GWは予定通りには行かない
俺は、遠足から帰った翌日、いつもよりゆっくりと起きた。顔を洗い、朝食を摂った後、洗濯物と同時に部屋の掃除をしているとスマホが震えた。
また、クラスメイトからだと思って画面を見ると父さんからだった。掃除を止めて急いで画面をタップすると
「はい、祐樹です」
「祐樹か、五月三日から実家に戻って来なさい。用事がある」
「父さん用事って?」
「来れば分かる」
理由も言わずに戻れとは、こっちの都合は聞かないのかよ。
「分かりました。戻ります」
通話が切れた。そう言えば何日まで帰っていればいいんだ?どちらにしろ、緑川さんと門倉さんに会う約束をキャンセルしないといけないな。
俺は残っていた掃除を終わらせ洗濯物をハンガーに掛けてベランダの物干しに干すと先に緑川さんに連絡した。
「もしもし、工藤です」
「珍しいね。工藤君から電話くれるなんて」
「あの、GW後半に予定していた会う約束なんだけど、実家に戻らないといけないので会えなくなりました」
「えーっ!そんなぁ。ねえ工藤君、実家に帰るってずっとなの?」
「分からない。父さんからとにかく帰って来いと言われたんだ」
「そうかぁ、じゃあ、今日とか明日?」
「色々用事が有って会えない」
明日は道場に行きたい。
「分かった。もし会える時間が出来たら当日でも良いから連絡して」
「うん、そうするよ」
俺は緑川さんへの通話を切ると今度は門倉さんにも連絡した。反応は同じだった。
次の日は買い物や稽古に行って過ごした。遠足の時もそうだが、高校に入ってから俺に向いていない事が多すぎる。遠足でさえそうだ。だからこうして一人で居るとホッとする。
偶には近くの街を散歩するのもいい。この辺は公園や有名な神社が多い。緑道を歩くのも良いかもしれない。ちょっと出かけるか。
連休の合間の二日間の登校は特に問題なく過ごした。お昼は小見川と食べて、放課後は最後まで図書室にいるという感じだ。
そして後半の連休開始の五月三日。俺は午前十時、しっかりと部屋の戸締りをすると実家に戻った。
駅にして四つ。直ぐに家に着いた。いつもながら大きな玄関に入ると
「ただいま」
直ぐに母さんが玄関に来た。
「お帰り祐樹。荷物を置いて手を洗ったらリビングに行って。お父さんが待っているわ」
「分かった」
用事が分からないままに実家に帰って来た俺は、自分の部屋に着替えの入ったバッグを置くと洗面所で手を洗って直ぐにリビングに行った。
「父さん、ただいま」
「祐樹帰ったか。座りなさい」
父さんと兄さん、それに母さんもいる。なんだ?
「祐樹、実は今度家族でテレビに出るから、その撮影をする事になった。内容は主に事業の説明と私や正孝の紹介だ。企業プレゼンスを高める事が目的だが、その中に工藤家の紹介も少し有って、お前にも出て欲しんだが」
「父さん、それって俺が出ても企業プレゼンスの向上にはならないでしょう。出来れば止めたい」
「そうか、では家族写真の中で出るという事ではどうだ」
「駄目、目立ちすぎる。どうしてもと言うなら俺の顔だけマスキングして。普通にやられている事だから」
「そうか。だが、家の一部の紹介もある。その時は顔を出さない形で出てくれないか?」
「それなら良いけど…」
嫌な予感満載だな。
「ところで父さん、なんて番組に出るの?」
「華麗なる家族の家庭紹介という番組だ。撮影はこの連休中だが、放映は六月の第二土曜日午後六時だ」
「ふーん。そうなんだ」
俺はこの時、この番組がどんなものか分からなかった。大体、華麗なる家族ってなんだ?俺は追い出された身だぞ。
翌々日の五月五日にテレビ局の人が来た。なにも子供の日に来ることなんか無いだろうに。
父さんは普段から経済界の集まりでテレビに映るのは慣れている所為か、あまり緊張していない様だが、兄さんと母さんは見ていても分かる位ガチガチだ。
母さん普段よりしっかり化粧している。自分の母親ながら綺麗だと思うのは身内贔屓かな?
事業紹介もあるからなのか、父さんの会社の人も応援で来ている。
俺は、そんな撮影風景をただ見ているだけ。洋服も普段着。撮影場所はリビングと和室。俺はそんなの見ていても仕方ないと思い、自室に籠っているとドアがノックされた。
「なに?」
兄さんがドアを開けた。二階のイメージだけを撮ると伝えられた。
「じゃあ、ドア閉めておけばいい?」
「いや、開けたままにしてくれという事だ」
「えっ、嫌だよ。そんなの。それに俺いる事ないんでしょ」
「いや、部屋にいる祐樹の後姿だけ取らせてくれという事だ」
「えーっ!やだよ」
「家の為だ」
「…分かった」
渋々承知をしたが、なんで子供の部屋まで撮るんだ。後の編集で没にしてくれ。
結局、自分のマンションの部屋に帰ったのは五月六日。GWは何も出来なかった。
翌日、登校して小見川と挨拶を交わすと新垣さんが声を掛けて来た。
「工藤君、放課後少し話出来ないかな。今日私、受付担当じゃないから」
「構わないけど」
放課後になり、
「工藤君、一緒に帰ろうか?」
「良いけど、話あるんじゃなかったっけ?」
「うん、歩きながらでも」
俺達は下駄箱で履き替えると一緒に校舎を出た。
「工藤君、図書委員の話なんだけど」
「えっ!その話なら…」
「お願い聞いて!」
「分かった」
「図書委員、来月から私一人になってしまうの。そうすると流石に回せなくて。お願い、図書委員になって。ずっと出来なければ、新しく図書委員が入って来るまででもいい。お願い」
「だって、図書委員会って担当の先生もいるんだろ。三年生を引き留める様に言えばいいじゃないか。出来なかったら先生にやらせればいいし」
「それが出来ないの。担当の先生は受験を控える三年生にそんな事言える訳ないって言うし、先生は受付なんて興味無いから、私が適当にやってくれればいいなんて言うの。でも私一人じゃ無理。お願い!一時でもいい図書委員手伝って」
「参ったなあ。俺図書室の事何も知らないし。受付と言っても色々あるんだろう。俺には出来ないよ」
「お願い!」
新垣さんが、目に涙を溜めながら手を胸の前で合わせて一生懸命俺を見つめて来る。
困ったぞ、図書委員なんて全くの意識の範囲外だ。はっきり言ってやりたくない。でもなあ。
「なあ、俺が図書の先生に言ってみても良いか」
「それは駄目だよ。今の工藤君は図書委員会に入っている訳じゃない。だから図書室の運営で口を出すなら図書委員でないと」
「確かに」
もう駅の傍に来ているけど、このままじゃあ帰れないし。
「でもなぁ」
「お願い!工藤君お願い!」
「はぁ、仕方ない。明日、図書委員の作業内容を聞いてからね。本当にやれない場合もあるから」
「ほんと!やってくれるんだ。良かったあ」
「あの、俺やるなんて…」
「工藤君、また明日ね」
新垣さん、走って改札の中に入ってしまった。
「どうしたの工藤君。随分新垣さんと熱心に話をしていたけど?」
「あっ、水島さん。実は新垣さんから図書委員勧められて。なんか色々事情があるみたいで困っているらしい」
なるほど。でも工藤君が図書室の受付をしている時は、私も図書室に行って、一緒に帰ればそれだけ工藤君に近付ける。
「ねえ、工藤君。新垣さん困っているんでしょう。手伝ってみたら」
「えっ、水島さんまでそんな事言うなんて」
「いいじゃない。やって見たら。それより改札に入ろう」
「う、うん」
俺は電車の中で何故か水島さんに図書委員になる事を勧められていた。
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