Bluesky lUcy alChemist porKsaute BUCK!2
『ふぃー。冷たい。ぶるぶるっ』
ぷるるんっ
急な温度変化に体が震えた墓場おねーさんの玉音を労働者が拾う。バスローブが濡れ、シルエットがよりはっきりくっきりしている。もちろんドアップで中継だ。憤怒の魔王とやらは特等席でこの光景が観れるのか。とても羨ましいぜ。代わって欲しいくらいだ。
「ははは、悪魔側で戦うのかい?」
おう。モチのロンだぜ。いや、サウナじゃないものがガマン出来ずに失格になるかも知らんが、1敗と1発を天秤に掛けたら、そりゃ1発に賭けるよ。神に挑戦するのはオトコノコの浪漫、ってやつだしな。
「畏れ多いなぁ」
草臥れ過去形とこうしてだらだらしゃべってしまうのも試合が長期化、泥沼の消耗戦と化しているからだ。
選手が2人ともがガマン強いとかの話ではなく、お風呂おねーさんが体調管理にうるさいので水分補給と定期的な水風呂タイムがあるためである。
お風呂おね、死んだらどーする。とさっきもぶちギレていたのだが、どうせ復活する初心者の街なので死んでくれるぐらいでないと、このままじゃ引き分けになってしまうぜ。
まあ、それが予想出来ていたから墓場おねを投入したんだがな。
さあ。
そろそろだ。墓場おねーさんの本領を魅せてやる。
『うー、あせもできちゃう……』
『!?』
サウナのぬくぬくで気が緩んだのか、裾を捲って下腹部から下乳までをさらけ出し、乳を持ち上げ、袖で汗を拭う墓場おね。
今はたまたま座っていたからギリギリ見えなかったが、映ってることを忘れてそのうち全裸になりそうだな。
くそ、宿屋から中継で観てる奴らが羨ましいぜ。闘技場の同士たちは生殺しだ。
(な、なんだ今の感覚は?どうした俺は?憤怒による業火に比べれば、こんなサウナの熱なんて大したことない。はず、なのに、この動悸は。火照りは。まるで、まるで)
ふふん。
実況席まで移動してマイクを、あ、ちょうどいいのがいたじゃないか。ゴミ箱2号たる狗尾草のスーちゃんと、いまや《皇》として皇国を建ち上げた邪聖少年ビューティーを前後に据えて、サンドイッチのもしくはハンバーガーの具として挟まりこの昂りを鎮めつつマイクを奪った。
あ、邪聖少年のマイクじゃないぜ?ちゃんと実況席についてるマイクだぜ?邪聖少年についてるマイクもまあ、奪ってるけども。
可愛いらしい声をBGMに実況席から憤怒の魔王に語りかける。
「まるで心の中で、春に新緑の芽吹くような、この感情は何だ。と、思っているか憤怒の魔王」
『!?……なん、で』
ふふん。人の感情を読み取ることなんて、サキュバスのハーフたる俺には朝飯前よ。
「教えてやる魔王。その感情はな、《萌え》と呼ぶのだ」
『!!!……た、たしかに、いまはっきりわかったぜ。その言葉がぴったり当てはまる』
感情を言語化してやった。更に畳み掛ける。
「でも、その言葉は少し昔の概念なんだ。そも、母なる神に対して、芽吹きにまつわる、つまりは幼子に相対した言葉を捧げるのは不遜だろう?」
『え、あ、そうだな。確かに、ちょっと庇護欲に近い感情かも。神様に対して上から目線でふそんだ』
『えー?なにさお風呂ちゃん。水も飲んだよボクちゃんと。え、これ?岩塩じゃん。舐めるの?えぇー。……ぺろぺろ。うぅーん。お砂糖だったら良かったのに』
善し、墓場おねーさんも善い具合にトロットロだ。お風呂おねーさんが何とか世話を試みてるが、塩を砂糖にしてくれとか言ってる。意味ないのではなかろうか。…いや、浸透圧の差が無くなれば吸収しやすくなるのか?
…?浸透圧ってなんだ。後で歯車生肉あたりに聞いてみるか。
『で、で?B-T、教えてくれ。今は?今の概念ではこの気持ちを何と呼んでいるんだ?』
『あ、ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。お風呂ちゃん』
「この芽吹きを、祈りと尊崇を込めて、現代人は」
『ボク、おしっこいきたい。そこの燃やしてる岩にかけたら蒸発するし大丈夫かな?』
「《尊い》と、そう呼んでいる」
ドシャーン、と効果音が鳴った気がした。岩から新たな蒸気が、そして憤怒の魔王には新しい風がその心に吹き込み、大いにその姿かたちを揺らした。
……何かお風呂おねがめちゃくちゃ墓場おねに怒ってるけど何かあったのかね?
『た、確かに、この感情は、《尊い》!尊いだ!おお、神よ。あなたはいまだ我々を…ッ』
フフハハハハハハ!魔王が神に祈った!帰依したぞ!人の心を得て、もはや魔王は悪魔ではいられなくなった!
……勝った。この第5試合風呂我慢対決!俺の!!勝ちだ!!!