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おかあさんの住所を教えろ

 1月11日。朝、ラインを開いてみる。見積もりはもうすぐ。文章がすごく送られているのは気づいていた。既読がきっとついただろう。

 1月8日

『オミクロンで面会が今できません』

『14日に引っ越しいいですか』

『何時にくるか教えて』

1月11日

『今日がリミットなので連絡ない場合は職場に連絡します』

『子供たちに連絡した方がいい?』

『お母さんの連絡先教えて』

『荷物徳島に送ればいい? 』


「マジで、妹に脅迫されてるんですよね、母の住所教えろって。教えなければ子供に危害を加える的な感じで、電話するぞって。うちの子供、全員成人してるんですけどね」

 職場の店長の大沢さんに言った。

「妹の文章見せたいんですけど、恥なのでやめときます」

「いいよ、見せなくて」

 職場の事務所。店長の机の前にわたしは立っている。店長は椅子に座ってこちらを見ている。事務所のドアは閉められ、面談中の札がドアの前に貼ってある。

「なんか、わたしがウソついてるみたいに見えるんじゃないかって思って。心配なんですけど。本当に事実なんですよ。信じています? 」

「信じてるよ」

 大沢さんは笑って言った。

 わたしは全国チェーンのホームセンター兼雑貨屋みたいな所で働いている。全国に店舗がある。それぞれの店舗の電話番号は公表されていない。統一のお客様相談室があって、そこから店舗につながる仕組み。

「この間頼まれていたあれ、やってるから。妹さんからかかってきた電話をつなげないやつね。お客様相談室に申請している。大丈夫だよ」

 妹は調べたらすぐわかると思ったんだろうけど。自分が働いている支店の電話番号をネットで検索したときも出てこなかった。電話することはできない。ケチな旦那がナビダイヤルにかけるわけがないけど、念のため。

「大丈夫? 疲れてない? 」

「家にいると逆におかしくなりそうなんで、仕事をしているくらいが丁度いいです。なんか、こんなことってあるんだなって、びっくりしてます。この年になって妹に脅迫されるなんて、思ってもいませんでした」


 次の日の12日。ラインが来た。

『ごめんやす』

『困ります』

『書類は全部徳島に送ります』

『位牌はどうしますか』

『今月の支払い送るのですぐに払ってください』

『現金書留で払えると思います』

『荷物は、後でいろいろ言わないのですね? 』

『確約してください』

『迷惑です』

『仕事先に迷惑かけて、私たちのことはどうでもいいということですね』

『わかりました』

『今日、もしお母さんの連絡先を教えないのであれば、仕事終わってから自宅に電話します。多分一時過ぎると思います』

『健康保険証、第一生命、お寺等の住所も変更してください。病院の請求書の住所変更はしておきます。連絡先の一番に徳島に変更しますので、何か必要なものはそちらで準備してください。青峰からの郵便物がこちらに転送されます、迷惑です。早く変更してください。引っ越しします。変更に二週間かかります』

『病院代は控除申請しているので5年保管してください。それができるなら原本をお渡しします』

『引っ越しは立ち会うのですね』

『荷物のことは後でいろいろ言わないと約束するのですね。確約してください』

『やり取りはちゃんと消さずにとっています』

『一時まで待ちます』

「なんで一時まで電話待たなきゃいけないの、アナタたちの借金で。寝るっつうの。破産すればいいのよ。今までお父さんに守ってもらっていたけど、もう守ってもらえないんだから」

 一階に電話がある。携帯を充電しているのも一階。寝室は二階。電話がきても気づかない。携帯の電源は切った。お休み。


 1月13日朝ショートメールがきていた。

『連絡がないなら職場に電話します。なぜ、日にちを守らないのですか』

 以前の文章を見直した。情報量が多すぎて意味が分からない。

『何の話?』

 もう一度さかのぼって読んだ。毎回同じことの繰り返しを言っているだけ。暴言でわたしに立ちあわせようとしているのは伝わる。殺すから、来いって言われて行く人はいるのだろうか。

 色々カモフラージュしているけど、結局知りたいのは母の住所。

 知らせるわけがない。知れば母の家にくるだろう。母に怒鳴って、突き飛ばして妹の借金を返させる。それしかない。借金している人間は追い詰められたら、何をするかわからない。

『文章読んでませんでした。お母さんは引っ越しに立ち会います。引っ越しの日はそちらにあわせます。そちらの都合のいい日に設定してください』

『どこの引っ越し業者ですか。見積もりに立ち会うのですね、確認です』

『見積もりはそちらでお願いします。サカイです。遅刻するので仕事に行きます』

 何度もサカイって伝えた。見積もりの立ち合いはそちらでお願いします、も伝えた。なんで、何度も同じことを聞くのだろう。脳がDVのせいで委縮でもしているのか。

『なんで聞いたことに対して、返事に時間がかかるんですか』

『仕事は24時間ですか。私が困っているとわかったうえで連絡しないのですか』

『引っ越し業者の名前も教えてくれないけど、メール見てますか』

『荷物がなくなったと騒がれても困りますし、郵便物の住所変更もたくさんあるので説明が必要です』

『大事な書類もたくさん渡さないといけません。早く終わらせたいのですよ』

『わたしたちが困ることしたいのですか』

『父親のこともありますし、自分でなんでもしたいと言ったのは母親ですから責任を取ってください。とってください、じゃなくてとらせてください』

『休憩ありますよね、連絡してください』

『とにかく母親の連絡先が知りたいのですが』

『1/8に14日引っ越しのことを伝えているのに、昨日まで連絡がないってことは常識がなさすぎると思いませんか。一般的にそれでいいのですか。私たちだから、それでいいのですか。今後は連絡や返信がない場合は職場に連絡を入れさせていただきます』

『母親の連絡先を言わないのであれば、正当な理由を教えてください。理由を言わないのであれば今日の深夜一時までに連絡をしてください』

『今から夜勤なので』

『連絡がないのであれば職場に連絡します』

 この文章。ヘビーだ。胃もたれしてきた。吐きそう。

 アイツがカモフラージュして書いているのだろう。途中から文面が違うことに気づいた。似せて書いてるつもりだろう。今までの文もたびたび旦那が書いていたのだろう、妹の携帯を使って。

 そんなこと、全く気が付かなかった。

 そもそも、わたしは姉ちゃんとは言われていない。お姉ちゃんだ。今はとっくにオマエと言われているけど。


 怖がってばかりじゃだめだ。相手は刃物を持ってこっちを見て暴言を吐き脅しているのに、襲われているわたしは頭を抱えて丸くなって机の下に隠れているだけだ。相手の顔も見ていない。無抵抗な状態で相手に刃物で刺されるだけ。せめて、相手を睨めつける勇気が欲しい。


 何度も何度も教えろという文章。とっくに伝えたことなのに。自分で教えろと言っておきながら、こちらの返事を見ていないのか。記憶力がないのか。文章読解できないのか。脳が委縮しているのか、わざと混乱させて連絡をさせるため書いているのか。同時に三人でショートメールしているとか。妹も途中乱入し、旦那も書いている。そんな文章に見える。

 夫婦で借金して、脅して母からお金を取り立てようとしているのか。

『職場に連絡先伝えたらいいん?徳島の住所にしてくれって。それでもいいよ』

 返事した。

『支払いどうする。病院に支払いに行く必要があるのですが』

『それは私たちがしないといけないのですか』

『保険証の住所はどうするのですか』

『理由を聞いているのですよ。言わないなら連絡先を言ってください、どちらかです』

 自分の都合のいい二者択一を選ばせようとしているのは、洗脳者のあるあるなのか?

『病院に入院させたのは私なので、父親のことは一番に私に連絡が入ります。私にまたまたまた連絡があったことを言われ、確認返答を迫られます』

『本人が明日来ないならキャンセルします』

『仕事してますけど。看護婦も一緒でしょ。どうしても住所が必要なら、病院に連絡して事情を説明する。あき子に迷惑かからないようになるね、それでいいね』

 病院にもめていることを伝えたい。でも、そうしないのは妹がかわいそうだからだ。職場を取りあげる必要はないと思っているからだ。

『迷惑かかっているけど』

 あ、文面が変わった。

『ライン見てもらっていいですか、どっちに連絡すればいいの』

『別に徳島でもいいですよ、病院に連絡して事情を説明。そもそもそれが迷惑です。住所を書けば私にばれます、いいですか。徳島ならばれません』

 今度は、文面が元に戻った。

『他の病室に醜態をさらせと言うことですね』

 妹が醜態って言葉を使うのだろうか。妹のことを学がないと旦那が言っていたことがある。多分、本筋は旦那が書いていて、妹が割り込んで書いているのか。携帯のほかにタブレットがあって、同時に違う場所で連絡しているって認識でいいのか。

『近いうちに住所は徳島に変更します。連絡の一番は姉ちゃんにお願いします。今日は夜勤で連休なので出ませんが、近いうちに連絡しますので、病院にはかけないでください』

『荷物についても、何も言わないと確約してください』

『じゃないと困ります、立ち合わないなら』

『あと、荷物の整理はしないので、見積もりについては文句を言わないでください』

『それでよければ、明日いいですよ。日にちは営業の人とはなして決めます。ちゃんと返事をしてください』

『じゃないと今日夜中になりますけど、電話します』

『ラインの内容も確認して、返事してください』

『すべてに答えてください』

『ぎりぎりに返答するので、こんなことになるのです』

『もっと余裕を持ってください。わたしも仕事しています。仕事場に連絡すると言わないと連絡しないのですか』

『分かりました。連絡しないのですね』

『明日キャンセルですね』

『14日はお母さんは立ち会うのよね。荷物がちゃんとあるか確認して頼んでね』

 はい、妹。

『よく分かりました。荷物はもう知りません』

 はい、旦那。たぶんね。

『明日朝一番に職場に電話させてもらいます。明日午後からでも関係ないので、私には連絡ないなら何回もかけるかもしれません』

『徳島本店ですよね、十時開店ですよね』

『私の立場を考えないのであれば、わたしも考える必要ないのですね』

 ちょいちょい妹の文章があったが、ほとんどは旦那だったんだろう。こんな怖い文章を送って来る相手に、母の住所を知らせるわけがない。

 何をそんなに焦っている。


 パソコンで、以前検索していた。ダメもとで自分の町の無料法律相談に。あった。一か月に一回。しらなかった。早速、電話予約開始の日にちになってから、あさイチで電話していた。取れた。たぶんわたしが予約第一号だと思った。

 職場の同僚に、休みの交代をお願いした。

 さっき仕事だとショートメールしたけど、本当は休み。明日も休み。職場に電話したところでつながらない。

 弁護士無料相談の日。サカイの見積もり日の前日だ。現場に向かう。

 弁護士に会うのは初めてだ。今まで、何度もトライしたが駄目だった。わたしにとって弁護士はパンダと同じくらい貴重。出会えない存在。

 場所は社会福祉協議会。老人ホームみたいなところだ。一時間前に駐車場に到着して車で待ったが、30分前には現場に行った。

 建物内に入って、玄関内の横の窓を覗く。わたしに気づいて職員が窓を開けた。窓の奥の中は事務所になっていて、机が向かい合わせで並んでいる。法律相談に来たことを伝えたら、二階だと言う。「まだ、受付は始まっていない。上で待ってほしい」と言われた。靴を脱いでスリッパをはいた。左側の広場でお年寄りが将棋をしているのが見えた。中央の階段を上がる。

 二階の廊下に行って並んだ椅子の端に座る。ドキドキする。しばらく待った。職員が下から上がってきて、名前を聞かれた。職員はバインダーの紙にチェックする。受付終了。

「弁護士さん今着ました、どうぞ」

 13時から30分間の相談時間。スタートの時間5分前に室内に入った。ラッキーだ。

 タテの奥には巨漢のスーツを着たおじさんが座っていた。いやいや、わたしと同じ年齢かも。机の前に透明の飛沫ボード。机の上には「弁護士 坂東宗治」と書いた立派なネームのタテが置いてある。

「よろしくお願いします」

 頭を下げる。

 促されて、椅子に座った。

 母が家に連れてこられたことから話した。父が入院してから、同居しようと言い出したこと。同居できないと言ったこと。新居が建つこと。脅迫めいた文章を送ってきて母の住所を教えろと言ってくること。今までのメールを見せる。

「なになに。意味が分からないんだけど」

 情報が多すぎる。たくさんのことを言いすぎたのかも。話もまとまっていない。

 法務局で取った書類も見せた。全部事項証明書。土地も家も持ち主は父だ。

「取られるよ、土地。印鑑証明はあっちが持っているんでしょ」

 わたしと同じ名字の坂東弁護士がそう言った。

「父はアルツハイマー型認知症で、言葉もしゃべれないし、命も幾ばくも無い状態なんですよ」

 認知症の場合は無理だ。ネットで調べた。

「普通じゃ取れないけど、法を犯せば取れないこともない」

「簡単にできるんですか」

「簡単にはできない。でも、出来るよ。取られたら、もうどうすることもできない。急いだほうがいい。あなたが、お父さんの成年後見人になったらいい。じゃなきゃ、久留米の弁護士に相談しなさい。弁護士が後見人になることもできるから。成年後見人がいれば、土地を妹さんの所有物に変更することは出来ない。家は2月に建つんだよね、時間がない。徳島だったら、私がしてあげるのに。早く久留米の弁護士に相談しなさい。すぐに行きなさい」


 仕事中の夫に電話した。いてもたってもいられなかった。

「成年後見人はね、簡単にはできないんだよ。裁判所の許可が必要なんだ。とにかく手続きが大変で、面倒くさいんだ」

 夫が言った。夫の知識もネット情報。

「審査があって、子どもだからってなれるものでもないんだよ。妹さんだと、ゼッタイ許可が下りないだろうし。美帆だって下りないかもしれない。厳しいんだよ。弁護士に頼んだとしても年金の2割を手数料として取られる。お父さんの生活でお金は終わりだ。お母さんはお父さんの年金で暮らしているんだから、そんなことしたらお母さんは生きていけないでしょ。夫婦だとしても、お金はお母さんの生活費にはまわらないよ。何を使うにも裁判所の許可もいる」

「そうなんだ」

「お父さんの病院代とか全般は管理してくれると思う。でも、お母さんも生きていかなきゃいけないんだよ」

 父の命が一番。二番目はお母さん。実家の土地はわたしのやる事の中には入っていない。

 

 母の荷物を取り戻すという使命がなければ、ラインなんか開かない。大量の文章のせいで、食欲が減っていた。建設的な話って前言っていたけど、どっちが悪口ばっかり言ってるんだか。

 1月14日見積もりの日。白おばさんの所には予約していた。女性相談窓口。夫も休みだった。有給の消化休みらしい。

「ごめん。今日女性相談室に予約しているんだ。せっかく休みが重なったけど」

 夫に出かけることを伝えた。

「一緒に行こうかな」

「行くの? 」

「まずい? 」

 まずくはない。なんか、この話の流れ、わたしがコソコソしているみたいじゃないか。

「行ってもいいけど。女性相談だから男は室内に入れないかもよ。部屋に入れなかったら、どうするの? 」

「車の中で待っていようかな」

「車の中? 近くで買い物でもしてきなよ、探索とか。とりあえず、一緒に行こうか。わたしがどんなところに行っているのか、見るのもいいんじゃない。運転はしてよ」

「はいはい」

 はいはいって。わたしがお願いしているみたいになってるんですけど。

「今日の引っ越しの見積もり、どうなのかな。キャンセルされるのかな。時間になっても、扉を開けてくれないとか、わざと不在にするとか」

「どうだろうね。でも、荷物があるとあき子さんも困るんだから。キャンセルは、はったりかもしれない。逆に住所教えても、キャンセルされるかもしれないけど」

「ドラマの人質みたいだね。お金取って、人質殺すみたいなことをするかもしれないんだね。あの二人は今までずっと、ウソばっかりだもんね」


 相田市役所。夫は仕事でこの市をよく訪れるらしい。スムーズに到着。運転中はブルートゥースで自分のお気に入りの音楽を流していた。が、そもそも音楽の趣味が夫と合わない。なんか、気を遣う。

 市役所の下、地下駐車場に車を停める。あれから何度も相談に行って、どこに停めてどこの入り口から出れば直通できるエレベーターに乗れるか学習できていた。いちいち指示して、駐車場に止まり自動ドアを潜り抜け、階段を上る。上がった先、一階に出る。上まで上がるエレベーターが目の前。

 数人の人と一緒にエレベーターに乗り込む。二人で6階で下りて左に曲がる。廊下にテーブルと椅子が三組ある。一番奥に二人で座った。

 廊下横はガラス張りの窓。外が見える。でも、見えるのは市役所の下の屋根。吹き抜け部分だろう。光が入るようにガラスっぽいバラバラな屋根がまるで植物園の温室のオブジェっぽく見える。それよりさらに遠くは田舎の殺風景な道とか、低い古い建物の屋根。周辺の下界が見えるだけ。おしゃれなのかおしゃれじゃないのか。

 相談は電話ですることも、対面することもできる。自由だ。わたしは対面がいい。証拠も見てほしいし、顔を見て話したい。おばちゃんの表情を読み取って、何を言いたいのか言葉以外もキャッチしたい。

 時間になったから、ドアをノックした。白おばちゃんが顔を出した。

「今日は夫も来ているんですけど。夫も中に入ってもイイですか」

「いいですよ」

 二人で中に入った。

 夫を奥に座らせた。わたしは手前に座った。

 お茶を出してくれた。紙コップのお茶。受け取る。

 夫が話をした。母が家から追い出されたこと。いろいろあって、久留米に戻ったこと。今は県営に住んでいること。

「県営団地に住めるようになったの、頑張ったじゃない」

 ほめられてうれしくなった。

「年寄りは民間の住宅を貸してもらえないから優先的に借りれるみたいです。母が住んでいる団地も、年寄りしか住んでいません。でも、助かりました」

「よかったね」

 白おばさんが言った。

「妹が荷物を取りに行くとき、わたしに立ち会え、そうしないと渡さないって。録音もするし、念書も書かせるって。これって、土地を渡せっていうことですか。立ち会いたくないんです。怖いんです」

「それ、違うんじゃない」

「違うって? 」

「あっちもアナタたちにおびえているんだよ。自分たちを守ろうとしているんじゃない。荷物がないって言われたら困るから、念書を書かせたいんでしょう。お母さんが行くならそれでいいと思うよ。アナタは行かなくても」

「携帯見てもらっていいですか」

「いいよ」

 過去をさかのぼって見せた。白おばちゃんにショートメールもラインも見せる。

「どろぼうやろうからって、何? どろぼうなの? 」

「なんのことか、わからないですけど。通帳を狙っていたんですかね」

 でも、取り返した。いまさらだ。

「お父さん、暴力振るっていたの」

「あ、これ? 一度だけ妹が朝帰りして怒られてビンタされたって母から聞きました。そのあとはないです。わたしは家を出ていたのでわからないですけど、暴力を振るわれていたのなら、母はわたしに言うと思います。おしゃべりなので」

「妹さん、家のこと恨んでいるね」

「なんか、よく分からないですけど。私は十代で家を出てからは同居してないから、表面的なことしか。わたしが実家に帰ってきたときは、こんなにキレたりしたことなかったけど」

「妹さんは恨んでるんだよ。ビンタされたこと」

 旦那が言った。

「もう、三十年以上も前のことだよ。成人前のこと。あれから、どれだけの月日が流れたと思っているの。その間に二回結婚して、借金して。今は幸せなんでしょ、それでいいんじゃない。なに、揚げ足取ってるのよ、自分はそれ以上にひどいことやっているよね」

「言いたいんだよ」

 旦那が言った。

「前向いて歩けばいいんじゃない。今さら。意味が分からないんですけど」

 わたしは言って、我に返った。

「あなたには関係ないことだよ、怒らなくていいんじゃない」

 白おばさんが言った。なんか、納得いかない。

「これなに」

 ショートメールがどんどん送られてくる。ライブ中継みたいに。

『今日はキャンセルですね』

『14日はお母さんが立ち会うのよね。荷物がちゃんとあるか確認して頼んでね』

『よく分かりました、荷物はもう知りません』

『明日、朝一番に職場に電話させてもらいます。明日午後からでも関係ないので。連絡ないなら、何回もかけるかもしれません』

『10時開店ですよね』

『徳島本店ですよね』

『私の立場を考えないのであれば、私も考える必要はないのですよね』

 文章の量。異常だ。読む気もしない。気持ち悪い。

「やばい」

 声がうわずった。

「あっちのペースに合わせる必要なんかないからね、勝手に言わせときなさい。返事する必要ないよ」

 白おばさんが言う。

「妹に、あなたはDV受けてますよって感じの文章送ったんです。あっちは意味わかんないってキレまくっていたんですけど」

「なんで。そんなこと言う必要ないよ。妹さんが認めるわけないじゃない。こういうのは当事者は認めたくないモノなんだよ」

「そうなんだ」

「風当りひどくならなかったの」

「ひどくなりました」

「全く」

 白おばさんは頭を抱えた。

「母は、妹に父との面会を許されていません。子供が親の面会を制限する意味も分からないですけど。伴侶と会わせてもらえないなんて、考えられない。わたしが、もしそんな目にあったらと思うと。耐えられません」

 少しだけ涙が出た。夫の顔を見た。夫もわたしの顔を見ている。

「妹もそんな目にあったら、イヤじゃないんでしょうか。想像力がなさすぎる」

 おばさんは何も言わない。

「わたしの相談って特殊だと思うんですけど、ここってどんな相談場所なんですか」

「ここは、虐待されている女の人の相談場所だよ。相談を聞いて危険と判断したら、そのまま保護する。相談者が相田市民だった場合は。市役所と連携しているんだよ」

「そうなんですか」

 二人で部屋から出た。エレベーターに乗った。数人がのっていた中に入る。市役所を出て、夫の車に乗り込んだ。

「DVの相談所だったんだね。男の人が中に入るのは珍しいんじゃない。パパはわたしの間男だとエレベーターに乗っていた人から思われたんじゃないかな」

「間男? 」

「わたしは夫にDVされていて相談しに来た。パパはそれを助けてくれる間男よ」

「誰もそんなこと思ってないよ」

 夫が言う。まあ、そうでしょうね。

 助手席に乗って携帯を見た。また、ポンポンと文章が増えていってる。ホラーだ。

「まだ、文章増えてる」

「頭の中、借金しかないんじゃない」

 夫が言う。確かにそう。

 妹は壊れている。 

 相田市にある大きな工場や、山道を通った。簡単なドライブをして家に帰ってきた。

 携帯は機内モードにしていた。返信を迫られるのは面倒くさい。

 家に帰ってラインを見た。何か写真みたいなものが張り付けてある。でも、電波を遮断しているから、わからない。機内モードを解除した。

『一人で来るなら旦那が話したいって言ってるけど、無視するなら徹底的に行います。お母さん一人なら家に入れませんと、旦那に言われました。立ち会わないなら荷物を処分するかもしれません。旦那はかなり激怒しています。来てほしい時には来ないで来るなっていったら来る』

 以前送られていたラインが張り付けてあった。自分の言葉じゃない。あっちの言葉だ。なんのこっちゃ。意味が分からない。

『信じられないことが書いてありました↑』

『私はあなたたちと二度と関わりたくないと言っただけです』

『ニ度と会いたくないのですよ、それだけです』

『お金を返せと怒鳴られる前から、住まないと言っているならお金を返さなきゃいかんな、と話していました』

『ただ、すでに動いているものを自分の意志で離脱したのに、すぐ返せは違うだろう』

『こちらも、実家の土地、母の部屋、母の求めた押し入れがなければ、かなりお金が浮いているんですよ』

『土地の価値だって、いいとこ500万って近所の田中さんが言っていました』

『あと』

 スクリーンショットで今度はわたしの書いた文面が張り付けてあった。

『激しい怖い言葉は暴力です。情報を遮断され、強要され思い通りに動かされています。周りの人間関係を遮断され電話がくることも許されず、手足にされすべてあなたの責任だと言われていませんか?あき子は被害者です。悪くない。自分の嫌な気持ちを増幅され意のままに操られているだけです。精神科の看護婦でしょう。なんでわかんないの?』

『あのですねえ↑』

『心底びっくりしました。ありえません』

『あなたの妹さんはそんなタマではないのですよ』

『骨盤が抜けるほど驚きました、はい』

『なんで離婚しないの、って。一応説明しておきますが。家を建てる、ましてや建て直すと言うのは恐ろしく大変で、何千万っていう経済活動になるわけで、関わる人の多さの影響がかなりある、これだけのことをやっているのに、やーめたで放置できないだけです』

『とりあえず、全力で最後まで終わらせようとしているだけです』

『わたしはあの人からお金を出させましたか? 車で行った時でさえ、カップ麺一つも、おごってもらいませんでした』

『なんでもおごってもらう私でさえ、ですよ。本人に確認してみたらいい』

『なぜか』

『この人におカネは出させない方がいいと、本能的に思ったからですよ』

『何が言いたいのかですが、何の企みも操りもないですよ。ってことです』

『こちらが言いたいことは、さっさと処理をしたいだけなのですよ』

『年金手帳、本人が放置してバラバラのものもあります』

『捨てるとは言いませんが、これ以上できません』

『本日サカイが来るとのことですが、こちらもサカイで見積もりしてます』

『値引き交渉しておきます』

『あき子はわからないですが、わたしはもう二度とアナタたちは関わりたくないのですよ。そのためなら、いくらでも協力します』

『クドくなります、が。私はあなた方とはニ度と関わることはありませんので、会うことも話すこともないです』

『自分の名誉のためにラインを借りました』

『わたしは、椛島家の常識とニ度と関わりたくないのですよ』

『わたしはここまでです』

『長々、すいませんでした』


 サカイに電話した。見積もりは終わっている時間になっていた。

「見積もり終わりましたよ」

 担当の黒崎さんが、明るい声で言った。

「よかった。妹がメールでキャンセルするって言ったので。心配だったんです。妹の旦那が言ってましたが、あの家の引っ越しもサカイさんなんですってね」

「そうなんですよ。今日、いっしょに見積もりしました。旦那さんに、引っ越し先の住所を聞かれたんですが、本部に帰らないとわからないとお伝えしました。何度もは聞かれませんでした。うちは安くして、お母様の荷物の方はその分値上げしてほしいと言われましたが、そんなことはしません。正規の金額を請求させていただきますからね」

 横にいる夫が大爆笑していた。携帯の声が漏れ聞こえたのだ。

「引っ越しの立ち合いで、母があの旦那に怒鳴られるんじゃないかって心配なんです。当日立ち合いは行きますが、怒鳴られるのは困るので、女性のスタッフを一人母の横につけてもらえませんか。そうしたら、怒鳴られないと思うんです。もちろんその分人件費はお支払いします」

「そういうサービスはしていません。でも、お母様を一人にしないようにしますから」

「引っ越しの日は妹に決めてもらいます。あちらの休みの日も分かりませんし。日程は妹と調整してください。それとも、妹の引っ越しと同じ日にした方が住所は、ばれませんか」

「それは危険です。車で待機していてもこちらは分かりませんし、つけられたら引越し場所を特定されてしまいます。こちらでそこは配慮します」

「分かりました。金額はショートメールで送ってください。金融機関も。銀行振り込みでお支払いします」

 電話を切った。ショートメールが来ていた。気づかなかった。読んでみた。

『こんばんは「わたし」です』

『何をそんなにもめているのかわからないので、申し訳ないのですが一連の流れまで読ませてもらいました「わたし」からしたら何のことやら理解不能でして。訂正しとくのでラインをご覧ください』

『見積もり終わりました。一応安くするように話しております。入院請求書類等も簡易書留でおくりました』

『ありがとうございました。お世話になりました』

 返信した。立ち会ってもらったのだから、お礼は言った。

「パパ、見積もりで安くするように交渉したんだって。まじでウソつきだね」

 わたしが言うと、夫はまた大爆笑した。

「面白いね、この人。いい人だと思われたいのかな」

 夫は言った。こんなの少しも面白くない。意味が分からない。体がウソで出来てるだけでしょ。

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