栗から生まれた『こっくりさん』
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
ある日、おじいさんは山へ芝刈に、おばあさんは川へ洗濯に行きました。そこで、おじいさんは大きな栗を見つけました。栗の季節には少し早いので、おじいさんは不思議に思いましたが、家に持ちかえることにしました。
家でおばあさんに事情を話し、栗を開けてみることにしました。すると中には、可愛らしいお嬢さんがいたのでした。おじいさんとおばあさんはその子供に「栗子」と名付けて、大切に育てました。
栗子さんは幸せに生きて死に、お墓が建てられました。そのお墓には『骨の栗子さん ここに眠る』と書かれていました。
『骨の』は余計ですが、まあ建てて貰っただけ良いでしょう、と思って、栗子さんは日本全国を旅して回りました。当然、亡くなっているので、幽霊の姿で。
実は栗子さん、物語が好きで、世界中の物語を読み終わるまで死んでられない!と考えていました。よっぽど強い想いだったのでしょう、死んでも、幽霊になって出てきてしまったのです。当然、そんな栗子さんは恋人は出来ませんでした。流石に、物語を読みたい!という思いだけで飛び出していく栗子さんと合う人はいなかったのです。
…………………………
日本中を飛び回り、ある程度満足して、800年振りに自分の墓に戻った栗子さん、驚きました。墓は廃れてしまい、墓の文字は、『骨 栗 さん』としか読めなくなってしまったのです。
それだけではありません。その墓の目の前に女の人がいて、ブツブツと独り言を言っているのです。
「骨......いや、骨っていう苗字はないから、骨栗さん......かな? うん、よし!」
何が良いのでしょう?栗子さんは、栗子さんという名前で、『こっくり』さんでは無いのですが。
「ねえ、ねえ!あなた、この墓の人よね?「は......」骨栗さんで名前あってる!?「い......」よし、じゃ、そう呼ぶね!ちょっと手伝って!」
なんと、質問に返事をしようとしたら、栗子さんの名前は、こっくりさんになってしまいました。それでも栗子さんは栗子さん。自分の名前よりも面白そうなことの方が気になったようです。
「何するの?」
「えっとねぇ、まずは.......」
…………………………
時が経ち、栗子さんはあの日押しかけて来た女の人の墓の前で言いました。
「ありがと、楽しかったよ」
栗子さんはまたまた1人になってしまいました。でも、寂しくはありません。栗子さんには、物語がありますから。それに、今日もまた、呼ばれるのです。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」
と。