幕間2
気が付いたら、あの真っ白な部屋にいた。私は、真っ白な空間にぽつんと浮かんでいる椅子に座っていた。私に向かい合うようにして立っていたハルカはお腹を抱えて笑っていた。
「ねえねえ、忍ってあんななの?僕と話す時と全然態度違うじゃん」
さっき私は眠ろうとして布団に入り、目を閉じたはずだ。それが次の瞬間にはこの空間にいた。これは夢なのだろうか。それともさっきまで体験していたのが夢でこっちが現実なのだろうか。どちらにしろ、現実と夢の境界ははっきりしているのにどちらもこんなに鮮明に意識があるのでは眠った気がしないではないか。それに、1日の半分はあの顔を見なければいけないと思うといらいらする。私は未だ声をあげて笑っているハルカを辟易した顔で見た。
「なになに?僕に言いたいことがあるのなら言ってごらん?」
「別に…」
なるべく私の前に姿を見せないでほしい、なんて思っていても相手にそんなこと直接言えたおとはない。それがこの怪しさの塊のような男でも。
「うんうん、忍の考えていること、わかったよ!忍的には今いるのが夢だと思ってくれて問題ない。僕は忍と意識レベルでつながっているんだ。だから忍の夢の中に登場する。意識がやけにはっきりしているのは、僕が夢を通じて忍とつながっている弊害みたいなものだよ。身体はしっかり休息をとれているんだから心配することはない」
私の思考なんてお見通しだという顔でハルカが告げる。ただ、そういうことではない。身体は休めているかもしれないが、こんな風にハルカと毎日毎日会うなんて、気疲れするのだ。いっそ寝ない方がましだと思えるほどに。
「せめて3日に一度にして。というか、どうして私の考えていることがわかるの?」
私のうんざりした表情なんて、ハルカはまるで気にしない。会話をしているはずなのに自分の気持ちの一切が無視されているようで気分が悪い。
「そっかそっか、善処するよ。2日にいっぺんくらいは遊びに来たいけどね。それはさっきいったろ?僕と忍は意識レベルでつながってるって。忍の考えを読むなんて簡単さ」
「勝手に読まないで。それに、私とつながっているのならどうして私はそっちの考えていることがわからないの」
責める口調で投げかけた私の問いはまたもハルカによってひらりと躱される。
「まったく、まったく。面白いねえ、忍は。そんなの年季の差に決まっているじゃないか。僕はこの意識の世界で漂って長いんだ。忍も慣れたら僕の考えが読めるはずだよ」
なんてことないように話すハルカにいらいらする。
「第一、ここはどこで私はどうしてあんな世界に飛ばされているの?」
ハルカのペースにのまれて聞けていなかった核心に触れる。
「えー、それ聞いちゃうう?それに僕、相手の質問に答えてもいないのに自分は質問したら答えが返ってくるって思っているやつ、好きじゃないなあ」
「質問?」
「なになに、忘れているの?最初に聞いたじゃん!何で僕の時と全然態度違うの?って」
あれは質問だったのか。気が付かなかった。
「特に意味はないけど。ただ、私がああいう風に生きられたらいいのになあって憧れ?の部分を全面に出してきた感じ?」
素の自分かどうかはさておいて、あんな自分でありたいと思ったのは事実だ。結構無理していると言われたらそうとしか言いようがないが・
「ふむふむ、いいね!楽しい世界になりそうだ。忍をこの世界に連れてきた理由はね、忍自身で考えてごらん?そっちのほうがきっと楽しいから。この世は楽しんだもん勝ちだよ!」
「楽しいだもん勝ち…」
だったら、私の人生は負け組だったのだろうか。そんなことを考えこんでしまっているうちにハルカはいなくなっていた。