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転生の狭間にて  作者: 海野桃
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昨日は一日映画を見てコンビニ弁当を食べただけだが、精神も身体も想像以上に疲れていたみたいだ。ホテルの部屋に戻り、ざっとシャワーを浴びてベッドにダイブした次の瞬間にはもうアラームが鳴っていた。夢も見ないような深い眠りについていたようだった。

準備と言ってもほとんど何もないが、歯を磨いて、ホテルの備え付けのパジャマから昨日来ていた服に着替え、貴重品を持ってフロントに行くと既に心は待っていた。

「おはよう。早いな」

「おはよー。よく眠れた」

「夢も見ないほどには。想像以上に自分が疲れていたようで驚いたよ」

そう言うと、心は嬉しそうに笑った。

「で、あてがあるって言ってたけど、どこに?」

「外に!」

ホテルから歩いて10分弱のところにガソリンスタンドがあった。

「なんで、ガソスタ?」

「レンタカー借りようと思って!」

得意げに語る心に俺は浮上した疑問をぶつける。

「いや、俺免許もってないし、誰が運転するんだよ」

見渡す限り車を運転出来るような人間は見当たらないが。

「私が!」

当然と言った顔で話す彼女に驚いた。

「え⁉免許持ってんの!心って、いくつなわけ?」

高校生で免許を持てない訳ではないが、校則で禁止されているパターンが多いはずだ。この辺りに住んでる人は、大体大学生になるタイミングで免許を取る。

目の前で笑う心はどう見ても、中学生か、高校生といった風貌だった。

「25歳のお姉さんですよー。そういう瞬くんは、いくつなの?」

「17歳。高2。ごめん、てっきり年下だとばっかり思ってた。…敬語で話した方がいい?ですか?」

想定外すぎる。年上のお姉さんという生き物に夢を見ていたわけではないが、こんな幼い25歳が存在するのか。

「別にいいよー。実年齢より幼く見られることは慣れてるし。敬語も別に使わなくていいからね、今更口調変えられると気持ち悪いし。名前も呼び捨てで呼んでくれてかまわないから」

ケラケラと笑う彼女にほっとしつつも、申し訳ない気持ちになる。

「あと、俺もう手持ちが…」

昨日の映画代とコンビニ弁当代、ホテル代で俺の全財産は使い尽くしてしまった。たまたま多めに財布にお金を入れていたが、それでももう限界だ。

心に何もかも任せっぱなしで申し訳ないと昨日思ったばかりなのに、結局今日の俺も心に任せっぱなしで何の役にも立ててない。情けない。

「わかった。お金と車のことはお姉さんに任せなさい!その代わり、力仕事とか私が出来そうにないことはお願いしてもいい?」

「ん。わかった」

交渉成立。頷く俺を心は満足そうに見つめる。

「じゃあ、今後の方針といたしましては、レンタカーで行けるところまで旅して、他に生きている人がいないか探す!というのでいかがでしょうか」

かしこまってこっちを見てくる心に。「ああ。で、どこに行く?」と問いかけた。

「そうだなー。私、あったかいところがいいなー」

そう言うと、カーナビに熱海と入れる。

「熱海って、あったかいのか?」

行ったことがないからよくわからない。俺は就学旅行以外で地元から出たことのない人だ。

「さあ?行ったことないからよくわかんない。でも、語感があったかそうだったから」

「ふーん」

そんな雑な理由でいいのか、と思いつつも文句を言う理由も見つからない。結局旅の目的は生まれたが、目的地なんてないのだ。どこに行けば目的は達成出来るのかがわからないのだから。

心が意気揚々とレンタカーのエンジンを付けて、ふたりきりの旅が始まった。


「なあ、大丈夫か?」

高速道路を走り始めてから1時間。心配が波が押し寄せて、ついに声をかけたが返事はない。

運転はよくするのかと聞いた時、心はペーパーだと答えた。不安げな顔をした俺に、ペーパーの人が運転を怖がるのは、対向車や歩行者がいるからだ。誰もいないこんな状況なら、怖がる

要素はないと胸を張った。心の自信に反比例して俺の不安は増していったが、確かに自分達が死ぬような大事故が起こらない限りは問題ないかと考えることをやめた。

それを今、後悔している。いざ、運転が始まると前だけを真剣に見つめ俺の声は一切聞こえなくなった心を見て、ひょっとしたら事故ってふたりとも死ぬかもなあ、なんて思ってしまう。

何度か「大丈夫か?」と声をかけたが大丈夫とも、大丈夫じゃないとも答えが返ってこず不安が募る。

「おい、ちょっと休憩しないか?」

目の前に現れたサービスエリアの看板を指さすと、心は微かに頷き、車を停めた。

「あー、緊張したー!」

「だろうな、俺も寿命が縮んだ」

「ごめんって」

「なんであんな自信満々に運転出来るなんて言ったんだよ」

少し咎める気持ちが入った俺をっ見て、心はけらけらと笑った。

「お腹空かない?お昼食べよっか」

フードコートを見つけ、楽しそうに走っていく心を半ば呆れた目で見送った。

だが結局、フードコートでお昼を食べることは出来なった。

「いくら飲食店があっても、お金があっても、店員さんがいないと食べれないよね。厨房入っても作り方が分からないし。結局お惣菜とかお弁当になっちゃう」

フードコートに併設されているお土産売り場の隅に置かれた冷蔵ショーケースから心は牛丼を、、俺は唐揚げ弁当を手に取った。昨日から続けての弁当に既に飽きがきていたが、他に選択肢がないのだから仕方がない。折角サービスエリアに来たのに出来立てのご飯が食べられなかった心は不満そうだ。

「じゃあ、高速降りたらスーパー寄って。食べたいもの、考えといて」

「料理出来るの?」

心が意外そうに聞いてくる。がっかりしながら牛丼をちびちび食べている心がかわいそうだったから、夕飯くらいは好きなものをと思って提案したのに、失礼な言い草だ。

「そんなに大したものは作れないけど。他にも必要なものあるなら色々買い足そう」

少し仏頂面で答えると、笑いながら謝ってくる。

「ごめんって、料理出来るの意外だったから。私全然料理出来ないから嬉しいなあ。それにいい加減、服とかも着替えたいしね、」

箸をおいて「ごちそうさまでした」と呟いてから立ち上がる。


「心」

出発前にトイレに行きたいと言った俺を、心は車内で待っていた。名前を呼ぶと、携帯を見つめていた心が振り返る。俺はそんな心の鼻面にコーヒーを突き出した。

「車、運転してくれるお礼。コーヒー嫌いか?」

「ううん、嬉しい」

きょとんとした顔が葉願する。たかだか130円のコーヒーでこんな全開の笑顔を見せてくれるとは思わなかった。照れて赤くなった顔を見られないように顔を背けた俺に気づかないまま心は「嬉しいな」と鼻歌を歌う。

「じゃあ、出発します!」

高らかに宣言した心に「安全運転でお願いします」と声をかける。

「まじで安全運転でいいからな。他に車いないんだからゆっくり走っても大丈夫だからな」

何度も念押しをする俺に心は憮然と「わかってるよお」と答えた。

二日間一緒に過ごして何となく人柄がわかってきた。心は、子供っぽいし、騒々しい。年上らしく俺を導こうとしてくれている割にはどこか危なっかしい。何の役にも立てていない俺の言えた義理ではないが、前途多難な旅だと思った。

それでも、何を言っても笑って返してくれる心がいることは俺の支えになっていた。

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