第10話「公園のベンチにて」
俺たちは歩きながら罵り合った。通行人が通りすがりに振り返って見ていくが、もうどうでもよかった。
「……暑いな。クソ暑い」
「……そうね。イライラして余計暑いわ」
俺たちは路地の真ん中で立ち止まり、お互いに道路にへたり込んだ。午後とはいえ太陽は相変わらず照らしており、俺は汗を垂れ流している。シノの方を見ても暑そうにうなだれて肩で息をしてる。
「何か飲み物買うか」
「あんたと一緒に買い物なんてしたくないけど」
「俺だってしたくねーよ」
近くのコンビニに入ると、シノもなぜかついてきた。俺はアイスコーヒーを手に取ったが、むしゃくしゃしてアイスクリームコーナーに向かった。ハーゲンダッツのピスタチオを取る。
レジに向かうと、ばったり出くわしたシノも同じハーゲンダッツを持っている。
「チッ、かぶった」
「最悪。あんたと同じもの食べるなんて気分悪い」
「それはこっちのセリフだ」
俺たちはレジに並んで無言で会計を済ませて外に出た。
「で、どこで食うんだよ」
「知らないわよ。一人で食べなさいよ」
「お前もだろ」
そう言いながら、シノは近くの公園の方に歩いて行く。なんで俺は全く同じ方向に歩いてるんだ。
俺は黙って公園の奥の方にあるベンチに座ろうとした、するとなぜかシノも同じ方向に歩いている。
「おい、他のベンチ座れよ」
「あんたが他行きなさいよ。私の方が先に来たんだから」
「どこが先だよ」
「どう見ても私でしょ!」
俺は無理やりそのベンチの端の方に座った。するとシノはそっぽを向きながら反対側のベンチの端に座る。
俺たちはお互いに反対向きの方向を向いていた。二人の間に全く会話がない。黙って二人でベンチに並んで座っているのも、お互いが意識してるみたいで癪だ。
「……で、他のバンドはどうなんだよ」
俺が沈黙に耐えかねて無愛想に聞くと、シノは鼻で笑った。
「あんたたちよりマシよ。ちゃんとしたバンドばっかり」
「ふーん、そりゃ良かったな」
「そうよ。あんたたちなんて最初から期待してないし」
ムカつく。でも、なぜか続けて聞いてしまう。
「じゃあなんでまだうちにいるんだよ」
「……暇だからよ」
「暇って何だよそれ」
「他のバンド、上手いけどつまんないのよ。教科書通りすぎて」
「は?」
「あんたたちは下手だけど、変なところがあるじゃない。予想できないっていうか」
なんだそれ。褒められてるのか?
「でも、あんたのベースは本当にダメね。もっと練習しなさいよ」
全言撤回。やっぱこいつはムカつく。
「うるせー。お前のドラムだって音でかすぎなんだよ」
「音量で負けるのが悪いのよ。迫力不足」
「迫力不足? ふざけんな」
俺たちはアイスを食べながら文句を言い合った。それでも、なぜかシノもベンチを立とうとはしない。俺も負けるのが嫌で立たなかった。
「あんたたち、本気でプロ目指してるの? まあ無理だと思うけど」
「ああ、本気だよ。お前みたいな奴に言われたくないけどな」
「私みたいな奴?上等ね。なら私も本気で叩き潰してあげるわ」
シノと俺は向き合って睨み合う。
「やってみろよ」
「やってやるわよ」
俺はアイスを食べながら、イライラしてそっぽを向いた。シノも同じように反対側を向く。
シノは黙って向こうを向いてアイスを食べている。不機嫌そうな背中のまま。
「あー、もうこんな時間か。無駄な時間だったわ」
俺は時計を見た。もう5時を回っている。
「俺さっさと帰るわ」
シノも立ち上がって、アイスの容器を乱暴にゴミ箱に捨てた。
「ああ。もう顔も見たくねー」
「こっちのセリフよ」
「……明日の練習、サボるなよ」
「うるさいわね、あんたこそ遅刻すんじゃないわよ」
シノは俺を睨みつけながら、駅の方向に歩いて行った。俺もその場を立ち上がって、逆方向に歩き始める。
「チッ、またな」
俺が悪態をつくと、シノは振り返らずに中指を立てた。
最悪な奴だ。でも、なんだか悪くない時間だった気もする。一応時間も潰せたし。
まぁ、あいつ顔だけはいいよなって、何考えてんだ俺は。




