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没落した転生令嬢は悪役令嬢代行します  作者: 桃月 とと


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7 VS 婚約者

 学園の寮へ戻った後も、私はどうすべきかまだ迷っていた。ヒロインであるアイリスに手を貸すべきか、貸さないべきか。


「いかがされました?」


 彼女は私の侍女エリザだ。学園の寮では各自1名世話係を連れて来れるので、公爵一押しのエリザが私の元へ派遣されたのだ。公爵との橋渡しもしてくれる。


「エリザ~聞いてよ~~~!」


 今日の出来事を全てエリザに話した。彼女は占い師の件も知っている。それだけで公爵にかなり信用されている人物だとわかった。


「アイリス様という方はだいぶ変わった方のようですね」

「変わってるというか……クズ男にまんまと引っかかってるというか……心が清らか過ぎて騙されちゃってんじゃないかな……」


 ヒロインの性質を逆手にとってあえて嵌められているんじゃないかと思うくらいだ。

 座り込んだソファーで、自分の身体が脱力して斜めにズルズルと傾いていくのがわかる。追い詰められたような表情のアイリスを思い出し、なんだかこちらも胸が痛い。間違いなく切羽詰まっていた。


(ヒロインがクズにハマった状態でのオープニングってどんな乙女ゲーだよ)


 『いけこれ』は全年齢向けのゲームだ。爛れた恋愛でも重々しい恋愛ではなく、ピュアピュア甘々ストーリーのはずだ。ヒロインは壁ドンイベントでキャッ! って顔を赤らめてればいいんだよ! そういうドキドキを思いっきり楽しんでくれるのなら、私も意味の分からない難癖をつけた甲斐があるというものなのに。


「エミリア様は本日の入学式の後、なるべく関わらずに学生生活を送りたいと仰ってましたが、アイリス様に手をお貸しになりますか?」

「それを迷ってるのよ……」


 私は体が折れ曲がったまま、頭をテーブルにくっつける。


「無駄に行動力あるみたいだし、意思もかたそうだから、私がダメでも他をあたりそうで……」

「ありえますね。娼婦になるのは簡単です。辞めるのは難しいですが」


 その時、寮付の使用人が扉をノックした。


「アーサー様がエミリア様にお会いになりたいそうです」

「……さっそくか」


 寮の来賓室に降りると、偉そうに足を組んだアーサーがソファーに腰を掛け紅茶をすすっていた。


()()()()()殿下、エミリア・ガルシアでございます」

「ああ」


 丁寧に挨拶する婚約者の私に対して、立つことも、こちらに顔を向けることもしなかった。


(人の目を見て話せと習わんかったか?)


 イラっとポイントを突いては来るが、王子様の人となりなどどうでもいいので、さっさと要件を聞いて帰ってもらおう。


「エミリア嬢、入学式のあれはなんだ?」

「はあ」


 気のない返事をして次の言葉を待つ。


「平民の娘に厳しい言葉をかけていただろう!」


(平民の為に厳しく叱責する俺様カッコイイ! とか思ってそうね)


 だが反論して居座られても困る。さっさと帰ってもらうために、ここは全肯定しておこう。


「ソウデスネ。スミマセンデシター」

「だいたいスカートの長さなど、言いがかりにもほどがある!」


 なんか勝手にヒートアップを始めたぞ。面倒くさいな。


「オッシャルトオリデスーイゴキヲツケマスー」

「君はこの学園の決まりをわかっているのか!?」


 知ってる知ってる。学園内にいる間は貴族階級や身分に関係なく皆平等ってやつね。


「モチロンデスーモウシワケゴザイマセンー」

「この学園内にいる限り、我々は対等だ! 俺も君も平民と変わらない!」


(だから謝ってるんだけど聞こえてない?)


 もうさっさと納得して帰ってほしい。説教垂れてる自分に酔って、その上初対面の婚約者をそのターゲットにするなんてエゴイストの暇人のやることだ。


「じゃあなぜあんなに威張り散らしていたんだ! 君みたいなやつが婚約者なんて心底恥ずかしい!」


 ここでどうでもよくなった。大人しく謝っている事はなかったことされた上、そこまで言われる筋合いはない。


(こちとら婚約破棄バッチコイなんだよ)


 こうなれば徹底的に嫌われて王太子側からも婚約破棄を推し進めてもらおう。


「じゃあなんでテメェはここで威張り散らしてんだよ」

「え?」


 さっきまでの低姿勢からの変わり具合についていけないようだ。王太子はポカンと口を開けている。


「いやなんでテメェが私に説教してるか聞いてるんだわ。どんな立場で偉そうにしてるわけ?」

「お、俺はこの国の王太子だぞ! 国民の為に悪い事を正す義務がある!」

「は? テメェは今さっきこの学園内にいる限り皆平等だっつっただろーが。なーに王太子なんて立場出してんだよひっこめろや」


 困ったら王太子なんて肩書きを出す卑怯者だ。何が俺様だ。ただのわがまま馬鹿王子じゃないか。相手はワナワナと体を震わせているがどうでもいい。このままどんどん怒りをため込んでもらおうじゃないか。


「言っとくけどこっちも王太子と婚約なんてしたくなかったから。いやいやだから。それこそ偉い人からの命令でしかたなくだから。意味わかる? 私も身分差によって虐げられた可哀想な女の子なんスわ!」


 実際は金の為に引き受けました! お宅様が大変強引だったお陰で私の未来、なんとかなりそう!


「なんだと!!?」


 顔を真っ赤にして立ち上がったが、曲がりなりにも乙女ゲームの攻略キャラだ。殴られることはないだろう。まあ、殴られたらその時はその時だ。婚約破棄へ一歩近づける。ということで煽り続けることにした。


「で、どうする? パパに言いつける? それともママかなぁ?」

「ば、馬鹿にするな!!!」


 そう言うと、帰る! と声を張り上げ、そのまま出て行った。これ以上は自分に分が悪いと気が付いたようだ。意外と逃げ足が速い。


(ヒロインへのポイント稼ぎのつもりだったのかな……)


 俺がキッチリ注意してやったぜ! もうオマエには指一本触れさせないぜ! 的な?


 そうして、ああ疲れたと自室に戻った途端、また呼び出しがかかった。それを告げたエリザはちょっと申し訳なさそうだ。彼女が悪いわけではないのだが。


「今度はベイル様がお会いしたいと……」

「ええ……」


 悪役令嬢がここまで忙しいなんて聞いてない。

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