久しぶりの実家
昨日、緑川さんとプールに行った。今日は実家に帰る日だ。簡単に朝食を済ませて食器を片付けるとスマホで母さんに今から帰ると連絡した後、数日分の着替えをスポーツバッグに入れてマンションの部屋を出た。
マンションのある駅から実家の最寄り駅まで四駅、直ぐに着いた。そこから歩いて十分。駅から放射状に走っている道路の右から二番目の道を歩いて、大きな道路に出る前に左に折れる道が有る。そこを曲がって直ぐ右手にある家が俺の実家だ。
車止めのある正門をくぐって玄関まで行くと母さんが待っていてくれた。
「祐樹お帰り。暑かったでしょ。直ぐに入りなさい」
「ただいま、母さん」
俺は母さんの後に付きながら玄関に入った。いつもながら無用に大きな玄関に見える。玄関を通ると上がり口に珍しく兄さんがいた。俺の兄、工藤正孝だ。
お母さん似の端正で綺麗な顔。文句なしの美男子だ。背も俺と同じ位。頭も優秀。性格も優しくて俺を可愛がってくれている。
「祐樹、久しぶりだな。話したい事も溜まっている。父さんもリビングで待っているから」
「分かった。荷物を部屋に入れてから行くよ」
それを聞いた兄さんはリビングに歩いて行った。俺は玄関を上がり廊下を歩いて奥にある階段を登ると左に曲がって二つ目の部屋。そこが俺の部屋だ。
エル字型の取っ手を右に回してドアを開いた。普段、掃除や風を通してくれているのか、蒸れた感じはない。
入って直ぐ左に机があり、少し間を開けて俺用のダブルサイズのベッド。反対の壁側には、大型の本棚が二つ。その向こうには引き出し型和ダンスが一つと観音扉型の洋ダンスが二つある。ベッドと本棚の間は透明ガラスローテーブルが置かれている。
物心ついてから中学三年まで使っていた部屋だ。俺は、床の上にバッグを置いて椅子に座った。
机の上の写真には、もう関係が戻る事の無い美月と一緒に並んで撮った写真が置いてあった。俺はそれを写真立てから引き抜くとびりびりに破いてゴミ箱に捨てた。なんでこうなっちゃたんだろうな。
そんな事を考えながらぼーっとしていると、母さんが呼びに来た。
俺は階段を降りて洗面所で手洗いとうがいをしてからリビングに行くと父さんと兄さんがソファに座っていた。
「祐樹、四月からだから四か月半か。どうだ一人暮らしは?」
いきなり兄さんが聞いて来た。
「まあまあだよ。可もなく不可も無くってとこかな」
「そうか、ところで空手の稽古は続けているのか?」
父さんが割込んで来た。
「うん、毎日は無理だけど、なるべく行くようにしている。夏合宿にも参加する」
「そうか、そうか。それは良かった」
兄さんとの会話をそのまま父さんが引き継いで俺と話している。そこに母さんが入って来た。
「祐樹、食事はどうしているの?」
「まあ、適当にしているよ。自分で作る事もあるし、外食する事もある」
「カップ麺とかで済ましてないわよね。もし出来ないならお手伝いを通わせても良いのよ」
「母さん、それでは祐樹を一人暮らしさせた意味がない。今から色々覚えておいてくれないと」
「父さん、俺を一人暮らしさせた時の理由ってしきたりだって言っていたよね。今の話はなに?俺が何を食べてどう生きようが関係ないだろう」
「そんな事は無い。大事な子供を一人暮らしさせているんだ。上手く暮らしているか心配なのは親として気にするところだ」
「それはそうだけど」
「はいはい、せっかく祐樹が帰って来たんですから。祐樹お昼は何が良い?」
「うーん、母さんの作ってくれたもの」
「それじゃあ、分からないわ。まあいいわ、祐樹の好きな物を作ってあげる」
「ありがとう母さん」
お昼を食べた後、明日から行く思井沢の別荘での予定を話す事になった。別に何か拘束すると言う訳ではない。
向こうに行って各自何をしているかだけの確認だ。兄さんが先に口を開いた。
「俺は、毎年同じ散歩と本読みだ。世事を考えなく好きにしていたい」
今度は俺の番だ。
「俺も散歩かな。後は…。ゴロゴロしている」
「そうか、近くのショッピングモールに行かなくてもいいのか?」
「買うもの無い」
「俺も兄さんに同じ」
「分かった。父さんと母さんは、散歩やモールでの買い物をするつもりだ。二日目の夜は皆でBBQをしよう、準備は手伝ってくれ。明日は渋滞するだろうがせっかくの休みだ。のんびり行く事にする。朝午前九時出発だ」
「「了解」」
久しぶりに夕食を家族で食べた。父さんは機嫌が良くて兄さんと一緒に酒を飲んでいた。俺は夕食後、すこしだけダイニングにいた後、自分の部屋に戻った。
部屋に入るとさっき破いた美月の写真が気になったがそのままにした。スマホをブロックしている訳じゃないけど、掛かってこないという事は完全に俺に見切りをつけているんだろう。
もしかして向こうで俺をブロックしているかもしれないしな。いずれ消す事にするか。
ベッドに横になっていると母さんがお風呂に入りなさいと言って来た。久しぶりの実家のお風呂だ。
マンションのお風呂も大きな方だが、実家の風呂は大きさが違う。大人二人がゆっくりと体を洗い、湯船に入る事が出来る。
でも一人暮らしになれてしまったのか、頭と体を洗い、湯船に入るとさっと上がってしまった。
頭を乾かすと母さんが
「お部屋に冷たい飲み物を持って行ってあげるから待っていて」
「ありがとう母さん」
少しして直ぐに持って来てくれた。部屋に入って飲み物を置くと
「祐樹、困っている事は無いの。お金は大丈夫。洗濯とかどうしているの?」
「母さん、心配し過ぎだよ。お小遣いや生活費は毎月使い切れないし、洗濯だって乾燥までしてくれる完全自動だし。困る所を探さないといけない位だ」
「そう、でもお母さん、心配で」
「ははっ、大丈夫だよ」
「分かったわ。でも実家に帰った来た時位、思い切り甘えてね」
「分かった」
母さんは、小さい頃から徹底的に俺を甘やかしてくる。だから逆に何とか自分で物事を考え、こなす様になってしまった。まあ、これも教育方法の一つかもしれない。
パジャマに着替え、ベッドに横になると学校で一学期に起こった事がフラッシュバックしてしまった。
美月から新しい彼氏が出来たから別れたいと言われて、別れたけどまさか皆が言っている様な事を本当にしているんだろうか。中学の時付き合っていた美月とは想像もつかない。でも俺にはもう関係ない事。
橋本心菜さん。色々な事に積極的でちょっと人の心に土足で踏み入りそうになるけれど、何とか踏みとどまってくれている。押されっぱなしだな。
緑川優子さん。美少女でスタイルも良くて、でも優等生って感じ。
水島里奈さん。ちょっと分からない事が多すぎる子。人の心の中に決して入ってこようとはしなくて、会っている時は爽やかで気持ち良いけど、何人かの男の人と付き合っている感じ。まあ友達だけなら良いんじゃないかな。
そして門倉野乃花。まだ全然分からない。
でも男友達は良い奴が多い。小見川、前田、一条、田中。まだ分からない所が多いけど少なくても俺に対して敵愾心は持っていない様だ。むしろいい友達の立場にいる。
そんな事を考えている内に眠ってしまった。目が覚めた時は次の朝だった。
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