決めないといけない
この話は緑川さんと祐樹のデートがほとんどです。
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私、緑川優子。私が最後に工藤君と会う。野乃花と里奈には会った時の話は流石に聞いていない。
彼女達は順番ずつ日曜日に会っているけど、学校では何事も無かったかの様な顔をしている二人。でも表情でちょっとだけ分かる。でもそれは今はいい。
心菜が何か怪しい感じがする。私達三人が工藤君とのデートが終わるまでは彼とは会わない様にと言っておいたけど、何故か彼との間に自然な流れがある。絶対にどこかで会っている。でもいつ会っているか分からない。だって二人共別々に帰るから。
明日は、十月の第二日曜日。しっかりと秋の装いで彼に良い印象を持って貰わないと。
彼と学校のある駅、つまり私の家の最寄り駅で待ち合わせした後、遊園地に行く予定。
本当は家に呼びたかったけど両親や兄弟が今日は自宅にいるという事であの案は廃案となった。
後は、二人で良い雰囲気を作れるところ。そう遊園地だ。だから今日は駅に午前九時に待ち合わせした。
駅に行くと彼はもう来ていた。ネイビーブルーのパンツに黒のスニーカ、それにシャツとパーカーを着ている。今日のデートに合った動きやすい格好って感じ。
「工藤君、待ったぁ?」
「いや、今来た所。俺の所から近いし」
「そうだね」
「今日遊園地で良かったかな?」
「うん、俺も良いと思った」
「そっかぁ、二人の思いが一致したって事ね」
「…………」
「なんでそこで、そうだねって言ってくれないの?」
「いきなりだったんで、まだ心の準備が」
「何それ、面白い。さっ行こうか」
「うん」
遊園地のある駅までここの駅から十二駅、ちょっと遠い。でもこの長さも重要。しっかりと彼の傍に座って沈黙を楽しむんだ。
緑川さん、いつもより少し大人びた感じの雰囲気をしている。何も話さないけど俺にはそれが心地いい。それでも少しだけ話した。学校の事だけど。
やがて遊園地の駅に着いた。夏の様な混みようは無かったけど人は一杯いる。あの時と同じ様にチケット売り場に並んで遊園地の入場券だけを買った。あの時のお姉さんはいなかった。良かった。
「工藤君、何から乗る?」
「うーん、緑川さんの好きな奴からでいいよ」
「じゃあ、定番のあれで行く?」
「えっ、でもいいの?」
「うん」
それは二回転半するジェットコースター。結構有名な奴。だから並んで待つことも無かった。
緑川さんから先にシートに座って貰い、それから俺が座った。腰と肩をシートベルトでしっかりと閉めた後、上からバーが降りて来た。
「工藤君、これって」
「何?」
「なんか、本格的ね」
あの君がこれに乗りたいって言ったんでしょ。
ゴトン、ゴトン、ゴトン。
「く、工藤君、上がって行くよ」
声が少し震えている。
頂点に着いた所で急激にと言うか真っ逆さまに落ちて行く。
キャーッ。
また昇って行き急激に下がって一回転
キャーッ。
もう一回転
キャーッ。
最後の斜め回転で
キャーッ。
やっとスタート地点に戻って来ると
「緑川さん、降りようか」
「く、工藤君。シ、シートベルト外してくれないかな」
あれ、震えている。仕方なく、肩と腰のシートベルトを外すと俺に捕まって来た。
「あの、緑川さん出るのはそっちなんだけど」
「えっ、あっそうか。ちょっと待ってね」
「ゆっくりでいいから」
彼女は揺れながらなんとか腰を上げて反対側に出ると俺も急いで出た。
「工藤君、捕まっていいかな。足が震えて階段降りれない」
「いいけど」
彼女が思い切り俺の腕にしがみついて来た。彼女の胸を思い切り感じる。
緑川さんが反対側の手で手すりに摑まりながらゆっくりと降りると
「工藤君、あそこに少し座ろうか」
「うん、いいよ」
花壇の横にあるベンチに二人で座ると彼女はそのまま俺の腕にしがみついたまま、俺に寄りかかって来た。思い切り彼女の柔らかさを感じてしまう。でも退かせないし。
ふーっ、なんて乗り物なの。もう少し遠慮っていうものが無いのかしらジェットコースターって。
でもこのおかげで私は彼に思い切り寄りかかっている事が出来る。体全体で私を感じさせるんだ。あれだけが良いわけじゃない。
十五分位経ったので、私は彼の腕から離れると
「ごめんなさい。あんなに凄い乗り物とは知らなくて」
「緑川さん、これ初めてなの」
「うん」
どういう事?
「じゃあ、もっと楽な奴に乗ろうか」
「そうだね。あれなんかどうかな」
「あれ?いいけど」
なんといくつかの蛸さん乗り物が中央の軸から出た腕にくっついて居て、それが回転しながら上下する乗り物だ。周りは小学生とその親ばかり。
動き出すと
「あははっ、工藤君これ良いね」
「そ、そだね」
恥ずかしい。
彼女とその可愛い乗り物を十分に堪能した後は、
「工藤君、あれ乗ろう」
「あ、あれ」
今度はメリーゴーランドだ。それも馬車の中。恥ずかしい。
「工藤君、楽しいね。なんで顔赤いの?」
緑川さんが思い切り喜んでいる。
「ソンナコトナイヨ」
恥ずかしい。周りは子供と大人だけ。それもお母さんが多い。
やっとメリーゴーランドからも解放された。
「工藤君、そろそろお腹空いたね」
「そうだね。何か食べようか」
「園内に結構レストラン有るから探そうか」
「うん」
俺達が入ったのはウエスタン風のレストラン。ショーケースにはボリューム満点のハンバーガーやスパが並んでいた。お肉料理もある。
「工藤君、何食べる?」
「俺は、あの二百グラムのステーキセット」
「さすが、男の子ね。私はあのサンドイッチセットにする」
入口でチケットを先に買い店員に案内されて席に座りチケットを渡すと
「工藤君、私って君から見てどんな感じに見える?」
「いきなりだね。そうだな、綺麗でスタイルが良くて頭が良くて、自分をわきまえて居て、とても素敵な女性だよ」
「じゃあ、そんなに褒めてくれる女性とお付き合いする気持ちはどの位あるかな?」
「それだけストレートだね。でも教えない。それは三人が終わった最後に皆に同時に言う約束だから。でも緑川さんの様な人好きだよ」
「えっ!」
彼女、顔が赤くなったよ。
彼女は下を向きながら
「そっかぁ。工藤君は私を好きなんだ。良かった。全然恋愛対象にもならないなんて言われたらどうしようと思ったんだ」
「そんなことないよ。緑川さんだったら色々な人から声を掛けられるでしょ」
「その話は、ここでは無し。ここでは君と私だけの会話にしたい」
そういう事か。
「そうだね」
注文の品が届いたので、二人でさっき乗った乗り物の話をしながら食べた。食べ終わると午後一時半だ。三十分程休んだ後、お店を出た。
「工藤君、お腹が落着くまで少し園内を散歩しない」
「いいよ」
「手を繋いでいいかな?」
どうしようかな。でもここでだけなら。
「いいよ」
「ほんと」
ふふっ、工藤君と手を繋いで歩いている。まるで恋人同士みたい。こんな事出来るなんて思ってもみなかった嬉しい。
「ねえ、あれに乗らない?」
「あれ?」
今度は、ジャングルの中を大きな船が遊覧する乗り物だ。実際は船がレールの上を走っているので船酔いする事も無い。でも人気があった。三十分程待ってやっと乗れた。
「結構待ったね」
「まあ、これは人気ありそうだからね」
私はベンチに座って、彼の腕に寄りかかってみた。彼は拒否しない。そのままずっとそうしていた。船内の案内なんて聞こえない。彼の腕に寄りかかっているのが気持ちいい。
なんか緑川さん、さっきから俺の腕に思い切り寄りかかっている。これじゃあ立ち上がる事も出来ない。でも彼女とても嬉しそうな顔をしている。このままでいいか。
船がスタート地点に戻って来た。さて最後の仕上げね。
「工藤君、あれ乗ろう」
「いいよ」
彼女が乗ろうと言ったのはここの売りの一つ。大観覧車だ。直径百二十メートル。頂点は相当に景色が良いと聞いている。
俺達の順番が来てボックスに乗った。勿論向い合せで。ゆっくりと上がって行く。
「ねえ、工藤君見て見て、凄ーい。周りの景色が一望だよ」
「そうだね」
確かに綺麗だ。流石にここの売りなだけある。四分の一程上がった所で
「工藤君、そっちに行くね」
「えっ?」
「ふふっ、動いちゃ駄目。揺れるから」
私はまた彼の腕にしっかりと抱き着いた。
「工藤君、あれ見て」
彼が顔をこっちに向けた時
チュッ。
彼が目を丸くしている。でも何も言わない。だから今度はゆっくりと彼に口付けした。
そして彼の背中に腕を回した。彼は避けない。あっ、腕を回して来た。強く吸って来た。
私は目を閉じてそのまま彼に体を委ねた。どの位経ったのか分からないけど後残りが四分の一迄になった時だと思う、彼が唇を離した。
「ごめん、ちょっと過ぎちゃった」
「ううん、いいよ。とても嬉しかった」
私はもう一度彼に軽く口付けをした。そしてスタート地点に戻った。
大成功だ。遊園地に来た目的の全てをクリアした。これならなんとかなるかも知れない。
私は、帰りの電車でも彼の腕にずっと捕まって寄りかかっていた。これだけ許しくれるなら、もしかしたら。
降りる駅に着く直前に
「緑川さん、今日はとても楽しかった。そして素敵な一日だった」
そして私が降りる前に
「緑川さん、さようなら」
えっ、またねじゃないの?
その日の内に全員に多分連絡が行ったのだと思う。彼から来たメールには
『緑川さん、とても楽しい一日でした。ありがとう。貴方の様に素敵な女性とお付き合いする事が出来ればどんなに幸せな事か分かりません。でも俺は橋本さんを選びます。ごめんなさい』
そんなぁ…。
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ふーん。
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