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4 王立学園初日-1

 私も無事に令嬢という肩書を保ったまま16歳となり、ついに今日は入学式だ。ここは私が悪役令嬢として()()を果たす予定の舞台、カーリタース王立学院。城のような大きく立派な校舎に女子寮と男子寮がある。王都から馬車で30分程度離れているが、学院の周辺は学生街が出来上がっており、大体のものはここでそろえることが出来る。


(二度目の青春だ~~~!)


 と、本来なら騒いでもよさそうなところだが、もちろんそうは出来ない。そんな気分にもならない。


 これ見よがしに学園内では桜の木が美しく咲き乱れている。この学園にのみ咲くとその辺を歩いている学生たちが話しているのが聞こえた。


(マジで乙女ゲームの世界なんだ……)


 公爵家には無事養女として籍を移すことが出来た。するとこれまで全くどうにもならなかった公爵令嬢の海外留学があっさり決まり、王太子との婚約話も白紙に戻った……はずだった。ここで早くも予定外のことが起こってしまう。


「私が代わりに王太子の婚約者!?」

「すまない……どうか頼めないだろうか……」

「嫌ですが!?!?」


 私だって行くならいい所へお嫁に行きたい。それがこの世界では何よりのステータス。それに金銭的に余裕があると心の余裕も周囲の態度も違う。つい最近天国から地獄に突き落とされ、周囲の反応の違いは身に染みて理解している。


(だからって王太子はやりすぎ! 荷が重い!)


 たとえ学園の卒業式前夜に断罪され婚約破棄されなくっても嫌だ。婚約中は公務やパーティへの出席は避けられないだろう。2年間もそんなのに付き合ってられるか! 意地で貴族の令嬢としての務めを16年間逃げ続けてたんだぞ!?


「悪役令嬢は引き受けましたが王太子の婚約者なんて絶対に嫌です! 契約範囲外!」


 すでに公爵家の一人娘は逃げるように海外へ旅立っていた。だからこの状況はきっと物語の矯正力ではないはずだ。


(いや、新たな悪役令嬢となった私に矯正力が働いてる!?)


 乙女ゲームの初期状態として、悪役令嬢と王太子の婚約は絶対だったのだろうか。


「だいたいなんでそんなことになっているんですか!?」

「どうやら王妃様が我が家の噂を信じ込んでいるらしく……どうしても我が家と結びつきを強くしたいそうなのだ」


 実際噂は本当なんだもんね。王妃様もわかってんのかな。


「それって……誰か暗殺したい人でもいるんですかね」


 しーっ! といい年した公爵が指を口に当てて慌てていた。公爵家の裏の仕事については王とほんの一部の家臣以外は知らないことだったらしい。巷に広がった黒い噂など、普通の人は信じない。なんか怖いな、程度の認識だ。あまりに噂の内容が大袈裟すぎて、公爵家への嫌がらせと考えている人も多い。なので最近ガルシア公爵は開き直ってそれをネタに会話を広げ、社交界を沸かせているらしい。上手く噂を馴染ませているのだ。

 王妃がそれを真実だと思い込んだ経緯はわかっていないが、息子の気持ちそっちのけで大騒ぎをしているそうなのだ。ついに王からも直々に婚約継続を頼まれてしまい困り果てているらしい。


「没落した伯爵家の令嬢だと伝えてます?」

「肩書が公爵令嬢ならかまわないそうだ……」


 未来の王妃ともなると肩書も大切か。


「仮面家族って知ってます?」

「ガルシア家の名前があればそれでいいそうだ……」


 貴族の結婚は血ではなく家同士の結びつき……いや、違う。ガルシア家の力が欲しい欲しい欲しい~! ってことか!?


「「……。」」


 2人して黙りこくってしまった。もうこれは逃げられないのか……。


(王妃様って、確か少し離れた小国のお姫様だったんだっけ……?)


 正直、我が強いという噂は聞いたことがある。自分の欲望は叶えるタイプだとか。あと美女という話も。


(実際見たことも会ったこともないからわかんないけど)


 領地の屋敷から全然出てないツケがここにきてじわじわと影響しているように感じる。王族貴族の情報が足りないっ!


「……断罪後もしっかり君の将来の面倒はみるから……頼むよ……」


 弱々しいが悲痛な叫びのような声だった。公爵も大変だな。こんな立派な肩書があるのに、私のような小娘に頭を下げ続けているぞ。


「……具体的にお願いします」


 だいたいその答えは予想できるが、しかたがない。聞いてあげよう。板挟みで可哀想だし。


「卒業後の金銭的支援だ」

「またお金ですか!……まあいいですけど!!!」


 むしろありがたいけど! 婚活と就活に失敗した時に備えて!


「助かるよ!!!」

「公爵様、そんなキャラでいいんですか!?」


 これで裏社会を牛耳っているというのだから、この世界の世界観がさらにわからなくなる。


 公爵は大喜びしていた。どうやらかなり強く迫られていたらしい。裏の仕事をしているというのに、こんなに押しに弱くて大丈夫なのだろうか。


「結局我が家はあっちとこっちから板挟みになってるだけなんだよ~。悪いやつらが悪いことしすぎないように調整して、凶悪な事件が起こりそうだったら事前に王に知らせて、組織が壊滅しすぎないように捕物がありそうだったら一部は逃がして……って大変なんだから……」

「中間管理職かぁ~」


 この公爵がそんな器用に立ち回れているのが意外だが、年齢の割に真っ白な白髪の公爵を思うと、なるほどその苦労がわかる気がした。


(お金貰っても嫌なモンは嫌ではあるけどね……)

 

 背に腹は代えられない。卒業後も人生は続く。借金は払い終えたとはいえ、実家のカレフ家はまだ再建途中と言ってもいい。ガルシア家が手を貸してくれているおかげて、他からの信用を取り戻せているという現実もある。まだまだしばらくは公爵家とお付き合いが続くだろう。それも年単位で。


(あれこれ想像してもどうしようもないか……予定は未定ってやつね)


 この件、もう深くは考えないようにしよう。なるようになる。

 

(結局実家のことを考えると、頼みを聞く以外道はなかったのよね~)


 最初の契約の時、もっと吹っ掛けておくべきだった。……いや、借金の額を考えたらやはりチャラになっただけでも有難いと思うべきか。あの父親もよくもこれほど負債をつくれたものだ。


 王太子との婚約式は学園の入学が近いからという理由で見送られた。私が面倒くさいとゴネたら公爵がうまく言ってくれたらしく、書面上だけの関係になった。もちろん巷ではまたあることないこと噂が立ったが、まさか王太子の婚約者になるという栄光を掴んだ私が面倒くさがっているというのは、誰も思わなかったようだ。

 私は一度も王太子が出るパーティに参加したことはないので、顔も知らないままの入学となる。


 乙女ゲームの攻略キャラだ。顔も性格も悪いと言うことはそうそうないだろう。

 

 そうして一度も合わないまま、入学式を迎えたのだ。入学の為に王都のガルシア公爵邸に入った後、何度か顔合わせくらいのチャンスはあったのだが、今度は王太子が拒否したらしい。


(すでに好感度マイナススタートじゃん! まあそれはお互いにだけどな!!!)


 王太子だからって強気にでやがって! と、自分の事は棚に上げて腹を立てるあたりが実に私らしい感覚だ。


◇◇◇


 私に友達はいない。学園ではもちろんボッチである。それは全然かまわない。そしてそれは相手も同じ。学園内を晴れやかなウキウキした表情で歩いている貴族の令嬢令息は、私の姿を見て、どなたかしら……と少し困った顔になっていた。すでに派閥もあるようで、あっちこっちでグループが出来ている。

 前世は三十路手前まで生きていたので、もはや群れるという感覚をなくしていたせいか、メンタルのダメージは全くない。が、これじゃあ情報が全く入らないのだ。SNSのない世界がこんなに不便なんて! リサーチが出来ない。


(こりゃいかん! ちょっとは周りと交流しとくべきだった!)


 学園の生徒達は、急に公爵令嬢としてこの国で王妃に次ぐ女性の地位をゲットしたポッと出の私を警戒していた。遠巻きに見ていたので目を合わせると急いでそらす生徒の多いこと多いこと。取って食ったりはしないのに。


(ヤバい! ヒロインどこだ!?)


 私は彼女に用があるのだ。この学園で成すべき事を成さなければ。これに公爵は大金を払っているのっだから。

 ヒロインは平民出身とのことだったが、ここの制服は全員同じものを着ているので違いが判らない。だいたいどの娘も可愛いし……。


 式が始まるまでまだ時間はある。とりあえず学園内をウロウロとうろついていると、それとなく情報が入ってきた。

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