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名字を変えまくっているかも

 携帯を開いた。

 妹からのショートメールが届いている。ラインも電話番号も廃止するんじゃなかったの?

 引っ越しの当日にメールがきていたのだ。

『お世話になります。先ほど母上様もおいでになり、荷物搬出無事終わりました。入金はゆうちょでも構いません』

 ゆうちょの番号が記載されていた。

『お世話になります。振込完了した際、連絡してもらえると助かります。遅くなりますか?司法書士報酬(住宅ローン抵当設定)アテにしています。よろしくお願いします』

『今週中にします』

 返事をした。

『お疲れ様です。了解しました。すみません』

 夕方、携帯を見た。

『病院が連絡を取りたいとのことです』

 あきらかにあき子の旦那からのショートメール。妹が病棟からなにか言われたのだろう。着信履歴を見た。ある。芳川病院だ。

 狭い県営住宅の部屋の中に、引越し荷物の残骸があちらこちらにある。バタバタと片づけで忙しくて、わからなかったのだ。電話をかけた。病棟につないでもらう。

「椛島さんのご長女さんですか。お父様、鼻のチューブが取れまして。椛島さんはチューブのみで栄養を取っているので、困るんですよね。新曽我病院に受診して、チューブ入れに行って頂きたいんです」

「チューブが取れたんですか」

「そーなんですよ、いつの間にか取れちゃってたんですよね」

 言葉の語尾が長い。軽いノリ。「今日のお昼ご飯何食べた? 」みたいな感じ。若い看護婦の声。

「病院にはいつ受診したらいいんですか」

 怒りは隠した。

「こちらの紹介状を持って行ってほしいんですよ。病院に予約してもらって、それから申請して、主治医が書くので。最短で月曜日でしょうか。チューブ入れるのは日にちが決まってて、月、水、金です。今日は木曜日ですけど、明日の金曜日は無理ですから。紹介状の依頼をかけるのに最低一日はかかります。今日はもう終わっています」

 月曜日? 休暇は土曜日まで。とっくに徳島に帰っている。

「母が一人で行きます」

「駄目ですよ。もうすぐ80歳ですよね、ムリです。許可が出ません。娘さんがしてください」

「わたしは徳島なんです」

「そうですか。じゃあ妹さんに頼んだらどうですか」

 ムカつく。この看護婦。

「行きます。どうすればいいですか」

「まず病院に予約したら、こちらに教えてください。そうですね、介護タクシーも予約してください」

「介護タクシーはどこにすればいいですか」

「皆さん、それぞれ予約してますよ。こちらで紹介することは出来ません、調べてください」

「じゃあ、受診するのはどこですか。精神科ですか、内科ですか、胃腸科とか」

「えっとぉ。わかりません。調べて、またご連絡します」

 電話を切った後、頭を抱えた。

「どうしよう、お父さんチューブ取れたって」

「チューブ? 」

 母親が言う。

「鼻から入れていたチューブだよ」

 わたしはいらいらした口調で言った。

「病院に行って、鼻に入れなきゃいけない。新曽我病院に連れて行けって。予約もしろって」

「お母さんが一人で行くからいいよ」

「お母さんは年寄りだからダメだって」

 母に怒鳴った。こんなの、ただの八つ当たりだ。わかっている。でも、止まらない。

「どうしよう。今までずっと、休みばっかり取って、職場に迷惑かけてきたんだよ。休みの届けが終わった後なのに、急に休みを入れてきた。何回も、何回も、何回も。お母さんの用事で。今回も長いお休みもらったのに、また延長で休み入れなきゃいけない。どうしよう、クビになる」

「クビになる? どうしよう」

 母が落ち着かない様子で、その場を歩き出す。

 職場にすぐに連絡した。

「父の鼻に取り付けているチューブが取れたって言われました。地元の大きな病院に受診して、チューブを入れなおしてくれって。父の命綱は鼻に入ったチューブなんです。最短で月曜日。予約はしてないから、日にちはまだ確定してません。でも、日曜日、月曜日、火曜日と休まなきゃいけないかもしれない」

「こっちは気にしなくてもいいから。遠慮なく休んで。でも、日にちが決まったらすぐに連絡して」

 フロアマネージャーの今治さんは言ってくれた。

 電話をきった。わたしを母は心配そうな顔をして見ている。

「大丈夫? 」

「わからない」

 今治さんは怒ったりはしない。でも、店長は急に休んだらどう思うだろう。ファイザーの予防接種で二日続けて休み届けを出したときも、他の従業員と休みがかぶって予防接種の次の日は休みが取れなかった。今、コロナかどうかで疑心暗鬼。従業員は体調不良になると、休みがちになる。もしもかかっていたら、同僚にうつしてしまうから。だけど、PCR検査をしたら出勤停止になるから受けたくはない。職場は人数不足の中、なんとかシフトをまわしているのが現状だ。コロナ患者の少ない徳島と、大量発生している福岡のコロナ患者。こっちに帰ってくるのだって、申し訳ない気持ちでいっぱいなのに。

「ならないよ、クビになんか」

 怒鳴った。わたしって最低だ。

「大丈夫なの」

 母が言う。

「分からない。でも、職場にずっと迷惑はかけている」

 泣きたい。チューブ抜いたの、あき子じゃないの。わたしがこっちに来たから、嫌がらせしている。領収書見たけど、よその病院に受診したものはなかった。一か月の入院費用のみ。それが何枚もある。普通は、よその病院に受診することはないのだろう。父を介しての嫌がらせ。

 イヤイヤ、そんなことするわけがない。そんな命を懸けたひどいこと、するわけがないだろう。ありえない。しっかりしろ。きっと、お父さんが自分で抜いたんだ。鼻にチューブ入れるのが嫌だったんだ。そうだ、きっとそう。

 深呼吸した。

「今、慌ててもしょうがない。病院に予約できるのは明日だろうし、芳川病院から電話きてからだから。おばちゃん家に行こう。お母さんはお留守番したら。わたし一人で行くからいいよ」

「何言っているの、私も行くよ」

「お母さん、この間行ったときのこと覚えてないの」

「なにが」

 おばさんに、和之をこんな目にあわせてって言われたじゃない。覚えていないの? また、小競り合いになるんじゃない。

「大丈夫なの? 」

「大丈夫だけど」

 母を車の助手席に乗せた。 

「お父さん大丈夫かしら」

「分からない。でも、栄養は入っていないから、しんどいかも」

「かわいそうに、お父さん」

「そうだね」

 そうだ。かわいそうなのはわたしじゃない。父だ。

 運転する前に電話して、行くことを伝えた。もう、暗い。夜だ。疲れた。

 暗闇を車で走った。心の中がモヤモヤする。ただ、走りやすかった。いつもは飛行機で来てレンタカーを運転していた。でも、今回は自分の車。八女市へ向かった。

 

 裕子おばさんへの菓子折りを持って、家に上がった。お参りをした。仏壇にお菓子を置く。裕子おばさんはニコニコしていた。あいかわらず、スタイルがいい。身長は再会する前より縮んだと思うけど、それでも、身長は160くらいはあるだろう。すっと立って、腰は曲がっていない。

「今日は浩一も来るんだよ」

「浩一おじさんも? 」

 ヤバイ。お土産持ってきてない。

 車の中に菓子折りを置いていた。それは、母が欲しいと言っていたお菓子だ。毎回足りなくならないように多めに買って持ってくるのだが、母はいつもわたしが持ってきたお菓子を見て、あの人にもあげる、この人にもあげる、と、どんどん人数を増やしていく。すべて予定で埋まっている。しかし、伯母にあげて叔父にあげない選択肢はない。

 慌てて車に戻り、お菓子を持ってきた。時間がきておじさんが家に来た。

「お久しぶりです」

 お菓子を渡す。ふー。セーフ。

「おばさんの分もあそこに置いてあるんだからね」

 仏壇を指さす。

「美帆、久しぶりだね、元気だった」

 おじさんが言う。

 元気なわけがない。でも、元気だと言った。

 叔父は若いころ身長が180を超えていた。今も高くて細い。ほとんどが白髪で、でも、髪はふさふさで髪型も変わらない。でも、70代。歳を取っていたが、相変わらずイケメンだった。お父さんは剥げているのに、兄弟でも雰囲気が全然違う。椛島家の血筋はみんな身長が高くて細い。わたしも少しは細いけど。足の長さも細さも、わたしは父に似ていると思う。顔は多分、母似。


 おじさんにも今までのことを言った。母が徳島に来たこと。胃ろうの時新曽我病院に転院させるときも家に入れてくれなかったこと。怖いメールが届いていたこと。DVを受けていること。洗脳されているかもしれないこと。借金をしていたこと。印鑑を返してくれなかったこと。荷物は取り戻したこと。父のチューブが抜けていて、受診させなければならないこと。

「自分の父親でしょ。何言ってるの、行きなさい。受診させるのは当たり前だよ」

 叔父に言われた。そうです、確かにそうです。でも、病院の受診に行くのに三日も休みを取らなければいけないことは理解してほしい。行って帰るだけでも往復二日間はかかります。

 母を久留米に戻したのはわたしだ。母が全部わたしがやると言ったから。考えが甘かった。母が受診させることができないなら、父を徳島に連れてくるしかないのか。徳島は面会できない。この状態でどうやって徳島に連れていく。どうすればいい。

「あき子に頼めば済むことじゃない」

 おばさんの言葉。

 おばさんはわかっていない。どんな目にわたしがあわされているのか。この間、メール全部見せたのに。

「すべてオマエがやれと言われてる。やるよ、全部」

「まあまあ、あの家にあき子が住むのに。アナタがやるの」

「そうだよ」

 裕子おばさんは母親の方を見た。

「美帆がやるなんて無理でしょう。あき子にやらせなさい。あの子は椛島家を引き継いだのよ、婿養子を入れて。お父さんだって、結婚したときは、本当に喜んでいたのに」

「いえ、今後のことは美帆にやってもらいます。あき子にはやらせません」

 母は言いきった。

「仏さんのことも、何もかも」

 伯母さんの、えって言葉が漏れた。

「仏壇はあき子でしょ。あの子は、椛島家なんだから。それであき子がしなくても、それは仕方がないことでしょ。美帆は嫁に行ったんだよ。坂東家のことをするんでしょうよ。関係ないだろうに」

 妹が仏壇を新しい家に入れるわけがない。お母さんの荷物さえ入れたくなかったのに。

「ほんとうは、アナタがすることなのよ、フジさん。あき子と話し合ったらどうなの」

「あき子とは話しません」

 母は言った。

「美帆、あなたは手を引きなさい。これは、フジさんのことなのよ。フジさんがやることなの、あなたじゃないのよ」

「お母さんが怒鳴られるんだよ。そのたびにお母さんの体調が悪くなる」

 伯母さんは顔をしかめている。

「わたしがするのは無理なんですよ、美帆しか駄目なんです」

 いつもは、私は年寄りだから無理です、って言葉をよく使うけど、今回は使っていない。伯母さんの方が年上だから。通用しないことを知っている。

「まあまあまあ」

 おばさんは言葉が見つからないのか。

「やっぱり3人で話し合ったらどうなの。私と浩一で立ち合うから。私たちがいれば、話せるでしょ」

「怒鳴る人と話したくありません」

 わたしが言うと、おばさんは顔をしかめた。

 伯母さんとは縁を切ると妹は言っていた。伯母さんが話し合いを打診したとして、親戚が立ち合った話し合いの場に妹が出てくるかも疑問だけど。

「こじれる前に、話し合えればよかったのに」

 そんな、常識のある人間なのか。こじれる前って、いつだ。家を壊す前? いっしょに住むと言ったとき? そもそも、家を壊す必要はなかった。老朽化で壊れたのなら、そのたびに修繕すればよかった。妹に渡した200万あれば、これから壊れるものも含めても、十分修繕できただろう。母はもうすぐ80だから、10年もたせれば十分だ。妹と話し合いをしたとして、今と現状が変わるとは思えない。

 そもそも、なんで家を建て替える必要があった。まあ、一見、母を面倒見たいと言う感じだっただろうけど、実はそうではなかった。古い古いと言っていたが、あの家で十分じゃないのか。母はなぜ、了承したのだ。母は、いつも何も考えていない。そのときの耳あたりのいい言葉に寄っていくだけ。いまさら過去を振り返っても無駄だけど、考えずにはいられない。

 二人で花畑のマンションに住めばよかった。職場から近くて、西鉄久留米駅から一駅。むかしごちゃごちゃした通りは区画整理され、大きな道が交差している。見た目もきれいで交通の便もいい。ただ、地価は高いから広い間取りはないだろう。2800万で希望する広さは手に入らない。そもそも、マンション自体を手に入れることができるのかもわからない。予算が足りなかったから実家の土地に広い平屋を建てることにした。それ以外に何がある。母と同居せず土地が欲しかった。母は徳島で暮らせばいい。そういう考えだったのだろう。

 裏口から誰かが来た。伯母さんがソファーから立ち上がり、キッチンに向かう。お持ち帰り用の竹の皮で作られた箱が4箱。テーブルの上に置かれた。

「寿司を頼んだのよ。夕食みんなで食べましょう」

「いただきます。わたし、お茶を入れます」

 立ち上がった。

「いいの、座ってて。わたしがするから」

 おばさんは立ったまま、湯飲みを出した。4個。

「姉さん、僕は食べないよ。夕食、家で食べてきたから」

「じゃあ、持って帰りなさい」

 わたしはテーブルに乗っていた雑誌や書類を簡単に片づけた。テーブルを拭く。

 四人で食卓に着く。回らない寿司を食べたのは何年ぶりだろう。叔父さんは開けていない箱の前に座った。お茶を飲んでいる。

 お茶もおいしい。

「家を売るつもりなんだよ、あき子は」

 おばさんはおじさんに言っていた。前、メールを見せていたのを覚えていたんだ。

「姉さん、家は売れないよ。借金をしているんだよ、あき子は。売れるわけがない。考えてみて。家は銀行の担保に取られているんだよ」

「土地を自分のものにするかもしれないよ」

 おばさんが言う。

「ねえさん、それは犯罪だよ。どうやって兄さんの土地をあき子の名義にするの。それやったら、一線を超えることになるんだよ。普通の人間にはできない。そこまでしないと思うよ」

 わたしは法務局の書類を見せた。土地と家。

「あら、両方ともお父さん名義じゃない、美帆良かったね。アナタいらないって言ってたけど、もらったらどう。アナタには権利があるんだから」

 裕子おばさんが言う。

 書類にはなくなったはずの家が今も建っている。事実と違う。 

「ねえ、浩一。和之は美帆に家を渡すって言ってたわよね、覚えてる」

「覚えてるよ、ねえさん」

「ほら、そうでしょ」

 伯母さんはわたしを見た。

「やめとく。住めないし。あんな家いらない。わたしの知っている家じゃないし」

 そんなことをしたら、もっと怒鳴られるだけだ。

「あき子はどうして怒っているの」

「わからない」

 怒って何かをカモフラージュしているとか。あっちの気持ちはわからない。

「美帆は、あき子とお母さんが別々で暮らせばいいと思っているんでしょ」

「そう。近づいてほしくもない」

「本当に土地はいらないの」

「いらない」

「じゃあ、話し合えばいいじゃない。やっぱり、立ち会ってあげるから話し合いなさい」

「怒鳴る人とは話したくない。どれだけ、怒鳴られたと思う。ずっと、分刻みで嫌がらせみたいな文章が届くんだよ。返事しろ、返事しろって言われて、答えたことに対しても、何度も何度も、教えろ教えろって言われる。悪口を言われる。恐怖でしかない。あんな文章を書いて威嚇する人と話すとか、ありえない」

「大体どうして、こんなことになったの。あの家を壊して。和之が入院している間に。ひどいとは思わないの、フジさん」

「わたしはあき子に追い出されたんです。こんなことをされるなんて思っていなかった」

「和之は、もうあの家に戻れないんだよ」

「本当にあき子はひどいことをしています。わたしたちをこんなめにあわせて」

 ゴングがなる。おばさんと母のラウンドが始まった。相変わらず、話がかみ合っていない二人。やっぱりこうなった。伯母はそもそも、家を建て替えることに反対だったのだ。

 わたしは二人の横で、叔父さんと今までの経緯を再度説明した。

「妹は洗脳されているかもしれないんだよね。DVも、受けてるし。旦那は前の結婚の時もDVをしているんじゃないだろうか。それで、離婚を繰り返したとか。奥さん側の苗字に何度も変わっているから、しっぽを掴めないとか。犯罪は帳消だよ」

 あき子は洗脳されているのか、されていないのか。わからない。もともとそういう性格なのかもしれない。わたしには暴言を吐いても大丈夫、と思われているだけ。でも、わたしが被害者って話は、うまくいかない。角が立つ。だから、おじさんの心に響くように、あき子が被害者だという仮説で話を進めた。それにわたしが今やっていることが正しいかどうかなんて、自分でも正直わからないし。

「美帆。苗字を変えても犯罪は帳消にならないよ」

「ならなくても、見つけるのは難しいんじゃない。フルネームが違うんだから」

「そんなことはないと思うよ」

「糟屋郡の事件があったよね、5歳の幼児が餓死したやつ。ママ友が母親を洗脳してお金を搾り取っていた事件。お母さんが洗脳されて、子供が餓死したよね」

「ニュースでやっている事件だね」

「あんな感じで洗脳されているんだと思うよ。お金を搾取されて言いなりになっているんだよ。旦那は働かないし」

「美帆。妻が働く、そういう夫婦だっているんだよ。夫が家を守ってもいいんじゃない」

「それでもいいと思うよ。でも、怒鳴りまくって人を思う通りに動かしていい理由にはならない」

「それはそうだけど」

「表面に出てくるのは一部だけだよね。事件として現れるのは、氷山の一角。あの5歳児餓死の事件はきっと、子どもが死んでしまったから表に出た。5歳児の子が自分の命と引き換えに母親を助けたんだ。世の中には洗脳されている人間がいっぱいいて、普通に暮らしてる。妹もその中の一人じゃないかな」

「さあ。でも、一線は越えないよ。簡単な話じゃない」

 叔父さんが言う。

「わたしにはわからない。でも、旦那が裏で妹を操作しているのは確実だと思うよ。旦那は同じようなことを再婚するたびに何度も繰り返していると思う。名字を何度も変えて。他の人の土地を妻名義で取ったり、財産を取りあげたりしているんじゃないのかな」


 次の日、病院から電話があって月曜日に新曽我の予約を取ってくれたとのことだった。受診するのは消化器内科。芳川病院が月曜日に予約してくれた。携帯で介護タクシーを検索、片っ端から電話したが予約でいっぱいだった。三回目の予約の電話の時、月曜日はいつも混んでるから、よその業者も直近の予約は難しいかも、と言われた。5件断られて電話をするのを止めた。

「すみません。介護タクシーの予約が取れません。他の日に変更してください。父は持ちこたえるのでしょうか」

 栄養が取れてないなんて。死んだらどうする。

「大丈夫ですよ、一週間くらいは問題ないでしょう」

 看護師がそう言った。それ、早く教えてくれ。

 電話がかかってきて、金曜日に予約が取れたとのことだった。2月4日金曜日だ。電話した。一回目の電話で介護タクシーも予約できた。以前の転院の時、乗せられた車いすでは窮屈そうだったから、ストレッチャーもレンタルで予約し、職場にも電話。一回帰って、また来ることにした。

「良かった。一番忙しい日曜日に休まなくて」

 日曜日に出勤できないわたしに価値はない。ただでさえ、迷惑かけているのに。

「よかったね」

 母はニコニコしていた。

 良かった、助かった。

 ずっとバタバタしていて、妹夫婦に父の医療費を振り込まなければならないことを忘れていたが、思い出した。携帯のショートメールを開く。

 久留米にいることを知られたくなかった。振込は実家の近くでしたくない。通帳には振り込む際に、数字の番号が出る。たぶん、ATMに固有の番号がふってあるのだろう。それとも、支店の番号か。通帳に記載された番号を入力したが、検索ではヒットはしなかった。でも、闇のルートであの二人に振込先が分かるかもしれない。いや、そんなわけはないか。でも、怖い。

 土曜日朝、帰る前に母がお弁当を作ってくれた。明太子の入ったおにぎりもある。受け取って車に乗った後、笑顔で別れた。

 少し走ったところで車をとめ、郵便局をナビで検索する。いくつかヒットした。ある程度離れたところに行き、場所を確かめ、再び検索。ここは知っている。次。そして、また次。ここもダメ。三回目で一度も行ったことないだろう郵便局を見つけた。県営を出てから一時間はとっくに過ぎていた。まだ久留米にいる。

 小さな郵便局。妹はきっと入ったことがないはず。存在も知らないだろう。小学校に近くで、横に小高い丘があった。中に入る。細い入り口近くのATM。ある。助かった。カウンターを覗いてみた。今まで見た中で一番小さい。携帯を見ながら、番号を入力。他の人が見たら、オレオレ詐欺でだまされている人に見えるだろうか。くだらないことを考えた。送金。そこを出て、そのまま高速道路への道を目指した。

 家に帰った。夫にお土産を渡して、家にある仏壇にお参り。お義母さんがいる。帰宅を報告した。

 ショートメールを開いてみる。

『お疲れ様です。間違いなく今週で計算しといて大丈夫ですよね? 多少、焦っております』

『メール遅れてすみません。入金しました。宮の里に確認したらお預かり金5万円はお返ししたと言われたのでその分は差し引いております。確認してください』

ラインを送った。さあ、どうする。罵倒するか。

『ありがとうございました』

 あき子の旦那からの返事。

 やっぱり、保証金のこと知ってたか。そうとうの狸だ。母のいう通り差し引いて送ってよかった。少しでも多くお金を引き出そうとしている。そういう男なのだ。

 妹がこの男に隠れて借金しているなんてありえない、と思った。

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[一言] 自己愛性パーソナリティ障害。最近多いみたいです。で、その周りには自己愛さんに洗脳された人‥フライングモンキーが、自己愛さんに成り変わって毒を吐くそう。世の中には到底理解出来ない人もいる。 そ…
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