伯母さんちへ
包括センターへ行ったあとは八女に行った。
伯母さんの家だ。これが本当の目的だった。
大きな菓子折を持って準備万端。もちろん、二個。
おじさんは、来るだろう。来てくれないと困る。2人が情報共有しているのは明らかだった。家を奪られたときも、法事の時も最終的に意見は一致していた。
車のナビに伯母さんの住所を入力。車は上津の幹線道路から小道に入り、やがて大きな道路に。吉野家を斜めに曲がって、左手のパチンコを通った。もうすぐだ。移動時間ニ十分。
伯母の家についてすぐに車を入れた。電話して到着したことを伝えた。
玄関に招き入れてくれてから、仏さまにお参りしていつものソファーに座った。
菓子折りは仏壇横に置いていた。もう一個をテーブルの下に置いた。
「今日は浩一も来るのよ」
伯母が言う。
よっしゃー。伯母さんと話して、それを叔父に話をするのは正直めんどくさかった。いっしょにいてもらえれば、話は一回で済む。
でも。おじさんだけだと、話がひっくり返る可能性もある。そして、変更した事柄は、「そんなことは一度も言っていない」の言葉で処理される。今まで何度、ひっくり返ったか。叔父が何度伯母が言ったまともなことをいろんな魔法で説得して、自分たちの言う通りにしてきただろう。
年寄りには自分の都合のいいことしか覚えていないという、武器がある。
「智子おばさんも来るから」
「そうなの、よかった」
ヨシ。
ドラマで言う影の支配者には来てもらわなければならない。
最後だから盛大にしたいと言っていた伯母だが、結局規模を小さくすることを教えてくれた。出席者は叔父夫婦、伯母、妹のあき子と母、わたしたち夫婦である。
叔父に説得されたのだろう。智子叔母が浩一叔父に説得し、それを伯母に言った。前は叔父の方が強かったのに今は智子叔母の方が権力を持っている。歳を取るって、そういう事だ。
妹は一度も香典を持ってきたことはない。法事の後の食事、そしてお土産の和菓子。彼女はおいしいものを食べ持ち帰る。たまに罵倒。はあ、気が重い。
お寺の住職に言われた永代供養はしなくていい、ということをフライングだが伯母さんに言った。永代経は永代に浄土真宗が続くことを願っているだけなのだ。そもそも意図していることとは違うということを。
しばらくして叔父夫婦がやってきた。笑顔であいさつをした。お菓子のお土産を渡す。渡すばかりでもらったことなんかない、と思いながら本題に入る。
「永代供養は浄土真宗はないそうです。永代経はずっと浄土真宗が続きますようにとの願いを込めて願うものです。趣旨が違います。やらなくていいと思うのですが、どうでしょうか」
「じゃあ、なんで法事で一緒にするって住職は引き受けたの。おかしいじゃない」
智子おばさんが言う。
「檀家がやりたいモノを断ることはない、ということだと言ってました」と、わたし。
「じゃあ、どうするのよ。法事を永遠に続けていけってことなの」
と、智子おばさん。
「いえ。今回でおしまいにしたいと思います」
「じゃあ、そのあとどうするのよ」
「全部終わったら、わたしが徳島に連れていきます。おじいちゃんもおばあちゃんも」
「美帆が全部するんだね」と、叔父。
「はい」
「それでいいんじゃない」と叔父。
「なんで、美帆がするのよ。アンタは坂東家でしょ。椛島家じゃないでしょ。アンタは坂東家を守るべきなの。する必要はない。やるのはフジさんだよ」
伯母さんが声を荒げた。
「お母さんが亡くなって、全員いなくなったらの話です。そうなったら徳島に持っていきます。仏壇が家に二個あることになります。住職はいいって言ってくれています」
「そんな必要ないよ。お母さんが亡くなったら全部終わりにするべきだよ。おしまい、それでいいよ」と、伯母。
「まあ、先の話なんで。お母さんが長生きしてわたしが歳を取ったら、久留米に何度も行くのは無理なんでおしまいにしますけど」
先のことなんてわからない。わたしが母より先に死ぬかもしれない。
「おばあちゃんの両親の位牌がありました。それを祖父母の法事の時にお返ししたいのです。許可してほしいのです。どうでしょうか」
「何言ってるんだよ。なんで、知らない人間の世話までこっちがしなけりゃいけないんだよ」
叔父が声を荒げる。
知らない人じゃない。おばあちゃんの両親だ。おばあちゃんの両親ってことは、アナタたちの祖父母だ。祖父母がいなければアナタたちは生まれてきていない。もちろんわたしも。
「和之が勝手に位牌を作った。こんなことをして罰あたりだよ、まったく」と、伯母も言う。
「お父さんが本当に位牌を作ったのかな。おばあちゃんの両親だよ。戦争の混乱で家族全員亡くなって誰も祭る人がいなくなった。おじいちゃんは位牌を作るのを許さなかった。だから、おじいちゃんが亡くなった日に位牌を作った。おばあちゃんの両親への愛だったんじゃないの?」
わたしが言った。
曾祖父母の位牌に記載された日にちは祖父の命日と同じだった。叔父や伯母も知っていた可能性もある。きっと忘れているだけだ。
「和之が勝手に作ったんだよ。それとも美帆が作ったのか。アンタ、何か知ってるのかい」
伯母が言った。
「作ってないよ」
おじいちゃんが亡くなったとき未就学だったわたしが、ほんとうに作れると思っているんだろうか。曽祖父母に至っては生まれるずっと前のことだ。
『きっと、嫌な思い出があるんだよ。祭りたくない理由が。意見を尊重することも大事だよ』
夫が以前言っていた。そんなこと、説明してくれないと分からない。
「和之が悪いんだよ。罰当たりだよ。あの人たちはわたしたちの知らない人だからね」
伯母さんが言った。
そんなわけない。お父さんは優しい人だった。優しかったから、おばあちゃんの願いを叶えただけだけなのに、こんなこと言われてかわいそうだ。普通に考えたらそれしかない。
死人に口なし。
「とにかく、位牌は住職に預けたいんです。いいですか」と、わたし。
「兄さんの責任なんだから、美帆がどうにかすればいいんだろう。こっちは関係ないんだから」と、叔父。
「そうはいっても、位牌はあるんだから預けるぐらいいいんじゃないの」と、伯母。
助かった。
「お金は払わなくて結構ですから。おじいちゃんとおばあちゃんの香典代だけください。代金は母が払いますから」
叔父さんは何も言わない。
よかった。これで、もめない。
「ところで、僕たちの面倒は美帆が見てくれるんだよね」と、叔父。
「美帆は本家なんだから、死んだあとはしてくれるんでしょ」と、続ける。
「しません。本家とか分家とかやめませんか。もう、本家はお父さんの代で終わりです。わたしは坂東です」
「じゃあ、誰がするの。おかしいでしょ」と、叔父。
「ちょっと、あなた」と、智子おばさん。家で話そうと言っているみたいだった。
「息子にしてもらったら。おじいちゃんとおばあちゃんは持って帰るけど、叔父さんは持って帰らないから」
息子が大事なんだ。息子にお金を払わせたくないんだ。
わたしはあなたの金づるではない。
自分の子供や孫をハワイに毎年一回連れていくことは出来ても、祖先を祭ることは出来ないんだ。それを子供は絶対見ている。同じ目に合う。きっと。




