入学式(は騒がしかったな〜………)
唯一説明ぶっ飛ばして書くことのできる外伝は書くとき、一番喜んでいたりする節があります。
最初は戦闘描写がないのがネック。
ピキィィィィン、という何かが凍りつきながら通る音が、唐突な静寂を呼び起こした。
そんな朝。
誰もが押し黙るだろう微妙すぎる目覚ましに起こされ、彼、執行疾風はベッドから起き上がる。
起き上がっても、そこは既に部室、学園内であり、隣のベッドではクークーと可愛らしく寝息を立てる、スカイブルー色の髪をした少女、甘雨がいた。
それを見て、彼は一つの結論を得る。
甘雨が寝てるなら二度寝しよう、と。
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「……て……い。……て…さい。疾風さん、起きてください」
可愛らしく、どこかあどけない少女・甘雨に揺り起こされ、彼、疾風は眠そうに布団から起き上がる。
「もう、疾風さん、ご飯冷めちゃいます」
「ああ、悪い悪い」
甘雨は腰に手を当て、頬を少し膨らませて怒っている。
彼女が怒ると毎度毎度可愛い、なんて思っているのは内緒だ。いったらグーパンか彼女お得意の魔術が吹き飛んでくるだろう。口は災いの元、とはよく言ったものだ。
朝ごはんは簡単なもので、甘雨お得意定番コーンスープと目玉焼きであった。米かパンかは自分で決めてね、と言い残して、彼女は何らかの日課へ向かうため、部屋を出て行った。
一人残された彼は、甘雨との出会いを思い出しながら、朝ごはんを食べるのであった。
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凡そ十四年前。
疾風は立枝校の二年生となり、初めての後輩ができた。
甘雨、と名乗ったスカイブルーの髪をした可愛らしく、どこかあどけなく、それでいて大人びてもいる少女は、緊張しているのか、胸に手を置いて、目を閉じ、しきりに心を落ち着けようとしていた。
新入生は毎年、一つ上の学年の生徒の中から誰か一人と列を組んで入場するようになっていた。
座席も新入生と二年生、並んで座る仕組みで、疾風も先輩相手に随分と緊張したものだった。
だからこそ、去年の先輩と全く同じことを言う。
「異端狩りに、先輩も後輩もないんだよ。誰もが平等で、誰もが対等なのさ」
その言葉で少し落ち着けたのか、少女の顔から緊張が和らいだように見えた。
これが自己主張の演技だったらそれこそ驚きものだが、流石に去年の自分と同じことをする人間はいないだろう。そう信じて、疾風は動き出した列についていく。
先輩と後輩は手を繋ぐ、なぜこうなったのかは知らないが、それが絶対であるからして、例外は作ってはいけない。
それ故に、疾風は後輩、甘雨と手を繋いで入場している。
せっかく和らげた緊張が、憎悪や嫌悪感に変わっていたらどうしようと焦るのは、きっと彼だけでなく、彼の先輩もそうだったのだろう。
故に、端の席に座っていた彼の先輩が、腰あたりを軽く殴ってきた。まるで、自分と同じ目に合っている彼を勇気づけるように……。あるいは、嘲笑うように……。
彼にとっては、そんなもの、既に感じる対象外になっていたのだが、それは言わぬが花だ。
学園長は、今の学園長、ゼロとは違い、ゼロの父親(母親)であるネメシスだ。この世界でまともに会話を聞き取ることができたのはわずか三人というめちゃくちゃに早口な謎に包まれた老人とも若人ともつかぬ、真の意味で謎の、世界に十一人しかいない特級だ。
挨拶はクルクルと回りながら登場し、ボケを狙っているのか? と疑いの目を向けたくなるほど上手な転んだフリ。そして立ち上がって今度は……、
「ビイィィィィバア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
なんて叫ぶ始末。マイクを通すのだから、うるさいのなんの。
新入生たちは全員勢揃いでビクビクしてしまっているが、一部の先輩が笑うことで、その笑いは伝染し、毎年恒例の謎の行動しか取らない、という学園長の一発ギャグは新入生たちに受け入れられるのだ。それは、笑いとして……。
執行疾風は個人的にこれ以上ないほど強く作りました。チートを超えた化け物です。ただし、流石にワンパンではないです。