帰る日。
最終日は墓参りに行く約束をしていた。
朝、母親がはがきの請求書をめくって「見えない見えない」と連呼していた。
細かい数字の羅列。わたしだって見えない。
どこからの請求だろう。表を見ると、あて名は知らない人だった。
「お母さん、これお母さんの手紙じゃないよ」
「どうしよう」と、母。
あて名は山下さん。ヤバイ。知られたくない個人情報。携帯の毎月の請求額らしい。請求書の金額を開けたとばれると、ここでの人間関係悪くなる。
「郵便局に持っていって、返そう。一番悪いのは郵便局だ。でも、お母さんも、あて名を確認してから開けてよ」
「どうしよう」
「墓参りの前に行くよ」
郵便局は9時オープン。少し待って家を出た。青峰の郵便局。建物が見えた。駐車場に曲がって停めようとしたとき、妹の旦那が角に立って犬の散歩をしているのが見えた。
小太り、ボーズ。ビールっ腹。
視線が合った。
郵便局の建物横の駐車場に止まって、建物のカゲに潜んだ。車を出ようとする母を手でふさぐ。
「あいつがいた」と、わたし。
「あいつ?」
「あき子の旦那。角にいた。犬の散歩していた。見えなかった?」
「そうなの」と言って出ようとする。
「やめて。出ないで」
「なんでよ」
「やめて。お願いだから」
しばらく時間が過ぎて車を出た。郵便局に入り、ドアの向こうから顔を出して、旦那がいないか確認。いなかった。同じ町内。散歩してもおかしくはない。ご近所。
「まったく」と、母。
車はベージュのライズ。レンタカーだ。バレなかったと思うけど。あの男と目があった。
郵便局ではがきを渡すと、住所を確認された。母と同じ住所。山下さんって知らないか母に聞くと知らないと言う。なんだ、前の住人か。焦って損した。
そしてあの男と会って損した。
あの男はまだ、働いていなかった。
それからは最悪だった。ずっといらいらして車の中でケンカした。母がバスに乗ってそのあとタクシーで墓参りをしていて、いつまでも道を覚えられないとこぼすから、バス停の後のコースを教えると言ってナビを入れたがうまくいかなかった。母は車が一台通るか通れないかの道を指さして、そこを曲がれと言う。ムリだと言うと「バカだね」と罵倒する。親切で教えようと思っただけなのに気持ちは空回り。やってあげようなんて、結局ムダなのだ。そんな気持ちはおこがましいのだ。
やっと着いたと思ったら、母は勝手に車から降りてさっさと歩き始めた。わたしは大泣きして、外にばれないように車の中で叫んだ。
「お父さん、そっちに連れて行って。もう嫌」
返事はなかった。
それから、顔を整えて車を出た。何事もなかったようにお墓参りをして、掃除をした。
仕事は終わった。母を家に戻して早めに家を出た。ガソリンを満タンにして車を返した。高速バスに乗った。さあ、福岡空港へ。やっと帰れる。
またしばらくお休みします。たぶん、次の更新は4月か5月あたりになると思います。人生っていろいろあるね。




