第1話 英雄の死
魔王城の正門前。
「撃てぇ!撃てぇ!!」
大勢の魔法使い達が一斉に色々な魔法を連射する。
その魔法が巨大な四足歩行の悪魔に直撃するが、明らかに効いてるようには見えない。
「なっ!全然効いてない…!!」
悪魔は数々の魔法攻撃をものともせず、兵士や魔法使い達に向かって巨大な腕を一振りする。
「ぐわぁぁぁ!!!」
兵士や魔法使い達は軽々とその攻撃で吹き飛ばされる。
「無理だ…。次元が違いすぎる…。」
兵士や魔法使い達は一瞬にして戦意を喪失しかける。
その時、後方から巨大な蒼炎の火球が放たれ、悪魔に直撃した瞬間巨大な爆発が起き、大ダメージを食らわせる。
次の瞬間、誰かが悪魔に向かって勢い良く飛翔し、聖剣で悪魔の首を両断する。
そして、2人の青年が倒れゆく悪魔の前に佇む。
「ふぅ〜。終わったか。」
そう言いながら片方が自分の魔法使いの帽子をクイッと上げる。
「まだ油断は出来ないけどね。」
もう片方が聖剣を鞘に収める。
「あ、貴方がたは!魔法の英雄マギア様と剣の英雄グラディウス様!!」
一人の兵士が言い放つ。
「スゲェ!本物の英雄だ!!」
「あれが英雄の力!!」
「俺達の英雄こそが最強だ!!」
あれほど絶望的だった状況が一瞬にして希望に塗り替えられる。
「それじゃあ、みんなで門開けちゃって〜。」
マギアが兵士達に指示を出す。
兵士達は力を合わせて門をゆっくり開いていく。
しかしその時、グラディウスが何かを察知する。
「マギア!!危ない!!」
そして、グラディウスが駆けてマギアを突き飛ばす。
次の瞬間、グラディウスの心臓を光線が貫き、前から倒れてしまう。
「グラディウス!!」
マギアがそう叫び、グラディウスに駆け寄る。
光線を放ったのは魔王だった。
「魔王…!!なぜこんなところに…!!」
マギアが驚愕した表情で魔王を見る。
「不意打ちを仕掛けるなど戦闘の基本であろう。」
魔王が凄まじい圧のある声で話す。
「マジか…。ごめん、見事にやられた…。多分もう助からないわ…。」
グラディウスがマギアに向けて声を絞り出す。
その意識は、既に消えかかっていた。
「そんなわけない!!俺達はどんな状況でも乗り越えて来たじゃないか!!」
マギアが涙を浮かべながら必死で話す。
「今回ばかりは無理そうだ…。マギア、お前との冒険…最高に楽しかった…。出来ればもっとお前と世界を旅したかった…。後は…任……せた……ぞ………。」
グラディウスの意識は完全に消え、視界が暗く染まる。
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突如、真っ暗な俺の視界に眩い光が溢れる。
もう天国なのか。
意外と近いんだな。
俺は光が気になってゆっくり目を開ける。
するとそこに変な服装をした数人の女性が立っていて、揃って俺を覗き込んでいた。
天使か?
随分イメージと違うな。
「わぁ!可愛い子ですね!」
俺可愛いか?
自分で言うのもなんだが、どっちかと言えば俺はかっこいい系だと思う。
まぁ天使様から見れば人間の俺なんて、可愛い系なのかも知れない。
まぁ後はマギアに任せて、俺は天国を満喫するか。
俺は上半身を起こそうと腹に軽く力を込める。
あれ?
しかし、身体は動かず少しも起き上がれない。
更に踏ん張るが、力もまともに入らない。
まさかとは思うが、天国で後遺症が残るなんて考えただけでも恐ろしい。
だが幸い、手足に力は入りそうだったのでおもいっきり手を伸ばすことにした。
すると目の前には、肉付きがよく短い可愛らしい手が映った。
え?
俺は思考が止まった。
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あれから少しして、俺は2人の男女に抱きかかえられた。
「君が私達の子か〜。」
女性の方はとんでもない美人で、その微笑みは回復魔法を放っているようだった。
多分、聖母マリアは彼女のことだろう。
「よ〜しよし。パパですよ〜。」
男性の方はどこか頼りなさそうだったが、底知れない優しさを感じた。
二人とも若く同い年に見えるので関係的には破綻するが、彼はキリストの心を持っているだろう。
まだ赤ちゃんという事実を飲み込めてはいないが、これからじっくりと状況を理解して行くとしよう。