セーブポイント
高速道路を降りてすぐのところに使われていないアパートを見つけた。このご時世い使わているものなどほとんない、という世紀末ジョークはさておき、俺と心はそのアパートの2階の空き部屋を使うことにした。俺が真ん中の部屋で、心は日の出が見える位置に出窓がついている角部屋。
1階に3部屋、2階に3部屋の計6部屋のシンプルなアパートは、築年数は経ってそうだがキッチンも風呂もそこそこの広さがあり住みやすそうだ。どの部屋も、世界が滅ぶ前から人が住んでいなかったのがわかるくらいがらんどうだったが、水道も電気もガスも通っているのが嬉しい誤算だった。といっても別にここに永住するつもりないが、「人探しの旅なんて往々にして長期戦なんだし、セーブポイントは必要だよ」という心の意見は全面的に同意する。
何より、ショッピングモールもコインランドリーも近くにあるこの場所はとても住みやすいという意見の一致によりひとまず仮の住処が出来た。
「鯖の味噌煮が食べたい」という心のリクエストを叶えるため、アパートで1時間程度休憩してから、ショッピングモールに行くことにした。歩いて行ける場所にこんな便利は建物があるのは助かる。正直心の運転は危なっかしくて最低限しか乗りたくない。冬から春に移り変わ季節、まだ日は短いと思っていたが、5時過ぎに外に出ると、まだ日は明るかった。
アパートから歩いて15分のところにあるショッピングモールは、地元にある、心と初めて会ったショッピングモールより一回り小さい。看板に書かれた、テナントのロゴが少し剥げているところからも、古いショッピングモールであることがわかる。ふたりで一緒に来たショッピングモールでは早々に別行動となった。
「食べ物買う前に生活用品とか、他のもの買ったほうがいいよね」
という至極当然の意見に同意し、各々着替えやら衛生用品といった生活必需品を買ってから、食品売り場て落ち合おうという話になったからだ。
「お互いの連絡先を交換して、何かあったらすぐに連絡するようにしよう」と一言言い残して去っていった心は、何だかんだいってもやはり大人なのだなと、心の電話番号が追加された携帯電話を見つめながら思う。
多分自分は、そこそこ友達は多かったと思う。100人以上の連絡先が入っていながら、実際に連絡を取れるのは心だけだと思うと、他の連絡先を全て消してしまいたいような、そんな投げやりな気持ちになってしまう。それでも、もしかしたら今電話したら誰かに繋がるかもしれない。そんな気持ちに憑りつかれると消せない。他の誰かに電話をかける勇気も、連絡先を消してしまう勇気も、そのどちらもないくせに、そんなことをぐるぐると考えてしまう。
買ってきた料理を俺の部屋で料理する。心は今日ショッピングモールで買ってきた折り畳み式のローテーブルに並んだ鯖の味噌煮を一口つまみ、感嘆の声を上げた。
「美味しい!瞬くん、料理上手だねえ」
「そりゃ、どうも」
高校生男子なんて、手放しで褒められ慣れていないのだ。そんな風に喜ばれると反応に困る。決して嬉しくないわけではないが。
「私も料理出来たらなあ」
鯖の味噌煮を見つめながら残念そうに心が呟く。
「まずは基礎を身に着けてからにしてくれ」
心の料理の腕前は、率直に言ってひどかった。
夕飯を作る俺の周りを、「手伝えることはない?」とうろちょろ動く心が鬱陶しくて、みそ汁に入れるネギを切ってくとお願いしたら、包丁を持つ手つきがすでに危なっかしい。結局、戦力外通告を受けた心は、味見係兼後片付け係に落ち着いた。
「瞬くんはどこで料理習ったの?」
「別に、両親が共働きだったから自然と?」
「自然と出来るようになるのかあ」
鯖を口に運びながらしみじみと語られても、こんなの体が勝手に覚えるものだから他に説明のしようがない。量類が出来ないからなのか、心がもともと栄養バランスなんて気にしない人なのかはわからないが、味噌煮とみそ汁とか味噌尽くしでバランス悪かったなあ、なんてところに文句をつけてこないのは助かったが。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
でもまあ、心が料理出来ない間は、俺にも仕事があるってことだからと、相手が出来ないことを喜ぶなんて性格が悪いと思いながら完食された皿を見て安心する。