新垣美優のお願い
私、新垣美優。翌日の入学式が終わって、土日が過ぎ迎えた月曜日。今日は体育館で各部活の活動を新しく入学した一年生に説明する日だ。そして明日は図書オリエンテーションが行われる。
図書委員会も一年生には少しだけ説明するけど、持ち時間は五分。意味がない位の短い時間だ。本番は明日だけど、どれだけ聞いてくれるか怪しい。
特に今はスマホでなんでも調べられるし読める。でも図書室の魅力はそうじゃない。しかし、私が何を言った所で聞いてくれないと話にならない。厳しいなぁ。
駅を降りて学校へとぼとぼと歩いていると後ろから声を掛けられた。
「おはよ、新垣さん」
声の方向に顔を向けると
「あっ、工藤君、おはよ」
「どうしたの?元気なさそう」
「うん、図書委員の勧誘、見込み薄いなあと思って」
「そうかぁ。大変だね」
「一番期待の有った君には断られるし。今年は絶望的です」
「何で俺なの?」
「一年生の図書室利用日数が一番多かったから」
「えっ、俺なんかより全然図書室利用する人多いでしょ?」
「そんな事ない。君が一番多かったの」
今一つ信じられないけど、新垣さんがそうと言っているんだから。でも本当なのかな?だけど事実三学期はほぼ毎日行っていたし。一学期も二学期も確かに利用はした。でもなぁ?
「ねえ、もう一度考えてくれない図書委員」
「うーん、ごめん」
何としても工藤君を図書委員にして接点を多く持たないと、これは私の使命なんだ。彼が委員になってくれれば…。
話をしたまま、上履きに履き替えて教室に入って行くと小見川が挨拶をして来た。
「工藤、新垣さん、おはよ」
「小見川、おはよ」
「小見川さん、おはようございます」
「工藤、もう新垣さんと一緒に登校かよ」
「駅出た所で、偶々会ったんだ」
「ふーん、俺もそんなラッキー欲しいな」
「小見川、去年と違って、積極的だな」
「ああ、もう二年になったからな。後二年しかない」
何言ってんだこいつ?
今日は、午前中通常授業の後、午後からは新入生向けの部活説明会がある。関係ない人間は帰っても良いし、説明会を後ろから聞いても良い事になっている。
俺は新垣さんの言葉が気になったので行って見ると
吹奏楽部が凄い。一条のバスクラリネットや緑川さんのフルートがとても素敵に聞こえて来た。一年生からも大喝采だ。
次は演劇部の説明。門倉さんの持って生まれた可愛さと演劇のうまさに皆真剣に見惚れている。終わるとこれも大きな拍手に包まれた。
次は、野球、男女テニス、男女バスケ、陸上等々が今までの実績と入ったらこんな事が楽しいと思い切り説明している。
野球部は先輩に混じって田中が説明、バスケは前田がやはり先輩に混じって説明していた。二人共イケメンだから駆り出されたか?そう言えば陸上部小見川は出て来なかったな?
終わり近くになって新垣さんと三年生の図書委員会の説明が有った。運動系や文化系の華やかさが無い分、あまり聞き入っている一年生は少ない。これでは確かに新垣さんの心配は理解出来るな。
でも俺が入ってもどうなるもでも無いしな。壇上を降りる新垣さんが寂しそうだ。
一通りの説明が終わると俺は、体育館を出て、教室に戻りバッグを取ってマンションに帰ろうとすると
「工藤君、待って」
後ろを振り向くと
「門倉さん、部活はもう良いの?」
「うんもう終わった、一緒に帰らない?」
「良いけど」
「ふふっ、良かった」
祐樹が、門倉さんと一緒に教室を出て帰って行った。あの場所、本当は私の場所なのに。なんとか祐樹をもう一度私に振向かせたい。もう耕三とも完全に別れた。でも今のままじゃどうにもならない。考えないと。時間はある。
私、新垣美優。工藤君が校門を門倉さんと一緒に出て行った。あの子は、今日の説明会でも注目を浴びていた。
あの子と工藤君の関係は何なんだろう。とても楽しそうに話をしている。何とか彼と近付きたい。その為にも図書委員になって貰わないと接点が見つからない。
今、工藤君と一緒に駅に向かっている。彼は今一人だけど、心配なのは心菜と渡辺さんという子。二人共工藤君の元カノ、二人共工藤君を裏切った子、そんな子達をこの人に近づけさせたくない。
去年の告白はまだ有効だと思っている。だから何かきっかさえ有ればもう一度押してみるんだ。
里奈は半分遊びみたい。残りは優子だけ。彼女とはとても仲のいい友達だけど工藤君は渡したくない。
「ねえ工藤君。君は理系、それとも文系を選ぶの?」
「うーん、そうだね。もう進路決めないといけないね、面談もあるし。でもまだ決まっていない。多分だけど理系に行くかな。でも文系の余地もある」
「それって、何も決まっていないって事?」
「うん」
「あははっ、面白いな工藤君は。実言うと私も決まっていない。だから来年理系、文系にクラスが別れた時、工藤君と一緒に居たいなと思っている」
また重い事を言ってくれるな。門倉さんモテるんだから、俺なんかで無くても良いのに。
「ねえ、工藤君。去年、二学期に君のマンションに行った時、私が言った事覚えている?」
「あういうのは中々忘れられないよね。でも断った筈だけど」
「でも、心菜三ヶ月も持たなかったでしょ。だからまだ有効かなと思って」
「……………」
そんな事言われてもなんて答えればいいんだ?
「もし、君の心の中でまだあの言葉が生きていたら…もう一度」
「門倉さん、今はまだ一人で居たいんだ。君の気持ちはとても嬉しいし、あの時、君に返したメールは本当の気持ち。でも今は一人で居たい」
美月と別れて四か月で心菜を選んで三ヶ月で裏切られてというか、俺が浮気相手になるのかな?それからまだ三ヶ月。とても女の子と付き合う気になれない。
「そうだよね。ごめんね。無理な事言って」
「構わないよ。でもまだ一人で居たい」
「分かった。じゃあもう無理は言わないけど、友達として偶には二人で会ったりしてくれる?」
「それならいいけど」
やったぁ。恋人じゃなくても二人で会えるならチャンスはいくらでもある。私の胸を見られたんだ。この人を逃がしたくない。絶対に彼にするんだ。
「あの、門倉さん。俺ここで降りるから」
「あっ、ごめんね。また明日」
「うん、また明日」
危なかった。つい彼の事で頭が一杯になっていた。でも今の約束、まだ優子はしていない筈。先手必勝だよ。
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うーん。
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