司祭との面会1
金色の帯を綺麗に結び直してもらい、用意された朝食を食べた。今は食後のお茶を準備をしてもらってる最中だ。
どうやらこちらの世界の食事は口に合うようであった。焼き立ての丸いライ麦パン、野菜の旨味がしっかりと出た優しい野菜スープ、そして木苺のようなベリーが少し。
これが小鳥の異世界初の食事だ。
(質素だったけれど思ったよりも美味しかったし、味付けや食材は元の世界とあまり変わらないのかしら?)
白磁のカップには鮮やかなオレンジ色の水色が満ち、湯気とともに香り高いお茶の香りが広がる。夏摘みのダージリンに似た甘く華やかな香りだ。どうやらこちらの世界でも似たようなお茶があるらしい。
寝起きから甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる栗色の髪のこの女性はリサと名乗った。幼い頃からずっとここで働いてるらしい。
「お食事はお口に合いましたでしょうか?」
「はい!とても美味しかったです。こちらのお茶は何というお茶なのでしょうか?似てる香りのお茶は知っているのですが、それとはまた少し違う味わいのように感じられて…」
「本日ご用意させていただいたのは、こちらよりも北方で採れました“雪蜜木”のお茶でございます」
(おお!聞いたことのない不思議な植物の名前が出た!ということは紅茶ではないのかしら…?)
「雪蜜木のお茶と言うのですね。初めていただたのですがとても美味しいです」
「それはよかったです。お食事やお茶がお口に合いませんと、やはり大変でしょうから」
ふわりと笑ったリサからは優しさが内面から滲み出ているようだった。二杯目のお茶をサーブするその姿は、まるで物語の中のクラシカルなメイドのようだ。
日本ではメイドなどとは縁のない人生だったため、そんなリサの姿に少しばかり心が躍る。
「今後のお世話はわたくしが担当いたしますので、なんなりとお申し付けください。お部屋にいらっしゃる時は先ほどのベルでお呼びくださいませ」
(優しそうなリサさんが私に付いてくれるなんてなんて心強い!少しだけ安心したわ。……あれ?これだけお世話になっておきながら、私名乗ってすらいなくない…?)
「名乗るのが遅くなってすみません。私は花柳小鳥と言います。リサさん、どうぞよろしくお願いします」
「聖女様にお仕えできて光栄です。こちらこそよろしくお願い致します。わたくしのことはどうぞそのまま、リサとお呼びください」
「では、リサと呼ばせてもらいますね。私のことも気軽に小鳥と呼んでください」
「お気遣い感謝いたします。小鳥様と呼ばせていただきますね。」
(あらら。様付けになってしまうのね…。そんなに偉い存在じゃないんだけどな)
「それでは本日のご予定をお伝え致します。聖女様方の準備が整い次第、司祭様とお会いになっていただきます。そちらでこの度のことについて説明されるそうです。まもなく迎えの者が参ります。その後は――」
そんな話をしているその時。
――コンコンコン
ついに来た、と小鳥はきゅっと身体に力を込める。今後の生活を大きく左右するであろう話がこれから始まるのだ。
そう思うとギュッと膝の上で握った手のひらにじんわりと汗が滲んだ。