友達に強制されて女装して行くことになった夏祭りでクラス一の美少女がナンパされていたので助けた結果、その子と一緒に回ることになって恋バナされてその相手が自分で色々気まずいです
夏祭り、世の中には夏祭りと称される古くからある伝統的なお祭りが存在する。
一年に一回しかないイベントで花火だったりとロマンチックな雰囲気を夏祭りは作ってくれる。
そのためリア充で溢れかえっている訳だ。
しかし前澤 陽含めて非リアと呼ばれる層も少なくない。
その上、陽は誘う勇気も誘われる勇気もないし、カップルだらけのイベントに一人で行く勇気もない。
ではどうするか......非リア友達三人で集まってお互いの傷を癒しながら夏祭りに臨むのだ。
「彼女欲しいなあ」
「そんな希望はねえよ、諦めろ」と小林
「俺らはこうやって支え合いながら生きていけているんだ。彼女なんていなくていいさ......うう」と酒井
「かっこいいこと言いながら涙流してんじゃない。結局、お前も欲しいのかよ」
陽がツッコむと食い気味に「当たり前だろ。いなくていいとは言ったけど、どこに彼女欲しくない奴がいる!」と酒井。
相変わらず喜怒哀楽の激しいことだ。
たしかに彼女は欲しいと全員思っているがが陽たち三人はもう諦めムードである。
「お前ら、絶対彼女作るなよ! 抜け駆けすんなよ!」と小林
抜け駆けされたら嫌なのか小林に念を押される。
しかし抜け駆けするチャンスもないので言うまでもない。
そんな会話をしていると陽キャ男子と陽キャ女子の夏祭りに関する話が聞こえてくる。
三人全員、聞こえていたようで視線は同じ方向にあった。
「......あのイケメン野郎、別れたばっかで今は彼女いないらしいぜ」と酒井
「これで俺たちは格は同じって訳だ。リア充には変わりないな。何で夏祭りに女子誘ってオッケーされるんだよ」
「陽、それがイケメンという人間だ」
「イケメンずる」
そう言ってイケメンの方を見ていると目が合ってしまう。
すると目が合った瞬間にニコッと輝かしい笑顔で笑われる。
「あいつ性格もイケメンだから憎めないんだよな」
「......あの笑顔、俺、新しい癖が目覚めたかもしれん」
『え』と陽と酒井
「うん、悪くない。ナイスボディだ......それに、あの笑顔見ると何だかドキドキするんだ」
「風邪だ」と酒井
「何だただの風邪か」と小林
するとイケメン率いる陽キャ組はクラスで一番可愛い大原 雫の元へ向かう。
会話の内容的に夏祭りに誘うらしい。
雫は男子の間でクラスで一番可愛いとされているアイドル的存在の女子だ。
もちろんそのモテっぷりは半端なく、陽たち三人とは住んでいる次元が違う存在だ。
また、イケメンともそこそこ仲が良いので王姫カップルで一部の人たちに推されている。
一応、今は酒井の席周辺にいる距離は離れているがいつもの席は雫の左隣の席である。
なので時折会話をするのだが、その時の輝きっぷりには全身が溶かされている。
「お、お、これは......雫さん、イケメンくんの誘いに対して首を振っております。これはK.O.か? ......決まったぁ! イケメンくん振られましたぁ!」と実況し出す酒井
「そういうところだぞ、酒井」と陽
人が振られたのを見て喜んでいる性格をしているから彼女ができないのかもしれない。
しかしイケメンが振られるのは珍しい。
他の男子と一緒に行く、もしくは友達の女子と一緒に行く先約があったのだろう。
「ああいうの見て笑ってても虚しいだけだな」と小林
「......一緒に行く女子がいないなら作ればいいのでは」と酒井
「誘うっていうことか? でも誘う勇気がないから三人で行くって話な訳で」
「違うぜ、小林。もういるじゃないか、見た目が中性的で声も女声が作れる素敵な人が」
小林と酒井はそう言って陽の方を見る。
何だか嫌な予感がしたので後退りするも、二人の目力に陽は動けなかった。
そして声を揃えて一言。
『お前、女装しろ』
***
「なーんーでー、俺がこんなことになってるんだよお! しかもなんか可愛いし!」
夏祭り当日、陽は自分の顔を手鏡で見て歩道で大きな声を出してしまう。
自分で自分のことを可愛いというのは変な気持ちになる。
事情を説明したら引かれながらも渋々受け入れて化粧をしてくれた姉には感謝しかない。
「ねえねえ、あのお姉ちゃん、なんで叫んでるの?」
「こらっ、見ちゃダメよ」
「しかも声、男の子だよ?」
通りすがりの親子のそんなささやきに陽はハッとする。
声を作らなければならない。
待ち合わせ場所に行くまでの10分間、陽はひたすら発声練習をした。
そしてしばらくして三人全員が待ち合わせ場所に集合した。
出会って早々に「え、可愛い。俺と付き合って」と小林。
「俺のだから」と酒井
そして羞恥と謎の嬉しみが混ざり合った複雑な気持ちな前澤 陽(性別不明・16歳高校生)
新しい癖に目覚めてしまったかもしれない。
「なあ、陽はどっちを彼氏にする?」と酒井
「そんな某ゲームの広告みたいなセリフを言うのやめてもろて」
「で、どっちなんだ?」と小林
「......私、酒井くんが好きだから、ごめんね、小林くん」
作った声で陽がそう言うと二人は鼻血を出してその場で膝から崩れ落ちた。
どうやら脳破壊されてしまったらしい。
「おい、戻ってこい、二人とも。控えめに言ってキモイぞ」と少し強めの口調で陽
『罵られるのも悪くない』と小林と酒井
「......もう何も喋らん」
そんなつまらない茶番をした後、三人で夏祭りの会場へと向かった。
三人で横一列になって歩いたのだが左が小林、右が酒井、そしてその真ん中が陽の順である。
少し意味が合いが違う気もするがまさしく両手に花だ。
「なあなあ、射撃やらねえ? 対決な」
「焼きそばうまっ」
「夏祭りと言ったらベビーカステラだよなあ」
それからと言うもの、射撃をしたり、屋台でご飯を食べたり、小林と酒井が恋愛おみくじで凶を引いたりと夏祭りを楽しんだ。
リア充が多かったが陽が女性になっているので側から見たらこちらも両手に花状態のリア充だ。
そんな楽しい夏祭りが続くと思っていた。
しかし無情にも三人の間の関係に亀裂が入ってしまった。
「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、じゃあ俺も行くわ」
酒井と小林の二人がそう言い出したことが原因だった。
少しでもトイレに行く時間が違ったら三人仲良くできていたのかもしれない。
「お前はどうする?」
「この格好で男子トイレ行ったら通報されるだろ」
「それもそうだな、しかも興奮して照準も合わんなるわ」
「上手いこと言うな」
最初の裏切り者は「抜け駆けすんなよ」が口癖の小林だった。
トイレから二人一緒に戻ってくるかと思えば戻ってきたのは酒井だけだった。
戻ってきて早々に酒井はこう言った。
「小林が......裏切りやがった」
「なっ......まじかよ。そういう、ことなんだな。相手は?」
「近所に住んでる大学生のお姉さんらしい。一人で来たけどつまらないから一緒に回ろう......だとよ」
「お、お前も一緒にいたんじゃなかったのかよ!」
「すまない......俺のトイレが長引いたばかりにっ......」
「こ、小林いいいいいいい! いくなあああああああああ!」
「うあああああああああ」
気づけば設定を忘れて陽は地声で叫んでいた。
そして酒井もしゃがんで叫ぶ。
「お前は、信じてるぜ」と陽
「大丈夫、俺の彼女はお前だけだ」と微妙にキモイセリフを酒井
セリフが回収されたのはそう後のことでもなかった。
陽がトイレへ行きたいと言い出さなければ、少なくとも酒井を失うことはなかったのかもしれない。
「やべえ、俺もトイレ行きてえ」
「あー、さっきのトイレに多目的トイレもあったぞ」
「まじ? じゃあ行ってくるわ」
そしてトイレに行って戻って来たとき、酒井はその場から姿を消していた。
陽がその事実に気づくとほぼ同時に一件のメッセージが酒井から送られてくる。
『悪い、許してくれ。ダメ元でタイプの子をナンパしたら......成功しちまったんだよ』
結果、一人取り残されてしまった。女性の姿のまま。
そしてまたしゃがんで叫ぼうとするも理性がそれを抑えた。
「お前ら、俺を置いてくなよな。ふっ......先にいきやがって」
感動的なワンシーンのセリフを陽は吐いてみる。
すると自然と右目から涙が流れ出てきた。
この涙がどの種類の悲しみによるものなのか、自分でもよくわからない。
とりあえずそれほど良いものではないことは言える。
「仕方ない、一人で回るか」
そう決意して再び屋台が並ぶ祭りの会場に戻ろうとした時だった。
何か揉め事があったのか、陽の右側から女性の甲高い声が聞こえてきた。
「あの、本当にやめてください。友達が待っているので」
「まだ時間あるでしょ? その間にちょっと俺らと遊ぼうよ」
陽はその状況を見て助けに行こうか迷ってしまう。
今、陽は女性なので助けに行ったところで悪化してしまうと考えたからだ。
本当は男だと正体をバラしても火に油を注ぐだけ。
しかし少し近づくと男性に絡まれている女性が同じクラスメイトの雫であることがわかった。
周りに人はあまりおらず、気づいているのは陽だけのようだ。
助けに行こうか渋ったが流石にまずいなと陽は助けることにした。
「ごめん、お待たせ、待った? この人たちどうしたの?」と陽
「あ、えっと......」
「お姉さんがこの人の友達?」と男
「そうだよ」
「ならちょうど良かった。今さ、一緒に遊ぼうって話しててさ。どう?」
「ごめんね、私たち今から屋台の手伝いしなきゃなんだよね」
「え、まじ?」
「そうそう、叔父の手伝いで来てるんだよね」
「なら連絡先だけでも聞いていい?」
「あー、スマホ屋台の方に置いてきちゃってて......真ん中らへんで焼きそば作ってるから気向いたら来て、ついでに焼きそば買ってって」
陽がそういうと男組は「じゃあ行くわ」と笑顔で去っていった。
男だからだろうか、何となくこういう厄介男の対処方法がわかる。
陽は男組を撤退させることに成功した。
「ごめんなさい、ありがとうございます。どうお礼したらいいか」
「全然いいよ」
「あの、名前教えてもらってもいいですか?」
流石に本名ではまずいよなと思った陽は偽名を使うことにする。
裏切り者二人に女性の時の名前を決められているので答えるのは容易だ。
「如月 一香、君は?」
「大原 雫です。高一です」
「へ、へー、高一か。じゃあ同い年だ。敬語じゃなくていいよ」
「同じ......驚いた。えと、ここら辺の高校?」
「ううん、帰省で地元に帰ってるだけだから違うところ通ってる」
クラスの中心的人物である雫に正体がバレてしまっては困ると必死に陽は嘘をつく。
雫は目の前の人物がすっかり女子だと思っているのでバレたらその次の日には噂になる。
噂になれば女装趣味があるとして金輪際彼女はできなくなるだろう。
流石にそれは嫌だ、裏切り者に負けた気分になる。
「あの、助けてくれたお礼に一品奢るから一緒に回らない? 友達と二人で来てたんだけど逸れちゃったから途中まで一緒にどうかなって......まだちょっと怖くて」
雫の方を見ると少し身体が震えていることに気づく。
怖かったのだろう、無理もない。
陽は断る予定だったが潤んだ瞳で上目遣いされてしまったので葛藤に負けてしまった。
「私も友達どっか行っちゃったから一緒に回ろっか」
そうしてどんな運命か、雫と一緒に夏祭りを楽しむことになった。
雫と夏祭り、この一文だけ聞けば全男子に羨ましがられるだろう。
しかし状況が状況なわけで純粋に楽しめない。
まず、ずっと女子として振る舞わなければならないのできつい。
それに雫の意外な一面を見てしまった時の騙しているという罪悪感が大きい。
よくわからないジョークも言うし、子供っぽい一面もあったりする。
関わりないのでどんな性格をしているのかは詳しくは知らないが少なくとも学校で見る一面ではない。
そしてもうすぐ花火の打ち上げの時間になった。
「ねえ、一香、一緒に花火見ない?」
二人で歩いていると雫がそう言い出す。
友達はいいのだろうか。
「私はいいけど、友達はいいの?」
「こんな人混みの中から見つけられないし、そもそもスマホの充電切れてるから合流しようがないんだよね」
「なるほど、じゃあ一緒に見よっか」
程なくして二人は座れる場所を見つけたので隣り合って座る。
予定時刻まであと数分。
まさか花火をクラス一の美少女と見られるとは思っていなかった。
「ちょっと二人で写真撮らない?」と陽は言い、雫とツーショットを撮る。
それを裏切り者二名に送ってやろうと考えたが陽は直前でやめた。
バレたらまずいと踏みとどまったからだ。
もし、バレたら......想像もしたくない。
「あー、スマホの充電壊れてなかったら連絡先交換できたのに」
「そもそもスマホの充電切れてなかったら一緒にいないけどね」
「たしかに、ポジティブ思考で行こう」
そんな他愛もない会話を雫とする。
しかししばらく話していると雫は急に恋バナを始めた。
「あのさ、恋愛経験とかある?」と雫
そういった話が好きなのだろうか。
しかし思い返しても全くと言っていいほどないので陽は首を振る。
「ううん、ない」
「えー、めっちゃ可愛いのに」
「雫はあるの? 恋愛経験」
陽はそう言った。
しかしすぐに聞いたことを後悔する。
会話の流れ的に聞いてしまったが聞いてしまって良いのだろうか。
ただ、後悔した時には雫は喋り出していた。
「ううん、ない。けど好きな人はいるよ」
あ、いるんだ、ごめん雫、ここで聞いた会話は忘れよう。
ただ、好きな人がいると言われてしまっては気になってしまう。
あのイケメン野郎だろうか。
「私の隣の席の人なんだけど、すごく優しくてさ」と雫。
雫の左隣の席は陽だが右隣はイケメン野郎だ。
性格も良いし、顔も良い。
好きにならない理由がない。
「隣って左の席の人ね。前に階段落ちそうなところ助けてもらって、そこから意識しちゃうようになってさ」
???
「めっちゃタイプだし、性格も優しくて......話す時は目合わせられなくて困ってる」
??????
「いつも話す時緊張しちゃうからさ、もうどうしたらいいんだろうって」
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「今日の花火大会誘おうとおもったけどなかなか勇気出なくて結局誘えなかった。どう攻めたらいいと思う? 一香」
「......え、えっと」
何で俺?
出てきた感想がそれだった。
申し訳なさはいつのまにか遥か遠くへ飛んでいっていた。
とりあえず色々気まずいし、色々どうしよう。
そして頭で困惑している時だった。
最悪のタイミングで最悪の遭遇をした。
「あれ、陽? あと隣に女子......? え、なんで大原さんが?」と小林がたまたま前を通ってこちらに気づいた。
雫からしたらここにいないはずの陽という名前を呼ばれて雫は陽と目を合わせた。
そして陽と小林を交互に見る。
「え? ......え? 陽くん?」
雫は陽の方を再度見てそのまま固まった。
その時、花火の始まりと陽の学校生活の終わりを告げる花火の音が夜空いっぱいに響いた。
***
夏祭りが終わり、夏休みも終わり、その二カ月後。
学校の校舎裏、陽は雫とキスをした。
***
「さて、昨日のメールは何だったのか。俺の聞き間違えかな?」
昼休み、小林と酒井は陽を囲って圧をかける。
その圧に気圧されるも、陽は素直に答えた。
「はい、内容の通り雫と付き合いましたよ」
『裏切り者め』と小林と酒井
「待て待て、夏祭りの時に裏切られたの覚えてるからな」
「お前だって雫と途中までいたじゃないか」
「女だと思われてたらからな!? バレた後すぐに、雫の友達が偶然雫を見つけてあの空気抜け出せたけど......小林、戦犯」
「俺、鉢合わせてねえんだよなあ。残念」と酒井
「とはいえ彼女ができるのは別だ」と小林
小林は脈アリかもと花火が鳴っている時に告ったらしい。
そして見事玉砕。
酒井も花火大会の後も数回連絡を取り合って脈アリかもと思って告ったらしい。
そしてこちらも見事玉砕。
「成功したのはお前だけだな。女装野郎」と小林
「その名前やめろ、今考えれば黒歴史」
「何であの状況から付き合えたんだよ」と酒井
「俺だって分からん。けど冷めなかったらしく、ぐいぐい攻めてきた」
あれから花火大会で女装をした人というレッテルがクラスメイト全員だけでなく他クラスにも貼られた。
雫が言ったのか、雫が友達に言ってその友達が広めたのかはわからない。
見事に終わったのと陽は確信したのだが、雫は好きバレしたならしょうがないと逆に攻めてきた。
ほぼ毎日、二人きりの状況をつくられたりその時に好き好き言われたら堕ちない男子はいないと思う。
そして自分の気持ちに整理がついた後、陽から告った。
『今日一緒に帰ろ?』
陽が二人と会話をしていると雫からのメールが届いた。
雫の方を見るとこちらを見ており、目が合うとニコッと微笑まれた。
相変わらずの輝きで、やっぱり苦手だ。
でも苦手だけどそんな笑顔が好きだ。
陽は自分でも気づかないうちに笑っていた。