49日の食事会
食事処たちばなは、大きなお店だった。お昼の懐石を6人分予約していた。
49日に準備しなければいけないものはリサーチしていた。葬儀屋に、49日に渡すお菓子の手配もしていた。住職には法事が終わった後、あの中庭付きの部屋に移動する前に金封に入ったお金とともに、お菓子の入った大きな白い紙袋を渡していた。食事処たちばなの駐車場でも、それぞれ車にいるときに叔父と伯母にお菓子を渡した。妹には食堂内で渡した。
店内にはカウンターがあり、座席がいくつもあり、奥にいくつかの座敷がある。店員に名前を言うと、一番手前のお座敷に案内された。テーブルには箸や湯飲みがセットしてある。
席は伯母と叔父、叔母と壁際の席にに次々と詰めていく。妹が奥手前に座った。必然的にわたしは妹の横。手前入り口の方に母が座る。
「提灯がないなら買わなきゃいけないわね」
座ってから伯母が言う。
「そうですよね、大事です」
わたしが言った。
目の前に料理が運ばれてきた。運ばれてくるのが一段落してから声を出す。
「みなさま、今回はお忙しい中、父のために集まっていただきありがとうございます。お食事をしながら初盆についてご相談したいと思います。どうぞ、話を聞きながら食べてください」
みんなは食べ始めた。わたしは人数分の天ぷらご膳を頼んでいた。刺身に茶碗蒸しに、てんぷら。煮魚に、フルーツ。小さなあえ物や、いもの煮物。すごい量だ。思っていたより多い。
「提灯なんですけど、どんなものを選んだらいいか教えてほしいんだけど」
わたしは伯母に聞く。
「家紋の入った提灯が必要ね、対になった形のやつ」と、伯母。
「お父さんの提灯、買ってきてほしいんですけど。お願いできますか。母は交通手段がないから、そちらで手配していただけると助かります。選んでいただいた提灯のお金は払いますから。いいよね、お母さん」
「そうね。お願いします」と母。
わたしがまた、久留米にきて母を連れて提灯を買いに行くのは無理だ。仕事もある。それに、伯母に頼めば、しきたりにそぐわないものは買ってこないだろう。のちに怒られるリスクが発生する危険はない。
「わたしと、浩一で和之に提灯を買おうと思っているのよ。そのついでもあるし、買ってきてあげるわよ。車を出してくれる? いいよね、浩一」
「もちろんだよ、姉さん」
叔父が言う。
「お願いしている分際で申し訳ないけど。初盆は一か月後だから、早めに行ってほしいんです」
わたしは言った。
「わかったよ、美帆。来週の土曜日休みだからその日はどうかな。姉さん、予定ある?」
「それでいいよ」と、伯母。
「買ってきてから、後でお金を払います」と、わたし。
「お金は、誰に請求するの。美帆でいいの」と、叔父。
「わたしに言ってくれたら、お支払いします。提灯はお母さんと折半で。後でもらうから」
わたしは言った。
「それでいい?お母さん」
「そうだね」と母。
「あき子も払うよね、あき子も入れてあげないと可哀そうよ」
伯母が言う。
「払いません」と、妹。
「払いなさい」と、伯母が言う。
「払いません」
「払いなさい」
「は ら い ま せ ん」
妹が大声で怒鳴った。
「いいんですよ、払わなくても。わたしが妹の分を出すから」
わたしが言った。妹がわたしを睨んでいる。
「あら、そう」と、伯母。
お父さんが亡くなる前から、今まで一度も妹はお金を出していない。お金を払うわけがない。
「お父さんはプライドが高かったから、ボケたのが嫌だったみたいなんだよね。だから、病院に行くのが遅れたんだよ」
妹が父を語っている。叔父も、それについてなにか答えている。わたしは話には関わらなかった。
お前は父を語るな。
ひと時の時間。お父さんの話。わたしはそのあともずっと話に加わらなかった。あんなに、住職にいろいろ話してもらいたかったのに。みんなの会話は薄っぺらい。
もし、死後の世界があって、父がこの食事会を覗いているとしたら、どんな風に見えるのだろうか。
食事の量が多くて食べれなかった。たくさん残った。
「歳を取ってから食が細くなってね。食べれないんだよ」
叔父が言う。叔父は70くらい。ずっと前から細い。
「いや、この量は多すぎるし」と、わたし。
店員さんに詰める用のパックをもらい、各々食べ物を持ち帰った。今日の夕食はこれで十分だ。妹だけがすべて残さず食べきっていた。
彼女の胃袋が大きいのか、わたしが疲れきって食べれなかったか。どっちかだ。
店を出てから、智子おばがわたしに近寄ってきた。母は支払いのため店内にいる。
「あき子ちゃんと、仲直りしなさいよ。フジ姉さんからあなたは、二人きりの姉妹を分断されているのよ。そんなこと、おかしいと思わない? 美帆ちゃんは利用されているだけなんだよ」
「なにそれ」と、わたし。
「姉妹は仲良くしなさい。ケンカするべきじゃないの。これは、お母さんが仕掛けているだけなんでしょう。お父さんだって、あの世で悲しんでいるわよ」と、叔母さん。
智子おばさん、提灯代払わないって言った妹の言葉、聞いていましたか。
妹になに吹き込まれているんだか。
お父さんを出すなんてズルい。お父さんはあの家から追い出されているんですけど。もう、あの家には戻れないんだよ。お父さんが家を追い出されたことをこの人は理解しているのか。父が小細工を仕掛け続ける妹と、わたしが仲直りすることを望んでいるとは思えない。これからわたしが妹に搾取し続けられる人生、それを父が望んでいるって今言っていますか。
「ふーん。そうですか」
わたしはなんて答えていいか分からなかったから、とりあえず言葉を出した。
店を出て、それぞれの家に帰った。伯母は叔父が連れて帰ってくれるという。お礼を言ってお願いした。
わたしは母を家に送り届けてから、伯母の家に行った。証拠を見せるために。法務局から取った家の事由証明書と申請書類を写した写真をコピーしたものを持っていた。
家には伯母さん一人だけだった。叔父は帰った後だった。
やっぱり証拠がないとこっちの気持ちはわからない。叔父はまだ、あの土地は父のモノだと信じているのか。ありうる。こんなこと、普通の人間はしない。
伯母さんに書類を渡す。父の印鑑証明や父がサインしたという丸文字。法務支局で取った全部事由証明書。わたしがゲットした証拠の品々、すべて。
「これ、お父さんの字だって」
伯母さんに見せる。
「これは、和之の字じゃないよ」と、伯母は言った。
「叔父さんにも見せて。見せたらシュレッターしてくれたら。こんなモノ、わたしが持っているだけでいいかな。複数置いとくのはまずいから」と、わたし。
「分かったよ、美帆」
伯母が言った。
サキに証拠を見せたとき、サキの目が変わったように、叔父夫婦の考えも変わることを信じるしかない。
次の日、徳島の家に帰って、お寺での49日の話をした。法事が罵声で大変だったこと。お父さんの話ができなかったのが悲しかったことを話した。
「やっぱりね。そうなると思っていたよ」
夫に言われた。
あと出しジャンケンみたいなセリフだ。わかっていたのなら、先に教えろ。
「美帆は優しいから、辛かったんだね。お父さんとしっかり良いお別れをしたかったのにね」と、夫。
びっくりした。
美帆は優しい? 自分が優しいなんてそんなこと、一度も思ったことなんてない。わたしは怒りんぼうで、短気で、どうしようもなくバカな人間だ。優しい人間が、妹の犯罪の証拠を、親戚に渡すわけがないじゃないか。




