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火のない部屋

 深夜、部屋の空気は重く、煙草の煙が漂っている。狭く、薄暗いアパートの一室。窓の外の街灯が、微かな光を放っているが、その光さえも僕にはどこか遠く、冷たく感じる。まるで世界と切り離されたように、僕はただここにいる。


 ベッドに腰掛け、煙草を取り出して火をつける。吸い込んだ煙が肺に染み込み、少しだけ心が落ち着く気がしたが、すぐにその感覚も消えてしまう。煙草を吐き出すと、煙が空気の中に溶けていく。蛍光灯の薄暗い光が天井に反射し、部屋を青白く照らしている。静寂だけが支配する中、テレビはただの砂嵐を映し続けている。その音さえも、どこか遠くから響いてくるように感じる。


 灰皿に落ちる煙草の灰が、乾いた音を立てる。僕はそれを見つめることすらせず、無意識にもう一度煙を吸い込んだ。煙が喉を通ると、わずかな刺激が身体を通り抜けるが、心の奥底にあったものは消えない。まるで、何もかもが無駄であるかのように、ただ時間が過ぎていく。


「何がしたいんだろう…」


 その言葉が口からこぼれた。吐き出した煙と共に、空気の中で消えていく。大学に行き、バイトもしている。誰かと話しても、どれも表面だけの言葉で、何の意味もない。人とつながることができないことが、僕にはよくわかっている。それでも、どうしても言葉を交わさなければならない。だが、どこかでそれすらも無意味だと思っている。


 煙草を片手に、僕はベッドに横になった。薄い空気の中で、少しの音もない。時間だけが無情に流れていく。過去の記憶が、どこか遥か遠くに感じられる。あの頃、何かを目指していたような気がするけど、それが何だったのかも、今となっては思い出せない。まるで、昨日のことさえも、他人の話のように感じる。自分がかつて持っていたはずの情熱や夢、希望。それがどこに消えたのか、思い出すことすらできない。


 僕は目を閉じ、頭の中で何かを探そうとした。でも、見つけられるものは何もなかった。空を見上げたところで、そこにはただの闇が広がっている。星も月も見えない。暗闇が、静かに僕を飲み込んでいく。


「どうして、こんなにも遠いんだろう。」


 その言葉が、無意識に僕の口からこぼれた。あの夢は、もう遥か遠く、まるで他人の話のようだ。僕が手に入れようとしたもの、それが一体何だったのかもわからない。心の中の重たい何かが、静かに広がっていく。消えることなく、ただ、沈んでいく。


 部屋の中は、さらに静けさを増していく。何も変わらない。煙草をもう一本取り出し、再び火をつける。煙が空中に溶けていくのを見つめながら、僕はぼんやりと考える。明日も、何も変わらないだろう。いや、変わるわけがない。僕は、今もずっとここにいる。

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