表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

明度1

 わが水沢家のトイレには有名なサッカー選手のポスターが貼られている。


僕がまだ幼稚園児だったころ、泥酔したお父さんが見事なヘディングで便座正面の壁を陥没させ、あわてて貼られたものらしい。(ちなみに10年以上たつ今でも天然のお母さんは気付いていない)


そのサッカー選手はイギータというキーパーで、ボールに向かってスーパーマンの様に飛んでゆき、曲げた足のかかとでボールを弾き返すという神がかり的なセーブをすることで有名だ。


そのイギータの「サソリセーブ」を友達の小西に話すと「おれ、やってみる!」と言いだした。


体育のサッカーの授業、PK戦までもつれ込んだ緊張の瞬間。


小太りで走るのが遅いからキーパーになっていた小西は鋭く撃たれたボールに文字どおり飛んでいった。


ザシュウウッ!


ゴールネットに突き刺さったボールの前に腹から着地した小西がシャチホコの様に足を反らせ、鎮座していた。


しかも揺れている。腹の肉のせいでかすかに揺れている。


その後体育教師も大爆笑の渦に巻き込んで授業を続行不能にした小西はけっこう人気者だ。サッカー部の友達がたくさんできたらしい。


「記録には残らないけど記憶に残る試合をした。とか言ってるんだぜ小西!パクりじゃねーか!」


「ふふ…」


まや姉はかすかに笑う。枕元のスタンドだけの薄明るい部屋で、僕は椅子に、まや姉はベッドに腰掛けている。

バニラのお香がふんわり漂って家の外の暗闇に逃げていった。


「まや姉飯食べてないだろ?」

「食べたよ…もう寝なあんた。11時だよ」


僕がドアに向かうとまや姉は横たわった。


気付かれないように、僕は素早く何回もまばたきを繰り返した。カメラの連続写真の要領で、まぶたのシャッターを何度も切る。


バッバッバッバッ


すると、シャッターに合わせてまや姉の体からじんわりと青白い「イロ」がにじみ出てきた。


小さい手や白い腕や、丸襟のシャツから出ている首筋。まや姉の体全体を包むその「イロ」


しかしいくらシャッターを切ってもそのイロはセロハンの膜の様にうっすらそこにあるだけで、それ以上広がらない。

水の底に沈んでいるガラスみたいなはかないイロ。


ため息をついた。

(ほんとは飯食ってないな…)

「まや姉」

「んー?」

「カメハメ波ぁっ!」


僕は両手をまや姉に突き出し、満面の笑みを浮かべた。


「ばーか。早くいきな」

笑いながら布団に包まる。

「おやすみ、さく」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ