The Chess 番外編 ロッドとプロミー
王城でプロミーと再会を果たしたロッドは、プロミーを連れて己の館に帰還することにした。今日は館に泊まり、明日の早朝、旅へ出発するよう二人は相談して決めた。
王城を出た時、プロミーの前に小鹿が待っていた。
「キャラメル……」
プロミーは旅の仲間の名前を小声で呟き、人懐こい黒い瞳の小鹿の首を撫でた。小鹿は再び旅を共にする友に喜んで寄り添った。プロミーはロッドに語った。
「私の旅を手伝ってくれた小鹿はキャラメルという名前なのだそうです。スターチス王様が教えて下さいました」
小鹿はプロミーを背に乗せようか、と大きな瞳で尋ねた。
「歩いていこう」
ロッドは顔を見上げるプロミーに爽やかに笑って答えた。その心は時をゆっくり愉しむように。
「はい、ロッド様」
プロミーは応えた。
それから二人はロッドの館に着くと、二人分の旅の支度を整えた。夜になるとプロミーは消える。ゲームの時と同じだと女王から教えられていた。王はゲームの間とは違い日中起きていて睡眠時間の方が短いはずだが、魔法を使う女王の説明では、“夢”には時間感覚がないので大丈夫だと言う。それはゲームの間“向こう”の世界の夢を見ていた時、一夜で二週間分の夢を見た仕組みと同じなのだそうだった。
「プロミー」
夕暮れになりロッドは部屋の明かりを点けた。鞄の荷を整えていたプロミーは手を止めた。
「旅立つ前に一つ贈りたいものがある」
「私はロッド様といられるだけで幸せです。贈り物を受け取っても私には返すものがありません……」
プロミーはいつものように正直に答えた。ロッドはプロミーを安心させるように目に微笑を浮かべて近づいた。
「目を閉じて欲しい」
プロミーは自分を見つめるロッドがいつもよりも優しい目をする、と思った。甘く、我慢していた切なさを喜びに変えるように。プロミーは戸惑いながら目を閉じた。ロッドはプロミーに口づけをした。ロッドは無言で長く想いを語った。その言葉は爽やかで、思いが深く、新たな関係を誓うようだった。プロミーの心は話が深まるにつれ、ゆっくりと変わっていった。一人だけの思慕から恋人のものへと。
長き睦言が終わると、ロッドは言った。
「プロミーはゲームの間従者として私と付き添ってくれたが、これからの旅先では同じ騎士として一緒にいて欲しいと思う」
「はい、ロッド様」