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転生の狭間にて  作者: 海野桃
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ボーイミーツガール

初めて小説を投稿します。

お目汚し、不備等ありましたらすみません。

楽しんでいただけると幸いです。

真っ暗で何も見えない。何も聞こえない。ただ、自分が地面に横たわっていることはわかる。痛くも、気持ち悪くもないが。暑さも寒さも感じない。

どうにか立ち上がろうと、手探り辺りを探してみるが、支えになるようなものに触れることはできず、瓦礫が崩れるような音が響いた。瓦礫の、硬いくせに騒々しい音に驚いて、何も出来なくなる。

そうこうしているうちに、目が慣れてきた。目の前は、自分が思っていた以上の惨状だった。薄薄暗い室内で蠢いている影は、全て人間だった。中には窓ガラスが体に刺さって血まみれになっている人もいる。思わず自分の頭に手を持っていくと、どろりとした液体が手についた。自分の血液なのか、他人の血液なのか、そもそも手についたのか血なのか、怖くて確かめることもできない。しかし、少し自覚したらじんじんと頭が痛み始めた。

手は少し可動域があるが、手で触れられる箇所では瓦礫しか掴めない。身体は重く、何かに上から押さえつけられているようで動くことができない。目だけ動かして、助けを求めるように辺りを見ると、自分の斜向かいに、向かい合うように男性が倒れていた。

ぐったりと目を閉じた男性は頭から血を流しているが、それ以外の外傷はないように見受けられる。私はその男性の顔をまじまじと見つめ、呻くようにつぶやく。

「あ…あ、どうして…」

その声に返事は返ってくることはなく、私もそのまま意識を手放した。


「ねえ、次は何を見る?」

彼女は心底楽しそうに映画の上映スケジュールを見ながら尋ねてくる。俺は30分後に上映開始の洋画を答えた。先ほど映画館の入口前にある小さなモニターで予告版が流れていた。どうやら派手なアクションシーンとカーチェイスが売りの作品のようだ。ど派手な洋画は失敗が少ない、俺の持論だ。

「なるほど、洋画ってあんまり見たことがないかも」

「じゃあ、別のにするか?」

俺が選んだこの洋画で失敗することは少ないとは思うが、何としてでも洋画が見たいという訳ではない。彼女に他に見たいものがあるならそれがいい。

「何言ってるの!普段自分が見ないものを見れるからこそ、人と映画を見るのは楽しいんでしょう!」

そういうものなのか、ならば彼女の言葉に従おう。どう足掻いてもこの場を支配しているのは彼女なのだから。

慣れた手つきで発券手続きをすませ、嬉しそうにスクリーンに向かっていく彼女の後を追いながら俺は、今日何回目の光景だろうかと、ぼんやり考えていた。

「あー!面白かったー!まさかヒロインが黒幕だったなんて思わなかった、洋画って久々に見たけどこれにして正解!ねえ、次は何を見る?」

「もう、いいだろ?」

本日5回目の会話に俺はようやく異を唱えた。

「まだ、全然足りないよ!」

「もう5本目だぞ。一日中映画を見て、十分楽しんだろ?そんなことより、他にすることが

あるだろう」

「例えば?」

楽しんでいたのに水を差されて心外だ、といった表情で彼女が問う。

「例えばって…」

「今やるべきことは何かって聞かれても、映画もうちょっと見ようよ、としか答えられない。つらい現実に向き合った時に、楽しいことをして現実逃避するのは生きていく上での処世術のひとつだよ。だから、私は私の気持ちが落ち着くまで映画を見るの。逆に、君は何をするべきだと思うの?」

「…自己紹介、とか?」

彼女を責め立てるような口調で話してしまったわりには、馬鹿みたいな答えしか出てこなかった。しかし彼女はそんな俺に対して優し気に微笑んだ。

「じゃあ、私のことは心でいいよ。君は?」

「俺は、瞬」

彼女、もとい心はようやく映画の発券機から手を放し俺の顔を見た。向かい合ってじっくりお互いの顔を見たのは初めてのことだった。栗色のくせっ毛を肩のあたりでばっさりと切りそろえ、申し訳程度の化粧をした心は、中学生のようにも高校生のようにも見えた。話し方のテンションの高さの割には行動がしっかりしているから、高校生かな。ジーパンに白のTシャツ。ピンクのスタジャンに小さなリュックといった出で立ちの彼女は、正面から見ると意外と小さな人なんだな、そんな感想を抱いた。俺の身長がそこそこに高いことを考えても、目視で150㎝弱しかないように見えた。

「わかった、瞬くん。じゃあ、次は今後のルールを決めようか!」

「は?」

「今後ふたりで暮らしていくにあたって、守ってほしいルールを決めておくの。その、最低限のルールさえお互いに守れるなら他は好きなように過ごしていいってことにしよう。私は、私のやりたいことに付き合ってくれること!瞬くんは?」

「ふたりで暮らすの?」

心はさくさくと話を進めていく。俺は、心の会話のペースに全くついていくことができない。そんな俺の態度を意地でも一緒にいたくないという意味といったのか、不安そうな顔で心が尋ねる。

「ダメなの?私、ひとりで生きていく自信ないよ。どんな人でも一緒にいてくれる人がいるなら縋りたい。瞬くんは違うの?ひとりでも大丈夫な人?」

「いや、俺も正直、仲間は多い方がありがたいけど、」

戸惑いながら答えると、心は嬉しそうに笑った。ほんとうに表情がころころよく変わる人だ。

「じゃあ、決まりね!で、瞬くんは?何か守ってほしいルールはある?」

「いや、今のところ特には。とりあえず法に触れない範囲なら何しても気にしない」

「わかった。じゃあ、過ごしていくうちに直してほしいところとかあったら、その都度教えてね」

映画館から出ると、外は真っ暗だった。朝からずっと映画を見ていたのだから、もう夜になっていることはわかっていたが、急に暗闇の中に放り込まれると身体がびっくりする。そんなことよりも異様なのは、俺と心さん以外の人が見当たらないことだった。街で一番大きなショッピングモールに併設されたこの映画館ではこの後もレイトショーの上映予定がある。食料品売り場だってあと2時間は営業予定のはずだ。それにもかかわらず駐車場には1台の車もなく、お客どころか従業員すら見当たらなかった。

まあ、わかっていたことだが。

「にしても、こんな私達以外誰もいない世界で、法律なんて気にする?」

「探せば、誰かいるかもしれないだろう?」

「どうだろうねえ?」

ぶっきらぼうに返す俺に、心は、けらけらと楽し気に答える。こんな状況で何がいったい楽しいのだろう。

そう思いつつも、心の考えがきっと正しいのだろう。理性はそう言っている。朝からずっと、感情がついてこないだけだ。

世界は滅んでしまった。

この世界には俺と心のふたりしかいない。

生き延びるためには、彼女と一緒に協力しながら暮らしていくしかないのだ。


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