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転生

 

「――――ようこそ、待っていたよ」


 どこだ? ここ?


 俺は気付くと、知らない空間にいた。


 ひたすらに白い空間。

 見渡す限り何もない……どこまでも続くようなその白い世界の奥に、ぼんやりと人影が見えた。

 今聞こえた声はその人物のものらしかった。

 見知らぬ、男か女かも分からない存在。


 その謎の人物に対する不安と警戒心は勿論あった。ただそれ以上に、困惑と心細さが自分を包んでいた。無知から来る恐怖はひんやりとした質感を伴って背筋をなぞるようだった。


 今は少しでも自分の置かれた状況を把握したかった。

 何せ、ここが何処かも、どうやってここに来たかも覚えていないのだ。

 覚えている最後の記憶は、たしか高校からの帰りで、通学路を歩いていて……、とそこで頭痛が走り、思考が中断された。

 ともかく、そのような思考の帰結を以て、目の前の状況を知っているかもしれない人物に近づき、ここは何処ですか、と問うた。



「此処は、何処でもない場所だよ」



 加えて、その人物は告げた。



「少なくとも、君の知る世界ではない」



 意味は全く分からなかった。

 けれど、何処か奇妙に納得している自分もいた。こんな場所が現実にあるはずもないと思っていたことは、少しのその助けになった。



「僕は、神だ」



 おおよそこの世で最も明白だと言える嘘を聞いて、思わず眉をひそめる。そして、そのことは誰だって分かるはずなのに名乗る、その意図が分からなかった。


「信じる信じないは君次第だが……聞いておいた方が良いと思うよ」


 まるで親友に忠告をするような声音で、彼(未だその姿は靄に包まれているようで、性別さえはっきりとはしていなかったが、ここでは便宜上彼としておく)は続けた。


「今自分がどこにいるか、それさえ分かってない君は、少しでも情報を得ておくべきだ。たとえそれが嘘だったとしても。違うかい?」


 ……まぁ、一理ある。

 神だという主張を信じた訳じゃないが、そこは取り敢えず置いておくことにしようか。

 俺が一旦聞くことにしたのが伝わったのか、彼は話を始めた。


「まず、君にとって酷くショッキングな事実を伝えなければならない。取り乱すな、とまでは言わないがせめて、心の準備をしてくれ」


 一拍置いたあとに、彼は続けた。


「前方を歩いていた幼児の代わりに横断歩道に飛び出し、トラックに轢かれた君は、死んだ」


 彼の言葉は、俺の脳味噌の奥の方にあった鍵付きの扉の錠をするりと音もなく溶かした。

 ……ああ、そう言えばそうだった。

 その事実を受け入れるのにさして時間は掛からなかった。何せ、自分の意思で取った行動だ。言い訳のしようも無い。


「……思ったより、動揺していないね」


 まぁ、あれで生きていられるとは思っちゃいない。


「それじゃあ、これはどうかな。――今から君を、異世界に生まれ変わらせる」


 ……は?

 呆然とした俺の様子に、靄の向こうで彼は笑ったような気がした。


「実は君が命と引き換えに助けたあの子供、彼女は将来人類にとって非常に大きな意味のある技術を開発するんだ」


「しかしそういう能力を持った人間は、えてして非常に死にやすい。だから感謝しているのさ、あの子も本来なら、あそこで終わっていてもおかしくない存在だった」


 そのお礼じゃないけど、と彼は続けた。


「せっかくだから、全てを忘却することなく、記憶を持ったまま、別の世界に転生させてあげようかと思ってね。流石に同じ世界だと不味いけど、僕の管理するもうひとつの世界に君を飛ばす」


 ベラベラと話し続ける。そのこちらの都合を考えずに、押し付けようとする傲慢さの透けて見える態度は、彼が神だという説得力を増していた。


「ん? 異世界が不安? しょうがないなぁ、じゃあ君には、特別に剣神の加護をあげる」


 誰もそんなこと頼んでいないのに、性別の分かりにくい声はそう言って続けた。


「だけど、この力を与えたからには、君には十六歳になった時、魔王討伐に勇者と共に行って貰う」


 え。

 おい。ちょっと待てよ。


「生まれ変わったらもう、僕は基本的には干渉できないから。人類の希望として、頑張ってね~」


 俺の抗議など、聞こえなかったかのように。

 遠ざかる声と共に、世界が暗転した。


 そして次に気づいた時、俺は赤ん坊として異世界に生まれ落ちていた。

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