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ハズレ聖女は花開く!  作者: 茶々
第一章 カラス色の聖女
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聖女のウワサ2

 食堂の扉を開くと、小鳥が思っていたよりも広い空間が現れた。

 壁一面に窓が大きく設けられており、日の光をたっぷりと室内へと届けている。

 長机がいくつも並び、簡素な背もたれのない木製の丸椅子が備えられている。どれも年季を感じるが丁寧に扱われているのだろう。綺麗に磨き上げられた机と椅子には、なんとも言えないあたたかみのある質感を感じる。



(思ってたよりも人が沢山いるな……)


 ぐるりと辺りを見渡せば、今はお昼時のピークのため食堂内は信徒たちで少々混み合っている。座席の9割以上は埋まっているが、少し探せば空いている席が見つけることができる。この程度の混雑であれば、毎食食堂を利用してもストレスにはならないだろう。



「さて、今日の昼食はなんだろうね」


 すたすたと迷いなく食事が提供されているカウンターへとアンジェリカが近づいて行く。そして小鳥もその後ろを歩いてついて行く。

 周りの信徒たちとは違う、真っ白な装いはやはり目立つのだろう。あちらこちらから小鳥たちを窺うような視線が突き刺さる。決して悪意のある視線ではないのだが、こうも注目されてしまうと小鳥はいたたまれない気持ちになってしまう。

 しかし、アンジェリカはそうではないようだ。特に気にした様子もなく歩みを進めている。すでに食堂を利用したことがあるから慣れたのだろうか。


「なんだかすごい視線を感じますね。服装から聖女だってバレているからでしょうか?」


「そうだね。この服装は召喚された私たち専用みたいだから特に目立つのだろうね。他の聖女たちとは色々と扱いが違うみたいだ」


「そういえば他にも聖女と呼ばれる人がいるんですよね。イマイチまだ聖女と呼ばれる存在について分かってないのですが、聖女ってそんなに珍しいモノなのでしょうか?」


「うーん。どうなのだろうね。でも、周りの反応を見てるとそこそこ珍しい存在なんだろう」


 アンジェリカは苦笑しながら周りを見渡す。先程までジロジロとこちらを見ていた人たちは、視線を合わせないようにさっと一斉に顔を背けた。小鳥はその一糸乱れぬ動きについつい笑いをこぼしてしまった。



「あらまあ!アンジェリカちゃんじゃないか!初めての講義はどうだったんだい?」


 気さくに声を掛けてきたのは食事を作っている恰幅の良い中年の女性だ。茶色い髪の毛をひっつめて、テキパキと動いている。そんな彼女とアンジェリカは、まだ二回しか食堂を利用していないのにもうすっかり知り合いになってしまったらしい。


「知らない事も多くて楽しかったよ。ところで、今朝言っていたあの噂話は何か分かったのかい?」


「あぁ、アレかい。詳しくは分からなかったんだけど、どうもどこかきな臭い感じがするね。あんまり騎士団には近づかない方がいいだろうね。そこの子も聖女様だろう?騎士団の連中のあの甘い顔に釣られてついて行ったら駄目だからね。若い()たちはちょっと格好良いだけすぐ騙されちまうからね」


「ご忠告ありがとうございます。気をつけます」



 他にも色々なお喋りをしながら料理を用意してくれる。そんな二人の会話は眉唾物の噂話も含め多岐に渡っていた。


「そう言えば、森で変なものを見たって話がまた出てきたね」


「また、と言うことは以前にもそのようなことがあったのかい?」


「ああ。前回は数ヶ月前くらいだったかね。夜の森に向かう幽霊の列を見たとか、はたまた天使を見たとか。数年前からたまに聞く噂だよ」


「へぇ。定期的に囁かれるウワサなんだね。私も森には気を付けておこうかな」


「気を付けるに越した事はないよ。なんせあんた達は大事な聖女様なんだからね!」



 食事が乗ったトレイを受け取り席を探す。少々混雑した食堂内だが二人分の座席はすぐに見つかった。

 長机での食事のため必然的に隣の人と相席になる。本日隣の人たちは、こちらを見ると驚いた顔をした後、すぐに食事をものすごい速さで食べ終え席を立って行った。小鳥はなんとなく申し訳ない気持ちになってしまった。


「さて、私たちも食事にしようか」


「はい!そういえば先程は料理人の女性と随分仲が良さそうでしたね」


「ああ。彼女はここに長く勤めてるから色々なことを知っているんだよ。そこから得られる情報は貴重だ」


 なんと、ただお喋りしていただけではなく情報収集の一環であったらしい。眉唾物の噂話ばかりだと聞き流していた小鳥だが、それこそが大事な事だとアンジェリカは言う。


「もちろん根も葉もない噂話もあるけど、それに隠れた重要な情報があったりするものなんだよ。食堂は色んな人が集まる分、様々なウワサが集まってくるからね」


「ただの噂話だと流していた自分が恥ずかしいです……」


「私は母国でそういった方面の活動も少ししたことがあるからね。ついつい情報に耳を傾けてしまうんだ。…ほら、こういう時にもね」


 アンジェリカがチラリと視線を動かし示した先には、食事をする女性たちの姿がある。何やら話に夢中で、こちらに小鳥たちが座ったことには気が付いていない様子だ。



「あの話聞いた?また聖女様がいなくなったんですって!」

「あの方は聖女になりきれなかったただの巫女でしょ?」

「聖女様として随分と活躍されたと聞いたのだけど…」

「騎士団に拐われたとか?まだ彼らは神殿にいるのでしょう?」



 小鳥にも無関係ではなさそうな会話が聞こえてくる。その聖女とは神殿にいるという、小鳥たち以外の聖女のことだろう。その聖女が失踪したらしい。小鳥はただの噂話かとも思ったがアンジェリカの顔は真剣だ。


「今朝も同じような話を聞いたんだ。恐らく本当に失踪したんだろうね。その理由は分からないけど、小鳥ちゃんも念のため用心すべきだろう」


「分かりました。失踪となると少し物騒ですね…」


「私もこの事についてはもう少し調べてみるよ。まぁ、ただ駆け落ちしただけだってこともあるかも知れないけどね」


「ふふっ。そうですね、駆け落ちしたということならちょっとロマンチックで良いですね」


 アンジェリカから他にも色々な噂話を教えてもらいつつ、昼食を食べた。食後のお茶を飲んでいる最中に話題に上がったのは騎士団の話だ。

 今神殿に来ている騎士団は何かを探している、という噂話なのだが、その探し物が色々と面白いことになっているらしい。神殿の秘密を探している、嫁を探している、宝物を探している、など話し手によって様々なモノが探し物へと変わる。


「何かを探しているのは真実なんだろうが、それが何か全く分からないんだよね」


「神殿と騎士団とはあまり良い関係ではないみたいですし、神殿の不正とかそういうことを探しているのかも知れないですね」



 ぬるくなったお茶を飲み干し、初めての食堂での食事を終える。


 耳にした様々な噂話は、今後のためにも記憶に留めておいた方がいいだろう。真偽の精査は十分に必要だが、噂話でも重要な情報になる。その情報は身を守るのにきっと必要になる。

 特に魔力もなく出来ることが限られている小鳥には情報が武器であり盾であるのだから。




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