第6話 親友(ファーストフレンド)
俺が生まれて6年と6ヶ月が経過した。
あれからほぼ毎日魔法の練習を続け、初級魔法と中級魔法は無詠唱で完璧にマスターした。
上級魔法はまだ十分に魔力が貯まっていないのと、方向性のイメージの難しさから、万全の状態であっても詠唱ありで一日4発が限界だ。
上級魔法は、あまりの威力に雑木林の一部が消し飛び、危うく大事件になるところだった。
ちなみに魔力切れの理由だが、どうやら魔法を発動する際に、余分な魔力を放出し過ぎていた事が原因らしい。
最近は上級魔法の練習と共に、使う魔力の調節も同時に行っている。
ということで、今からその練習を行うところだ。
例の一件もあって、上級魔法を放つ際は空に向けて撃つようにしている。
空なら林が爆発することもない。
上級魔法の練習は比較的簡単だ。
問題は、魔力の調節だ。
これは頭でイメージしてどうにかなる話ではない。
本来魔力は、魔法を使う時の詠唱によって自動で適切な量が体外に出てくる。
スキルも同じ要領だ。
しかし無詠唱魔法は、詠唱を用いず頭で方向性をイメージする分、魔力の調節も自分でしなくてはならない。
前世では、ある程度魔力が貯まった10歳くらいからスキルを使い始めたから、魔力量を気にせずに割とバンバン撃っていた。
だから、魔力の調節というのを知らなかった俺にとって、この操作はとても難しい。
まぁそれでも、最初の頃に比べれば四割くらいは抑えられているだろう。
それでは、一度その練習を見せよう。
空に向けて手を伸ばし、魔力を調節しながら詠唱を短縮して行う。
「空は黒!光は白!天まで轟く雷鳴と共に愚かなる者を穿ち撃滅せよ!ブリッツ!!」
すると、手から眩い光が放たれる。
この魔法は雷魔法だ。
手から放たれる雷撃が、速すぎて認識すら出来ないので光が放たれただけに見えるのだ。
そして、これをあと3回続ける。
すると突然
ガサガサッ
俺の右にある背の低い木が微かに揺れた。
間違いなくそこに誰かいる。
これが動物ならいいんだが、もし人間だったら今の魔法を見られたことになる。
それだけは無いと願いたい。
こんな小さな男の子が手から厳つい雷を放ったんだ。
とても周りに黙っていられる事じゃないだろう。
俺は音の鳴った木を凝視する。
すると、さらに
ザワザワッ
と木が揺れて、ゆっくりと少女が出てくる。
歳は俺と同じくらいだろうか。
ひとまず、面倒くさそうな大人じゃなくて安心した。
「君はだ…」
「い、今の凄ぉい!!手から光が出て、空に消えてった!!どうやったの!!教えて教えて!!」
俺が問いかけるより速く少女が口を開いた。
その目は無邪気にキラキラと輝いていた。
俺はその眼差しに少し押されながらも、話を返す。
「今のは俺のギフトだよ。今はギフトの練習をしてるんだ。」
流石に今のは魔法だよとは言えない。
「凄ぉい!!その練習見ててもいい?」
言われると思った。
これぐらいの子供は全てのものに興味を持つ年頃だ。
まぁ、見られたからといってギフトと説明しているから大した事にはならないだろう。
「いいよ。あと3回練習するからしっかり見ててね。」
「うん!しっかり見てる!」
そう言いながら、少女は親指と人差し指で目を思いっきり開いた。
そこまでしなくていいんだけどな。
俺は手を前に突き出し、詠唱を唱える。
「煉獄より出でし業火よ!一片の灰塵すら残さず我に仇なす者を焼き尽くせ!ヘルフレイム!!」
掌から炎が吹き出し、その炎が纏まるように小さく圧縮され、紅蓮の火球が生成される。
その火球が存在するだけで周りの気温が急激に上がる。
そして手を空に伸ばし、その火球を放つ。
すると火球が上空で爆ぜ、雲の一部が消し飛んだ。
俺はふぅっと息を吐き、体をリラックスさせる。
少女の方に目をやると、また目を輝かせていた。
「ねぇねぇ。もしかして、君が噂の精霊さんなの?」
「噂?」
「知らないの?ここの雑木林、少し前から精霊さんが出るって近所で噂になってるんだよ。まるで魔法みたいなんだって!」
魔法という言葉に少し体がビクッとした。
俺の練習が他人に見えていたなんて…、まぁそりゃバレるよね。
でも精霊か…。
この世界にも精霊がいるのか。
だとしたら、小さい頃の怪獣と言いこの世界は前の世界とそこまで生物に違いは無いのか?
この世界に来てから考えることが多すぎる。
「精霊さん!次の魔法も見せてよ!」
「俺は精霊じゃなくて人間だよ。それにこれは俺のギフトなんだからね。魔法じゃないよ。」
少女の発言を訂正しながらも、俺は次の魔法の準備に入る。
「容赦なき氷の牙!地から湧き上がるは凍てつく結晶!彼の者に知らしめるは己の無力!フロストバイト!!」
地面に魔法陣が出現し、そこから凄まじい勢いで氷が湧き出す。
「わぁ〜、きれ〜い。」
少女は透き通った氷の結晶に見惚れていた。
「ねぇねぇ!これからも練習見に来ても良い?」
「いいよ。」
「ほんと!?じゃあ、せっかくだし名前覚えたい!」
「そうだね。俺の名前は星小路流聖。」
「私は月城綾羽。よろしくね!」
この時俺は、後に一生の仲になる親友と出会った。
次回は、流聖が使う魔法の種類一覧です。
お楽しみに!