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異端狩り 外伝 幻想狩り  作者: 六道 奈々 落々
3/7

留学(なっ!? 事前告知無しの強制だと?!)

今回は二年生編最大のしくじりスタートです。一年生はありません。過去編ならありますが……。

 入学式も終盤に近づいてきた。

学園長の話も終わり、一年生の恐怖も色褪せてきた頃合い。去年と何一つ変わらぬ、異常事態、異例の事態、そのどれ一つとして許さない、完璧な式典。それがここ立枝校最大の特徴。


 さすがというべきか、それはないでしょ、というべきか……。だが、それを口にできた者は未だ一人もいない。

決心を手にいれた者はいるのだろうが、それでもいう前に異端との抗争で息絶えている。実質、誰一人として不満を唱えたことがないのだ。それが引き金となって、今の状況が生み出されている。誰も口出ししないから、言ったらどうなるか分からないから、だから誰も言おうとしない。単純な、人間らしい理論だった。


 それは執行疾風も例外ではない。

特に彼の場合、学園長だけではなく、この学園全体から目をつけられている存在だ。下手な言動をこぼせば、それを理由(トリガー)として退学、停学処分が下されるのは目に見えている。絶対ではないにしろ、取ってはならない行動目録として、彼の心の奥の楔の一角となっている。


 行動の抑制、と言ったほうが正しいかもしれない。


「えっと……、せ、先輩は普段どういったことをしているのですか……?」


 時雨甘雨、というスカイブルーの髪をした後輩の美少女。

といっても、疾風にとっても確かに可愛いが、そこ止まりだ。それ以上は何も感じない。所有欲、色欲、強欲、放蕩、なんだそれは? そんなものどうだっていいんだ。ただ欲しいのは、こんな可愛らしくて、それでいて文武両道な少女が、この少女以外の新入生たちが、異端を狩る、という強制された未来を背負わされていることが気に食わない。だからそれをなくしたい、という欲求だけだ。


(そのためなら誰だって殺してやる)


「殺し、だな」


 ほんの僅かな抑揚も自重もなく、本当に自然な口調で、疾風はそう言い放った。

まるでそれが当たり前だ、という様子で……。


 その言葉を聞いて戦慄を覚える新入生・甘雨。


 まるで洗礼。

だが、それはあくまで疾風を〝普通〟という物差しとした場合。疾風は例外の中の例外でありまた同時に異常存在(イレギュラー)なのだ。普通という物差しで測る時点で大間違いなのだ。


 それに同級生にも何人か異常存在(イレギュラー)はいる。二年にして卒業生どころか学園長とほぼ同等の実力を有する疾風は、そのトップなのだ。


「えっと……、異端狩りは確かに殺しですよね……」


 返答に困り果てた様子の甘雨は、苦し紛れ、といった様子でそう返した。

が、


「ん? 俺が殺すのは異端じゃないぞ?」


 と言う疾風の言葉で、甘雨は嗚咽しかけ、寸前で踏みとどまる。

甘雨の記憶には何か、そう言う出来事があるのかも、と思った疾風は、渋々と本音を押し殺し、事実とはいえ、全容ではない一部を告げる。


「俺が殺してるのは〝正統な存在〟だ。決して人なんかじゃない」


 当たり前のように嘘だ。真実なわけがない。

誰かの血で濡れた両手を見るたびに、それを洗って拭った手を見る度に、後悔ではなく満足感を感じ始めてしまった彼にとって、すでに人とは殺す者、という認識で汚染され始めている。まだ殺してはダメな者、という認識が存在しているが、それももうじき殺しても得にならない者、という認識に変わってしまうだろう。


 幼い頃から二人という、一般の人生からは凡そありえない数を殺した。

彼は、両親を殺した。自らの手にかけた。それもあの状況では仕方がなかった、と結論づけているが、それが今の状況を生み出しているのは紛れもなく、逃れようのない事実なのだ。


 決して踏みにじってはいけない事実なのだ。


「そ、そうですか……、」


 よかった、という様子でホッと豊満な胸を撫で下ろす甘雨。

どうやら踏み込んではダメそうな領域はなんとか回避できたようだ、と疾風の方もホッとした。


「でも、正統、ってなんなのですか……?」


 今の会話の中で垣間見ることのできる、不思議な口調。まるでこちらを王や神として見ているような、見上げる態度。


 疾風はそれを指摘するか、質問に答えるか迷うが、即断即決。


「うーん、なんていうかな、こっちに元からいた異端、みたいな? 異端の親戚みたいな? 向こうからすればアレが異端の存在なんだろうね」

「は、はぁ……?」


 理解できない、という様子の甘雨に、まあそんなものだよ、と簡潔に伝えて、その場を濁す。

この事はあまり伝えてはならない、そう本能が指し示している。


 疾風はかなり本能に依存した生き方をしている。敵の攻撃も分析を完璧にしたのに、本能の赴くままに回避してきた。それが全くのハズレ、ということもあったが、時には命が救われたこともあった。


 それだけ本能は疾風にとって重要なものなのだ。

しかし、この学園内で疾風ほど勘と呼べる本能で戦ってきた者はいないし、それを常日頃から行ってきた者など、もちろん皆無だ。


「あー、こっちからも質問いい?」


「ぜ、全然いいですよ……」


 少し不機嫌そうにいったからか、怯えたようだ。

訳ありだ。この新入生の少女には、何か裏がある。家庭事情だろうか? それとも小学校時代に何かあったか……。とにかく、まだ一年生であり、これから本当の青春とは違った、間違った青春を歩む彼女たちが、それ以上に間違った青春を歩むのだけは、絶対に阻止してみせる。


「なんでちょくちょく不思議な口調になるんだ?」


 少しスマイルというかなんというかを織り交ぜて行って見たら、効果的だった。



 全然、逆効果だった。


「えっと……、それはちょっと……。すいません」


「それだよ。その見上げてる態度」


「…………っ」


 明らかに何かを隠している。

執行疾風、という異端審問に兼ねて執行官をしていながら、真偽官である彼に嘘をつくというのは、それ相応の覚悟と理由があるのだろう。だが、それは理由になっていない。むしろ逆だ。ごまかすためだけの苦笑い。


「そもそもの前提として、勝手に見上げないでくれる? 見下げてもらっても困るけど、出来るだけ対等と思ってくれるとありがたいんだよね。タメ口は先輩にはしちゃいけないって誰かに言われた? でもさ、それを強制されたことってある? ないよね? 勝手に僕ら先輩を雲上人にしないでくれるかな?」


 いくら自由状態であろうと、二人の口論は一際目立つ。

入学早々後輩を叱る先輩、というのが正しい構図だろう。が、それはただ事実を事実として見ず、上部だけを見た場合だ。実際はもっと深い。


「…………、先ぱ……、疾風さんは、何が気に食わないんですか……?」


「ん? 特に何も。強いていうなら、この腐った式典かな」


 堂々と(便乗して)言い放つ。この学園で禁忌と同レベルの扱いを受けてきた、不可侵を……。


 その様子を見ていた同級生が文句を言いに来る。

疾風は『落第生(トップワースト)』としては全学年レベルで知れ渡っている。その原因も疾風だが、まあそれはなんというか、もう仕方がないことなのだ。〝疾風〟という『疾風』には常識は愚か、非常識でさえ通用しないのだ。


「おいお前、この学園の式典を蔑ろにするつもりか? 今まで命をかけてきた先輩や教員方の継いできた思いを踏みにじるつもりなのか?」


「そうよ。大体『歴代最低成績(トップワースト)』のくせに何を偉そうに……!」


「正統? なんだそれ、美味しいのか? 合わせろよ」


 口々にいってくる。


「おい新入生、甘雨だっけか? 覚えておけ、これがクズだ……」


 甘雨の耳元でそっと囁くようにして教える。

聞かれればもっとひどくなるし、下手に言いたくないが、甘雨にだけは伝えておいた方がいいかもしれない、という理由から、最悪玉砕覚悟でそう教えた疾風。


 甘雨はそんな疾風の心情を読み取ってか、言われたことをきちんと心のうちに止め、心のメモに書き留めてていた。


「で、なんだ? 結局自分らは低学歴だけど、最低じゃないからコイツにだけは威張れるってやってきたわけか? はっ、笑わせんな、ゴミが」


「はぁ……? ねぇ、コイツ、ちょっと調子に乗ってない?」


「自分の立場わかってますかぁ?」


「おいおいお前ら、こんなバカが自分の立場とか理解できると思ってんのかよ!」


「それもそうだな、ギャハハ」


 甘雨が顔をしかめる。

下唇を噛んでいるように見えたのは、疾風の気のせいなのかもしれない。


 その時、疾風の視線が彼らの奥に移った。

そして、


 疾風はお得意の空間魔術で剣を取り出し、





 闇色の焔を纏った、普通の大剣の二倍は拡張された炎の魔剣を、小剣の切っ先で迎えた。





 キイィィィィィィィィンッッッ‼︎‼︎‼︎⁉︎ という耳をつんざくような金属音が響き渡り、炎の魔剣が後ろに思いっきり弾かれる。


 その魔剣の使い手は思いもよらぬ外見だった。

どう考えても中国人の拳法家とキョンシーを織り交ぜたような服装でありながら、その風貌は日本人と相違ない。


 まあ要するに、執行の双子の妹・胡弔であった。

彼女が激昂するなど、どうせ疾風が貶されたとか怪我させられたという場合なのだ。それよりも問題なのは、胡弔が扱う武器、ではなく、それに上乗せされた胡弔のありえない攻撃力であった。


 胡弔は『力の神格』。この世界でまず間違いなくバカバカしい火力を誇っているだろう。

が、それは火力だけというわけではない。膂力もそれに比例するわけだ。


 筋力や握力などにおいて、胡弔はこの上ないほどに強い。

それを抑えられるのは、無論兄である自分や異常存在(イレギュラー)の同級生、学園長くらいだろう。それに、これはあくまでこの学園内。十一人の特級や零級の最上位勢ならば抑え切れるだろう。弾き飛ばすとなればまた変わってくるが、まあそんなものなのだ。


 が、胡弔はまだ成長の真っ只中。

この序列がいつ崩壊するかはわからない分、確定で勝てる自分は重要だろう。


「胡弔、落ち着け!」


「? 私は落ち着いてるよ?」


「嘘つけぇぇ‼︎」


 胡弔の八つ当たり気味な重い連続攻撃、いや、連続重撃を受け流しながら、精一杯の会話をして、落ち着かせようとするが、どうやら無理みたいだ。


(まずいっ!? これは早々に片をつけなくては……!)


 執行お得意空間魔術の転移で、裏取りを行い、手刀を首にあて、意識を見事に刈り取る。

ここまでされれば流石に保健室行きは確定だろうが、まあ命や後遺症は残らなさそうなので問題はないだろう。


 問題といえば、この状況をどう説明するか、だ。


 実技一位の胡弔。その全力ともいえる斬撃を剣の切っ先だけで弾き返す、実技最下位。明らかなイレギュラー。

違和感。


 その実態は学園長の息がかかっているのだが、それを知っているのは当の学園長と対象者である執行のみ。

判定官も知っているには知っているだろうが、結果成績を伝えられていないのだから、違和感はないだろう。


 言い訳だけならばいくらでも思いつくが、現実性を要求される分、さらに周りにいるのは新入生。模範的な態度でいなくてはならない。


「「「「…………、」」」」


「いや、たまたまだって。俺は『トップワースト』だぞ?」


「ん? きちんと力入れてたけど?」


 お前はなぜそうも地雷モドキを踏み抜くんだ、という視線を胡弔に送る疾風。しかし、残念ながら時すでに遅し。

空気読めない女王・胡弔により、疾風は嘯いている、という可能性が濃密にさせられてしまった。


 まあ、端的にいえば油断したのはその時だったのかもしれない。


「うぴょぴょ! 捕まえましたよ、執行家の最高傑作!」


 転移魔術陣。

残念ながら、即座に魔術陣の座標を見破れるほどの力量は持ち合わせていないが、明らかに意図がある。ただここから執行疾風を追い出そうとしているだけではない。


 それを確定させるかのように、魔術陣を仕掛けた学園長が、紙を一枚、陣の中に放り込んでから魔術を発動させた。


 その紙には簡単にこう書いてあった。



 留学生。



 と。

書いたで。全然増えてないけど……。

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