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第8話 ジュニアアカデミー

四月になり、桜の木が満開になった。


「リュウ似合ってる〜!可愛い〜!」


母さんが鏡の前で俺に子供用のスーツを着せてくれた。

そういう母さんも綺麗な服に身を包み、オシャレしている。


そんな今日は、俺の"西部ジュニアアカデミー"への入学式だ。

この世界では数え年で7歳になると、学校に通うようになるらしい。


「あなたも着替え終わった〜?」


「ごめん髪型が決まらなくて!!」


「もう時間ないわよ!?」


母さんが父さんを手伝いに行く。


しばらくして、母さんとスーツ姿の父さんが部屋から出てきた。

頭を掻きながら照れ笑いを浮かべるその姿は、普段の頼りなさは拭えないにしても、そこらのモブとは一線を画したカッコ良さがあった。


「早く出ないと遅れちゃうわ!!」


俺達はバタバタしながら急いでワープゲートを起動させ、最速で座標を設定して学校に向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一瞬にして目的の学校まで到着する。

その学校は俺が思ってた3倍はデカく、桜並木や生い茂る芝生に公園とは比べ物にならない程広い校庭もあった。

しかし、そんな壮大な校舎に見とれる暇もなく、俺達は一直線に体育館まで走っていった。

体育館に着くと、その時点で開会式1分前だった。

超ギリギリだ。

俺は急いで指定された生徒用の席に座った。

俺が額の汗を手の甲で拭い、ふぅっと一息つくと隣から突然、


「あっ!流聖!」


聞き覚えのある声がした。

横を向くと、それは綾羽だった。

綾羽とはあれから更に仲良くなり、今でもほぼ毎日遊んでいる。

まさか隣にいたとは。


「綾羽!お前、同じ学校なの!?」


「そりゃそうでしょ。私達同じ町に住んでるんだし。」


言われてみればそりゃそうだ。

とりあえず、知り合いが居るってだけでどこか安心する。


「皆さん静かにしてください。」


突然、壇上の偉そうな人が話し始める。


「起立。」


「えー、今から西部ジュニアアカデミー入学式を開式します。」


「気を付け。」


「礼。」


「「よろしくお願いします!!」」


入学生全員が一斉に挨拶する。

俺も頭は下げた。


「着席。」


全員が一斉に座る。

すると、偉そうな人が


「ん"う"ん」


咳払いをして話し始める。


「えー、皆さんおはようございます。」


「「おはようございます!!」」


「えー、私はこのアカデミーの校長"石田(いしだ) 雅仁(まさひと)"といいます。皆さんがね、我が西部ジュニアアカデミーへ入学されたことを、とても喜ばしく思っています。えー、我がアカデミーの歴史は今から…」


こういう話は退屈な上に、無駄に長いと分かってるので適当に聞き流すことにする。


十数分後…


「という訳で、私は海より山派、目玉焼きには醤油派なのです。えー、これで私からの挨拶を終わります。」


校長の、意味が無いなんてレベルじゃない話が終わった。

ちなみに綾羽は熟睡中だ。


「続いては、アカデミー内総合成績1位の"九十九ヶ崎(つくもがさき) (しゅう)"君から入学生への言葉です。」


まだ長い話があるらしい。

しかし、壇上に登った生徒を見て俺は驚いた。

一目見ただけで分かる。

父さんにボコされたあの男よりは下だが、明らかに今の俺より強い。

魔法やらスキルを使えばどうかは分からないが、体から溢れる強者感だけで言えば、目を見張るものがある。

子供が出すオーラとは思えない。

綾羽の方を見ると、先程までの状態が嘘のように背筋を伸ばして真剣に座っていた。


「皆さん、頑張って下さい。以上です。」


超がつくほど短かったが、不思議と惹き込まれた。

カリスマ性という奴なのだろうか。

そして、俺はこの時確信した。

この学校は絶対面白いことが起こると。


その後は何事も無く式が終了した。


「起立。」


「これで、入学式を閉式します。」


「気を付け。」


「礼。」


「「ありがとうございました!!」」


ざわざわざわ…


式から解放された瞬間に、入学生達が一斉に喋り始めた。


「ねぇねぇー流聖。」


「どうした?」


俺達も例外じゃない。


「これから一緒に写真撮らない?」


「写真?いいけど。」


「やったー!じゃあ校門前で待ってるね!」


綾羽が駆けながら、俺に向けて手を振る。

この世界に来て写真というものは知っていたが、友達を誘って一緒に撮るという行為もあるのか。

そんな事を考えながら、俺は両親の元へ歩いて行く。


「ねぇねぇー母さん。綾羽が一緒に校門で写真撮ろって。」


「まぁ良いわね!綾羽ちゃんのご両親にも挨拶したいし、もちろん大歓迎よ!」


「いいね。僕も賛成だよ。」


どっちもノリノリのようだ。

俺達は体育館を出て、校門を目指した。

その途中、


ドッ


前から来ていた子と肩がぶつかった。


「あっ、ごめんなさい。」


俺がすぐに謝ると、


「あ?…チッ」


父さんの顔を見るなり、謝りもせず素通りして行った。


「リュウ大丈夫か?」


「全然大丈夫。」


「何よ、感じ悪いわね。」


確かに感じは悪かった。

だが、別に気に留めることもない。

俺はそのまま校門へと歩みを進める。


「あっ!流聖〜!!こっちこっち〜!!」


綾羽が手を大きく振りながら俺達を呼ぶ。

そして、俺達が校門に近づくと、


「こんにちは〜、いつもウチの流聖がお世話になってます。」


「いえいえこちらこそ。」


互いの母親が挨拶を始める。


「もうママ!そういうのいいから早く撮ろ!!」


綾羽が急かす。


「はいはい分かりました。」


俺達は入学式の立て看板の前に並ぶ。

もちろんポーズはピースだ。


「じゃあ良いですか!目線向けて下さいね〜!」


綾羽のお父さんが三脚にスマホを構え、走って並びに加わる。


パシャッ


シャッターの音が鳴る。


これからこのアカデミーで更に面白いことがたくさん起こるだろう。

この世界に来て楽しい事がありっぱなしだ。

マギア(あいつ)には悪いが、俺はこの楽しい世界が大好きだ。

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