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2日目の夜

巻き込まれた憐れな二人のお話。

「うっわ、すごいな……昨日よりも増えてる」

「フィード、おい、生きてるか?」


 足の踏み場もない程に本や資料が散乱したその部屋を訪れたロイドとエルランは、その中心でもはや埋もれていると言っても過言ではない部屋の主へと声をかける。


「……あぁ、来てたのか」

「来てたのかって、お前なぁ……」


 のっそりと重そうに上げられた、目の下に濃い隈を作り、疲労の色が分かりやすく読み取れるその顔に、吐き出そうとした文句は飲み込んだ。


 基本的にリーリアと母親以外には丁寧な口調で話すフィードだが、今はそんなものに気を配っている余裕もないらしい。

 雑にかけられた言葉から、彼がどうやら相当に参っているというのが伺い知れる。


 リーリアは、彼が自分に対して乱雑な話し方をするのを嫌われているのかもと不安に感じているようだが、ロイドやエルランから言わせれば、それは彼がリーリアに対して相当に心を許しているという証拠であった。

 現に、何やかんやと数年来の付き合いになった彼等に対してでさえ、フィードは未だに丁寧な口調で話すのだから。

 

「お前、ちゃんと休んでるか? ほら、おばさんがご飯もろくに食べないって心配してたぞ」


 玄関で出迎えてくれたフィードの母親に持たされたバケット。

 中には片手で食べられるサンドウィッチが入っている。

 それを掲げて何とか彼の居る部屋の中心まで進もうとするが、一歩踏み出した所でフィードから待ったがかかった。


「待て、動くな。お前等は繊細さの欠片もないんだから、今この部屋に入って積んである本や資料を崩されたら堪らない」


 心配している友に対してあんまりな物言いだと二人は顔を見合わせて苦笑し、肩を竦める。


「ならお前がこっちに来い。風呂に入って、服を着替えて、飯を食って、寝ろ。お前の頭がどんなに良かろうが、万全じゃなきゃ意味ないからな」

「あぁ。……いや、待て、先に報告を。目星はついたか?」

「あー、いや、まだ……」

「……はぁ」


 使えない、という言葉が聞こえて来そうな溜め息をつかれた。

 フィードの眉間の皺が深くなる。


 エルランとロイドが、フィードに呼ばれてとある頼まれ事をされたのは昨夜の事である。

 今にも人一人殺してしまうんじゃないかと思われる程に不機嫌な顔のフィードは、青ざめた顔で自分の前に立つ二人に言ったのだ。


『リーリアの片想いの相手を探し出せ』と。


 それを聞いた二人はポカン、と口を開け間抜けな顔を晒した後にフィードから気まず気に視線を反らした。

 何を隠そう、リーリアの片想いの相手はフィードであり、二人はその事を知っていた。

 だがしかし、それを今この場で言ってもいいものなのか。瞬時に目配せしあった二人は頷いてフィードの言葉に従うふりをする事にした。

 だって今、片想い相手(それ)を告げた所で冗談を言うなと一蹴されるに決まっているのだ。


 そうしてフィードの言葉に従うふりをした二人は、けれど序盤で躓いた。当然である。そもそも探す相手が居ないのだから。

 だからと言って何もしない訳にはいかない。フィードの情報網は恐ろしい程に広く深いのだ。

 二人が真面目に探していなければ、即座に彼の耳に入る。それだけは避けなければならない。

 人一人殺しそうな顔をしている友人を、人二人殺した友人にする訳にはいかないのだ。


 だから二人は頑張った。

 騎士団の上官に事のあらましを説明して通常勤務から外してもらい、リーリアと交流のある男達を順にあたって行った。


 何の事はない。ただの無駄骨作業である。


 だって二人があたった男達は、既にフィードからの手厚い"挨拶(牽制)"を受けている。

 リーリアが騎士団に入った頃から、一人ずつ順に、根絶丁寧に、一生忘れられない程の"牽制(挨拶)"をされたのだ。

 しかも、その"順"と言うのが、『リーリアと親しい順』だったのだから笑えない。

 寧ろ、その中に入っていて、しかも一番目と二番目であった二人からすれば、号泣したくなる程の出来事だった。


 まぁ、それでも探しているふりを続けた二人は、当然の如く収穫なしで今、この場に立っている。


「……いいか」


 低く低く、地を這う程に低い声に二人は背筋を伸ばした。

 グッと一度強く眉間を揉んだフィードが眼光鋭く二人を見据えている。


「明日の正午までに、リーリアの片想い相手を連れて来い。出来なければ、リーリアが死んだその後に、この世界の全てを道連れにして俺も死ぬ」


 リーリアが居ない世界など生きている意味はないし、リーリアを殺した世界など存在している価値はない。


「おぉう……」


 なかなかにヤバめの目をして言いきったフィードにロイドは思わず唸る様な返事をした。


 やる。こいつなら、やる。絶対にやる。


 ロイドとエルランはお互いに目配せし合い、深く頷く。

 よし、リーリアに頼もう。

 どうか、この、一歩間違えれば世界の敵になってしまう男に告白してくれと。

 俺達じゃもう手に負えない。


 魔女め、なんでよりにもよってリーリアに呪いなんてかけてくれやがったんだ。


 心の中でそう文句を垂れながら、二人はフィードの家を後にしたのだった。

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