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第二話 貴族救出



「――――クソっ、ダメだ囲まれた!」


「旦那様! お逃げ下さい! おい、どうにか我々で突破口を作るぞ!」




 森を探索していると、人の声が聞こえた。


「……………………え?」


 思わず気のせいかと疑う。


 村の人間がこの場所に来ることは有り得ない。

 気配を殺しながらその方向に駆けていくと、山道の途中に一つの馬車が停止していた。


 中には小さな影と、それを抱きしめる、豪奢な服を着た男女の姿。

 馬車を守るように剣を構えた数人と、彼らを取り囲む兎の魔物の群れ。


 ヒヒィン! と。

 車両に繋がれた馬が魔物に怯える鳴き声に、我に返る。

 

「――私達も、後からきっと追いつくから。貴女は生きて。この近くには村があるから、そこまでの辛抱よ」


「かあさまどうしたの!? いやよ! わたし、ふたりといっしょじゃなきゃいや!」


「我儘を言うんじゃない。……いいかい、強く生きるんだよ」


 聞こえてくる悲壮な会話に、俺は心を決めた。


「――――逃げてください」


 現れた俺を見て、馬車にいた親らしい二人と抱き締められた赤毛の女の子、護衛の人達が揃ってぽかんとこちらを見ていた。


「……は? 子供? どこから?」


 父親らしき人物は、すぐに我に返らんとするように首を左右に振った。


「君! 今すぐ娘を連れて逃げて欲しい! 町までたどり着けば、多少の金銭は……」


「要らないです」


「……無茶を言っていることは、承知している! だがどうかお願いしたい! 我々が全力で魔物の注意を引く、その上で――」


 その人はまだ何かを言っていたが、俺は魔物達と人間との間に立ち、木の枝を構えた。


「いや、あなた方も逃げて下さい。魔物は、俺が何とかするので」


「……え、」


 戸惑う彼を置いて、馬車から一度離れる。

 視界に映る、獲物を逃がすまいとこちらを囲う魔物の群れ。


 これほどの数を相手にしたことは無かったが、……出来るはずだ。


 歩きながら、落ちていた手頃な大きさの木の枝を拾う。


「「グルルルル………」」


 足を止める。


 牙を剝き出しにし唸っていた魔物が、やがて飛びかかって来る。


 まず初めの一匹。空中で無防備なその喉元に向けて木の枝の尖っている部分を突き出した。


「ギッ!!」


 魔物が短い悲鳴を上げて背後へ崩れ落ちる。落命を確認した瞬間にはそれを意識から外し、次々と向かってくる魔物に集中する。


「「――――ッ!!」


 受け流し、力の方向を変換する。重心をずらしてバランスを崩させたところに、最小限の力で攻撃することが肝要だ。三才の身体にはそれが限度。それが直感的に分かった。


 最初こちらを侮っていたのか、愚直に突っ込んで来ていた魔物たちは動きを止めた、そいつらは軽くこちらから動いて相手の攻撃を誘う。誘うだけだ。こっちから攻撃してたら身が持たない。それに気づかれたら面倒なことになる。

 やや賭けだったが、相手にそこまでの知能はなかったようだ。少し挑発するように笑うと魔物達は無事に逆上して突っ込んでくる。後はまたその勢いに合わせて、急所を抉るように木の枝を添える。


 逆上した魔物達の動きは単調で、生じた隙に木の枝を差し込むのは難しくなかった。ただの木の枝でも、最適なタイミングで最適な角度で差し込めば、十分な殺傷能力を持っていた。

 何匹かが動かなくなると、やがて残った魔物は森の奥へと逃げ出していった。


「…………はぁ」


 息を吐く。


 ……地面が血だらけだ。

 魔物の返り血を浴びないように気をつけていたけど、足にもつかないように注意しないとな。


 魔物の死体の転がる周辺をおっかなびっくり抜けて、遠巻きに見てくる護衛の人たちを通り過ぎ、馬車まで戻ると、呆然とした様子の男女と、

 

 馬車まで戻ると、呆然とした様子の男女と、きらきらと目を光らせた女の子が待っていた。



---



「俺のことは言わないでください。村のルールで、子供は村の外に出ちゃいけないことになってるんで」


 村の目の前まで彼らとやってきた後、そう言って俺は村には一緒に入らずに彼らを見送った。

 後日改めて礼をさせてくれ、と言う彼らだったが、固辞させてもらった。バレたらヤバいんで本当。


「……分かった。だが、いつか私達は必ず君に恩を返す。それが貴族としての矜持だ」


「ねえ! わたしもきっと、あなたみたいなけんしになるわ! またあいましょう!」


 親の方は依然納得していない様子だったが。目を輝かせてこちらを見る少女には笑顔で手を振って、そこで俺達は別れた。別れる直前、少女の父親が俺に近づいてくると、そっと付け加えるように言った。


「……さっきの魔物の襲撃だが、普段は街道の近くであんなことは起こらない。……どうも、嫌な予感がする。あれだけの力を持った君には余計な心配かもしれないが、気をつけてくれ」



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