瞬間
時間が過ぎる中で、僕はますますその場に縛られていった。毎日が同じことの繰り返しで、何も新しいことは起こらなかった。大学に行き、バイトをし、家に帰る。その流れの中で、僕という存在がどんどん消えていくのを感じていた。自分が何をしているのか、何を目指しているのかさえも分からなくなっていた。
その日も、大学の帰り道でふと気づいた。僕の周りにいる人たちは、みんな何かを持っているように見える。希望だったり、目標だったり、未来への意欲だったり。だけど僕にはそれがなかった。何もかもが虚しく、空っぽに思えた。
駅のホームで、再びあの人を見かけた。あの明るい同級生が、友達と楽しそうに話している。彼が何をしているか、どうしているかなんて、僕には関係ないはずなのに、その姿を見てまた胸が締めつけられるような気がした。何もかもが上手くいっているように見える。なのに僕は、何一つ手に入れられない。心の中で、ただ一人だけ取り残されているような気がする。
その夜、また部屋に帰ると、テレビをつけてみた。映し出されるのは、無関心なニュースや、輝かしい成功を収めた人々の話ばかりだ。そんなものを見ていると、自分の存在がますます無意味に感じる。僕は何のために生きているのか、何をしているのか。それすらも分からなくなってきた。
バイトから帰った夜も、部屋は静かだった。いつものように煙草を取り出し、火をつける。煙が僕を包み込み、少しだけ気が紛れる。そのとき、ふと見たスマホの画面に、過去の友人からのメッセージが表示された。
「元気? 久しぶりに会おうよ。」
何も考えずにそのメッセージを開く。かつて一緒に遊んでいた友達だ。あの頃の僕は、まだ何かを夢見ていたような気がする。あの頃の自分を思い出すと、なんとなく懐かしい気持ちが湧いてくる。だけど、今の僕にはその気持ちがどこか遠い世界のものに思える。何を話しても、どうせ空疎な言葉が交わされるだけだろう。会いたい気持ちはあったが、その後どうすればいいのか、何を話せばいいのかがわからなかった。
しばらく考えた後、僕はそのメッセージに返信するのをやめた。結局、誰にも会わない。話さない。何も変わらない。そんな感覚が胸に重く広がる。
夜、またひとりきりの部屋。煙草の煙をゆっくりと吐き出しながら、僕は無意識に思った。もう、何も変わらないのではないか。何をしても、どこへ行っても、僕には意味がないのではないか。
その瞬間、突然、強烈な空虚感が胸を突き刺す。僕はひとりでどこへ向かっているのだろうか。何も手に入らないまま、ただ時間が過ぎていく。そのことが耐え難いほどに苦しく、どうしようもなく悲しく感じる。何かを手に入れたい、何かを変えたい。だけど、それをどうすればいいのか、もうわからない。
その時、突然、ノックの音が聞こえた。心臓が跳ねる。誰かが来たのか? そんなことは考えたこともなかった。部屋に来るなんて、誰もいないと思っていた。僕は立ち上がり、ドアに向かって歩く。誰だろうか、こんな時間に。
ドアを開けると、そこにはまったく予想していなかった顔が立っていた。それは、大学の講師だった。彼は、数週間前に僕に「課題が遅れている」と注意をしてきた人物だった。
「ちょっと、話があるんだけど。」
彼は少し困った顔をして、そう言った。どうしてこんな夜に? なぜ僕の部屋を訪ねてきたのか、僕にはわからなかった。