ボーイミーツガール3
コンビニから徒歩10分のホテルに到着し、隣同士の部屋に泊まるように準備をする。ネットでホテルの値段を調べ、受付にお金を置いた後、カウンターの中に入っていき鍵を手にする。俺にふたつあるうちのひとつの鍵を手渡し、「部屋に荷物置いたらここにもう1回集合ね」という心を俺はぼんやりと眺めていた。会話の受け答えがしっかりで出来る程度には回復したが、俺はやはりどこか現実を受け入れられずどこか夢見心地で動いている。そんな俺にとって、迷いなくてきぱきと動く心はどこか恐ろしく見えた。
ふたたびフロントに集合して、備え付けの電子レンジで弁当を温めてからローテーブルに座る。
「「いただきます」」
弁当を食べながら、今の状況を確認する。
「朝起きた時は、普通だったと思う。友達と映画を見に行く約束をしていたから、駅に向かって、電車に乗ってからうたた寝したみたいなんだよな。電車が止まって、ドアが開いた音で目が覚めて、寝過ごしたと思って周りを見たら誰もいなかった。降りた駅での人通りは全くないし、電話も誰にも繋がらない。寝ぼけているのか電車に乗った前後の記憶が曖昧だし。どうしようもなくて、とりあえず集合場所の映画館に向かったら、あんたに話しかけられた」
「私も似たような感じかなー。朝起きたら誰もいなくて、少しでも人のいるところに行ってみようと思って歩いて行くうちに、あのショッピングモールに流れ着いたというか…」
「で、俺に話しかけたと。あの状況で映画見ようとか、ちょっと普通じゃないよな」
「一緒に見てくれた瞬くんもね。でもまあ確かに、気は動転していたのかも。いったん座って落ち着こう、的な」
心は行動に迷いがなく、楽しそうだったから冷静なんだと思っていた。そう言われると心も俺と同じで動揺していたのかと思い立つ。いくら自分が動揺していたからって、自分より年下えあろう女の子に今後どうすればいいかを任せてしまって申し訳ないことをした。
「まあ、俺も予想外のことを言われて逆に冷静になれたからいいんだけど」
「ところで、電車で目が覚めたら誰もいなかったって言ったよね?そこから私に出会うまで誰とも会わなかった?」
「ああ、全く。どこを通っても無人。電車も、目が覚めてからは全く動く兆しがなかった。バスも。公共交通機関は全滅だった」
「でも、コンビニの自動ドアは開いたよね。映画でも発見手続き出来たし、電子レンジも使えたし」
「ああ。つまり、電車やバスは動かす人がいないから動いていないだけで、電気やガスの類は使おうと思えば使えるってことだよな」
「多分。それなら当面は暮らせそうだね」
会話が明るい方向に向かってきた。とりあえず、すぐに死ぬような危機に直面しているわけではないと知れただけでも、大分気持ち的には楽だ。
「まあ、しばらく暮らせそうだってわかっただけでもよかった。でも、何で誰もいないんだと
思う?」
しまった、会話を広げようと思って選んだ話題が最悪だった。また会話が暗い方向にシフトする。
「わからない…。目が覚めたら誰もいないなんて普通じゃない。地震や感染症でもなさそうだし」
この規模の地震や天変地異に無自覚なんてありえないし、何より建物や街お外観には何ひとつ変化はないのだ。感染症だったとしても、前触れもなく突然人類が消え去るなんて可能性ゼロに近いだろう。
「ネットで情報が一切更新されないのが痛いよな。何が起きたのかがわからない」
段階を踏んで世界が滅んでいったのなら、誰かしらがそのことをSNSに更新していたろうに。「そもそも、俺ら以外に人っているのか?」
「それだ!」
俺のひとりごとに、心が反応した。
「は?」
「他に生き残っている人がどこかにいないか、探しにいこうよ」
「どうやって?電車もバスも動いてないのに」
「それについては考えがあります!とりあえず、明日の9時に、ここに集合で!」
俺の反論なんて聞く気もない心の勢いに押されて、思わず頷いてしまう。
心は話したいだけ話して、俺に疑問だけ残して自分の部屋に戻っていった。
世界から俺達以外がいなくなった、怒涛の一日はこうして終わった。