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没落した転生令嬢は悪役令嬢代行します  作者: 桃月 とと


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9/16

9 VS 大神官の息子

 朝目覚めてこんなにも体が重いのは、父が詐欺にあったと知ったあの日以来だ。


「学校行きたくなーい」


 ベッドに寝転んだまま誰にでもなく不満を垂れる。初日から不登校宣言したい。

 今日もきっとなにかある。だいたいゲーム初日に攻略キャラクター2人からいわれのない罪で責め立てられるって……。


(ん? 初日?)


 それはおかしい。まだヒロインは攻略キャラ達と大した交流はないはずだ。精々お互い認識したくらいだろう。なのにすでに彼氏ヅラした私の婚約者や、ヒロインの望みに涙を流すほどショックを受けている宰相の息子はいったい……。


「まさか!?」


 体を勢いよくベッドから起こす。


「逆ハールート!?」


 それなら悪役令嬢の役割がしょぼい理由の説明がつく。……というか、薄っすらとした前世の記憶で姉がそんな話をしていたのを思い出したのだ。


『逆ハーレムのルートはねぇ……甘々すぎて恥ずかしいっていうか……個人的にはライバルの悪役令嬢も全然出てこないから張り合いもないし……最初から全力で愛されまくってるだけなのよ~』


(確か全ての能力値が一定以上じゃないとそのルートには入れない……のよね?)


 そのため、基本的には攻略キャラ全員を攻略後にプレイできるルートだと言っていた。しかも最後(エンディング)が通常の恋愛ルートとは違ったはずだ。


(なんだったっけ……くそ~思い出せない……!)


 何か姉がワーワーと騒いでいたのだ……大事な内容が思い出せそうにない。


(よりにもよって逆ハールートなんて!)


 いや、そのお陰で私が悪役令嬢としてやることは入学式の苦言だけだった。少なくとも今のところは。確かに姉は、このルートで悪役令嬢の出番はないと言っていた。占い師が言った通りだ。だから婚約破棄の有無はわからないということだろうか……原作ゲームでも触れられていないのかも。


「アイリス。クソ男の為にあくせく働いてたせいで能力値が上がった状態で入学したからかしら……」


 原因は推測でしかないが、とにかく逆ハールートに入っているのは間違いないだろう。そう確信させてくれるように昼休み、大神官の息子からお呼び出しがかかったのだ。


「……ちょっといいかな」

「…………はい」


 大神官というと国王に並び立つ権力者だ。だが大神官は王と違い世襲制ではない。その息子が未来の大神官になるとは限らないのだが、テオは同世代で圧倒的な魔力を保有しているため、次期大神官の有力候補なのは間違いないとされているのだ。

 キラキラとした長い銀髪が眩しい。まつげまで銀色なのでなんとも神秘さを感じる顔をしている。2人でカフェテリアの席で向かい合って、周囲の視線が痛い。テオの方は慣れているのかそれともどうでもいいのか、まったく気にしていないようだ。


(なんだこいつ)


 いつまで経っても何も言ってこない。ただこちらを見ている。ランチタイムなのに何も食べないのだろうか。

 私はお腹がすいているのでサンドイッチをいただく。


「……。」


 私が食べているのをただじっと見つめてくるが、無視して食べすすめる。ここのサンドイッチうまっ! なんだか喋った方が負けのような雰囲気が出てきたので絶対にこちらからは話しかけないと決めた。


「……。」


(貴族出身者が利用するだけあって美味しいわ~明日は違うのにしよう)


「……。」


(デザートも買えばよかった! 今から買いに行ってもいいかな?)


 チラリとテオの方を確認すると目が合ってしまう。


「……。」


(こいつ……察してちゃんか?)


 その時、グゥ……と小さいがお腹が鳴る音が聞こえた。


「……サンドイッチ美味しかったですよ? テオ様もいかがですか?」

「……うん……」


 呟くように頷いてサンドイッチを買いに席を立った。


(な、なんだあいつ……!?)


 そういえばゲームでのテオは浮世離れしていて世間のことがわかっておらず……というか常識が欠落していたのでヒロインが世話を焼く内に愛が……と、姉が言っていたことを思い出す。


(育児かよ! ってツッコんだらコブラツイストかけられたな)


 そんな姉との思い出を淡く心の中に染み込ませながらテオを目で追うと、サンドイッチの買い方がわからず右往左往しているのが見えた。周囲の学生が遠巻きに見ているのがわかる。彼ほど親の権力が強いと、なにか粗相をした時のことを考えて簡単に手助けすることは躊躇われるのだ。


(ヒ、ヒロイン……! アイリスー!? どこ!? ってあの子弁当派!)


 ここのカフェテリアの価格はべらぼうに高いので、ヒロインは寮のキッチンを借りていつも自作の弁当を作っている……って姉が言ってた。料理イベントへの布石のようだ。逆ハールートでもあるのだろうか。


(ええ……これ……私が行かなきゃだめ……?)


 一緒の席に座っていることを知っている学生たちがこちらに視線を向けてくる。その視線に負け、私はカフェテリアの使い方を親切丁寧にテオに仕込んだ。


「大丈夫ですか? 明日から1人でやるんですよ!? 不安があれば今この場で聞いてください!」

「うっ……大丈夫だ……多分……」

「お金は自分で払うんですよ! お付きはここまで来れないのですから! 払い方はわかりますか?」

「……多分」

「わからなかったら給仕の人に聞いてください。丁寧に教えてくれます」

「……そうする」


 結局彼が食べ終わるまで席で世話をした。


「……ありがとう。助かった……」

「いえ……」


 そう言ってペコリと小さく頭を下げ、()()()()を言わずに校舎へ戻っていった。


(親切にしたから疑いは晴れたのかな?)


 って、そんな問題ではない。私は別に悪役令嬢でかまわないのだから。 


 なんだあいつは! 入学前にちゃんと世間常識を学んでこんかい!


 悪役令嬢に気を使わせるんじゃなぁぁぁい!!!

  

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