第5話 試し撃ち
俺が生まれて5年と3ヶ月が経過し、ようやく体内の魔力量が安定してきた。
突然だが、5歳になった時からお母さんお父さん呼びはやめた。
今は、両親のことを母さんと父さんと呼んでいる。
俺の元の両親への呼び方が母さんと父さんだったからだ。
さて、5歳になってから走れるようにもなり、かなりしっかりと発声できるようになって大人との会話もなんのそのだ。
1歳半頃、試しにパパとママを言った時の両親の顔といったら凄かった。
お母さんは喜びで頭がフリーズしているのが一目で分かり、お父さんに至っては泣きそうになっていた。
ちなみにママが先だ。
ほんとに子供想いな良い親だ。
話は変わるが、今日の予定は一人で外に出てみようと思う。
歩きも走りもできるようになった俺には聞こえる。
早く冒険に出なさいという神様の声が…。
前までは、親に抱っこされて外観を見ることしか出来なくて自由度が低かった。
でも、今は自分の足で自由に歩いて回れる。
商店街に並ぶ店の数々、家の近くにある雑木林、子供達が揃って遊ぶ公園、気になる場所ばかりだ。
まぁ、今回用があるのは雑木林だけだけどな。
ということで、早速父さんに交渉してみようと思う。
「ねぇ父さん?お外で遊んで来てもいい?」
父さんの足に抱きつき、うるうるした目で上目遣いをして、甘えた声で懇願する。
なかなか神がかった芝居だ。
「え?い、いやぁやっぱり一人は危ないよ。」
一目で分かる。
内側から溢れ出る可愛いッ!!という感情を抑えきれていない。
もう一息だ。
「別にいいんじゃない?子供には旅をさせるものよ。」
俺がもう一言言いかけた瞬間、母さんが前向きな発言をした。
意外だった。
母さんはてっきり猛反対すると思って父さんに頼んだが、まさか母さんが賛成するとは。
「そう?それならいいんじゃないかな〜。」
母さんの後押しで父さんも賛成した。
なんとも頼りない。
まぁともかく許可が降りたんだ。
思う存分あれを試せる。
とてもワクワクしてきた。
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数分後、俺は他のものに目もくれずにまっすぐ雑木林に着いた。
ここだと人目を気にせず存分に魔法が撃てる。
店だとか公園だとかはどうでもいい。
俺は魔法の実験をする為だけに、外出許可を得たのだ。
数年前から、早く試したくて試したくてたまらなかった。
気付いたら、記憶の中で魔導書を上級まで読み終わってしまった。
数年間学び続けた魔法が、今初めて撃てる。
これで俺も魔法使いだ。
ということで、早速初級魔法から試してみよう。
まずは炎魔法から撃ってみる。
そういえば詠唱って、こっちの世界の言葉でも良いのか?
まぁ試してみれば分かるか。
俺はフーッと息を吐き、片手を突き出して掌に魔力を集中する。
「焦熱の炎よ、我が意思により顕現したまえ、フレイム。」
次の瞬間、掌に炎の塊?が出現した。
でもおかしい、"フレイム"は炎を飛ばす魔法だったはず。
俺のはただ炎が出現するだけで、一向に飛んでいく気配がない。
俺には魔法の才能がないのか?
それとも、飛ばすためにまだ何かしなければいけないとか?
試しに、魔力の塊を掌から飛ばすイメージで力を入れてみる。
すると、炎が勢い良く目の前の木に向かって飛んで行き、見事に木が燃えた。
よし、成功だ。
でも燃えたままだと流石にまずいので、このまま水の初級魔法も試してみよう。
「清澄な純水よ、我が意思により顕現したまえ、ウォーター。」
水の塊が出現した。
それを燃えている部分目掛けて撃ち出す。
すると、炎が水と相殺されて消えた。
その後も風や雷、土に氷、光など様々な初級魔法を試していった。
そして、魔法について解ったことがある。
恐らく魔法というものは、体内の魔力そのものを炎や水などに変化させる技術なのだろう。
詠唱は、変化させる方向性を決める為のものだと思う。
きっと、スキルが使えない昔の者達が、シンプルな魔力だけでどう戦えるか創意工夫をしていった努力の結晶なのだろう。
魔法の仕組みも理解できたことだし、次は無詠唱魔法に挑戦してみようと思う。
いちいち詠唱していたら、戦いでの隙が大きすぎる。
だから、俺のスキルの代わりに魔法を使うとなると、無詠唱の方が圧倒的に都合が良いのだ。
ということで、早速炎魔法で試してみよう。
まぁ簡単に言ってみたが、教わる事が出来ないので勘でやっていくしかない。
とりあえず、方向性を詠唱ではなく頭の中のイメージで決めてみよう。
それから、そのイメージをそのまま写す感覚で魔力の性質を変える。
すると、小さな火球が掌に六つ出現した。
よし、イメージ通りの魔法が出せた。
まさかいきなり出来るとは思わなかったが、これで魔法が戦闘に使える。
さて、無詠唱も無事出来た事だし、今日は魔力が切れそうだからこの辺で帰るとしよう。
でもこの歳とはいえ、魔力切れが少し早いような気がする。
まだまだ改善の余地がありそうだ。