13 外堀
学園生活が始まって一ヵ月、どの授業も本格的になり。学生達が青春を謳歌し始めている中、私は攻略キャラクター達との攻防を繰り広げる毎日だった。
(なーんで私がこんなことに!?)
正直、私は失敗したのだ。
「ガイヤはいい人だったわよ? 成り上がりだって変な噂されてる私にも親切だったし」
「……そうですか」
「アイリスともきっと対等に話してくれると思うわ。……これまでみたいなのじゃなくてね」
こう言ってガイヤに肩入れしたのが不味かった。その後アイリスはガイヤからの挨拶を無礼にも無視したことを詫び、3人で一緒に食事をとったのだ。
この一連の流れを目ざとく見られていたのだ。奴らに……。自分達の仲も取り持ってもらおうと私に取り入り始めた。乙女ゲームの攻略対象がそんな簡単に手のひらくる~してもいいの!?
まずは手堅く『お友達から』作戦に切り替えてきた。私と仲のいい自分の姿を見せて、まずはアイリスのガードを解こうと必死だ。
どこからかアイリスのアルバイト先を聞きつけ、偶然を装って会いに行こうと画策する。
「やあエミリア! 今度の公務をどうするか話し合わないか? ほら、君の家がやっているレストランがあったろう?」
(こらー! この間の言いがかりをなかったことにしてんじゃねぇぞ!)
「エミリア嬢、先日のお詫びがしたいので是非お食事をご馳走させてください。実は隠れ家的ないいお店があるんですよ」
(え? わざと? わざとなの? 情報通なことは知れ渡ってるのよ貴方!?)
「……一緒に食事に行って欲しい……1人で行ったことがないんだ……」
(勝手に従者といけ!)
「しかたないから君も僕の後宮に入れてあげるよ。まあ君のとこに通うことはないだろうけど!」
「てめぇはもう出てくんな!」
代わる代わる来るお誘いを蹴散らすのはなかなか疲れる。
「外堀埋めようったってそうはいかないのよ!」
「ご面倒おかけしてすみません……」
寮までの帰宅途中、アイリスが心底申し訳なさそうに謝った。
「いやごめん! アイリスが悪いわけじゃないのにね」
実際、アイリスはハッキリとノー! を伝えていた。誠実に相手に向き合って断っていた。それを知っているので尚更しつこいアイツらにムカついているのだ。
誠実に向かい合ったら、それはそれでチャンスがあるのでは? ってなんでそうポジティブな方向に勘違いするわけ!?
「好きな人をこんな気持ちにさせていいと思ってんのかしらね!」
「皆さん、なんで私なんか……」
「そりゃ可愛いし謙虚だし、努力も怠らないからでしょ」
「……そういう風にエミリア様に言ってもらえるのとっても嬉しいです」
そういっていつものように満面の笑みを浮かべたアイリスは女神のようだった。いや、そういやこの子聖女になるんだったわ。いつなるんだろ。
「私、村に同じくらいの年の子がいなくって……初めてお友達が出来たんです。それがエミリア様でとっても幸せです」
そう言うとハッとして、
「申し訳ありません! 勝手に友達などと……!」
「いやいやいやいやいや! 光栄よ! ありがとう」
私もこの世界じゃアイリスが初めての友達だ。
前世の友達は最期はだいぶ減ってしまっていた。さんざんクズ男へ貢ぐのはやめろと言われていたのに……それを別れられない理由を並べ立てて、言い訳ばかり。本当に私の事を考えてくれている人の忠告を聞かなかったからだ。愛想をつかされてしまっていた。もちろん、根気よく注意してくれていた友人もいて、今思うと感謝しかない。
だから私も根気よくアイリスの側にいようと思っている。結果がどうなるかはわからないが。
「エミリア様! 今度のお休み学生街でお買い物しませんか? 庶民向けのエリアもあるらしくって!……以前興味があると仰っていたので……その……よかったら」
最後の方は少し勢いをなくしていたが、勇気を出して誘ってくれたのがわかる。
「うれしいわ! 行きましょう!」
こういうのは本当に久しぶりだ。まさかお出かけが楽しみになるなんて。私にも再び青春がやってくるとは思っていなかった。アイリスに感謝だな。
そうして楽しみにしていた週末がやって来た。なんという清く健全な気持ちなんだろう。なーのーにー!
「やられた!」
学生街の入口にヤツらが立っていた。全員それなりに変装しているが、オーラが違うのでわかりやすい。偶然を装ってアイリスと学生街デートを目論んでいるのだろう。というかあの姿、姉からスチルで見せられたわ。
(どっかに隠しマイクでも仕込まれてるんじゃないでしょうね!?)
アイリスも明らかに警戒していた。いい加減あいつらの手口は分かったようだ。
「私が消してきましょうか?」
「……いえ、とりあえずは大丈夫」
エリザの言い方が怖い。あの裏仕事ばかりの公爵家のエリート侍女だ。何を仕込まれているかわからない。
「あれ~? 2人ともお買い物?」
背後から現れた男はアイリスの姿を見て尻尾をブンブンふっているのがみえる。ガイヤだ。どうやら彼だけは本当に偶然のようだった。
「うわぁ! ラッキーだなあ!」
「しっ!」
すぐにアイツらから見えない場所へ移動した。見つかったら厄介だ。
「ガイヤ様は何しに学生街へ?」
「剣の手入れ道具を見に来たんだ! って2人はあまり興味ないよねぇ」
アイリスに話しかけられて嬉しさ全開の純粋な笑顔に思わず2人で癒された。どうも我々は最近男性不信が過ぎる。
アイリスと目が合った。もうアイコンタクトで分かり合える。
「ガイヤ様、よろしければ一緒に行ってもいいですか?」
「えええ!? 本当~!? 嬉しいなぁ! あ! 僕の用事はすぐに済むから! 荷物持ちでもなんでもやるよ!」
どんどんテンションが上がっていくようだ。あまり騒ぐと気付かれてしまう。テンションの下がることを言ってやろう。
「言っときますけど私もいますからね」
「余計嬉しいよ~!」
いい子か!
(無欲の勝利ね)
これが戦略だったら泣くわ。
「さあアイツら蹴散らしていくわよ!」
私を先頭に、いざ! 学生街へ!




