森
俺は今日、村の外に出てきていた。
額の汗を拭う。
子供が村の外に出ることは禁止されている。
門番のおっちゃんの目を掻い潜るのが一番の難関だったが、村の外壁をよじ登ることでその問題は解決した。まさかあの壁を登るような奴なんていないと思うはずだ。俺も自分で登っててちょっと引いたもん。
剣神の加護の恩恵で、身体能力も向上していたが故に出来たことだ。
バレないために、日が暮れる前には戻らなきゃいけない。
バレたら多分村長とかには勿論だが、親にめっちゃ怒られる。
それまでに目的を果たさなければ。
「…………さて、行くか」
俺は目の前に広がる森に向かい、歩き出した。
頭上には、澄み切った青空が広がっていた。
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鬱蒼とした森。
頭上には俺の身長よりデカい葉がいくつもあって、その隙間から日光が注ぎ込んでいた。
土と緑の匂いに、鼻腔を一杯に満たされ……本当に異世界に来たことを実感する。
そんな風にしていると、いきなり目の前の茂みががさりと揺れた。
そして飛び出してきたのは……。
「グルルルル……」
「……っ!」
前世の世界で例えるなら、兎によく似ている。
ただし、その体は二回りほど大きく、口には牙が、額には角が生えていた。
口元から涎を垂らし、赤い瞳がこちらを睨んでいた。
想像以上の迫力に、息を呑む。
これが、魔物。
この世界には魔物が居る。
魔物は凶悪だ。大小様々な形を取る彼らに共通するのは、特徴的な角を持っていることと、人間を害するということ。
村の周りは高く外壁で囲まれているため安全だが、外の森には魔物が出る為、子供が村の外に出るのは厳しく禁じられているのだ。
実際、村の大人たちが自警団を組んで何とか追い返すのが精一杯らしい。それほどの脅威なのだ。
俺は使命のことを考えるとどうしても一度、魔物と対峙する必要を感じ、今日この森に来ていた。
今、目の前の魔物は格好の獲物を見つけたと言わんばかりに涎を垂らしてこちらを見ている。
「…………」
俺は、歩きながら拾っていた、落ちていた手頃な大きさの木の枝を構える。
大丈夫。
見たところ、こいつ一匹だけ。
神のあの仰々しさを考えればこれくらいの相手ならなんとなる、はず。
それに最悪、走って逃げれば何とかなるはずだ。
「グルルルル……グォオオオ!!」
「っ!!」
魔物が飛びかかってくると同時、時の流れが遅くなるような感覚があった。
俺は空中にいる魔物をはっきりと捉え、木の枝で斬った。
掌に何かを切り裂くような感触と共に、時間の流れは元に戻る。
どさりと、魔物が背後の草むらに落ちる音がして。
ゆっくりと歩き、その首が胴体と離れていることを確認する。
「…………はは」
俺はへなへなとその場に座り込んだ。
初めて生き物のような形をしたものを斬ったことのショックがあった。
しかし、達成感もあった。
この能力、やっぱ異常だ。