

腰の低いその男性は、懐から名刺入れを取り出し、三人に名刺を配り始める。受け取った名刺は黒いプラスチックに金文字で名前と会社名が箔押しされていた。

「今回、弊社の事業企画部から打診がありまして、スピーシーズさんの実力を試すためにこちらのライブハウスで単独ライブを企画させてもらったのですが、チケットの販売も好調で、ライブ直後のSNSでの反響も素晴らしいものになってます」

そこまでいうと男は言葉を切って、持っていた書類入れから一枚のクリアファイルを取り出す。

「つきましては契約書につきましては後日になりますが、専属契約について、検討していただけませんか?」

月白はしずしずとそのクリアファイルを受け取った。そして頭を下げて一言だけ言葉を言う。

「分かりました。後日また、本社の方に伺わせていただきます」

俺とシノは黙って顔を見合わせた。ついに、この時が来たんだ。

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