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2日目《後半》

「それで、何の進展もなく帰って来ちゃったの!?」


 信じられない! と声を上げるカーナにリーリアは苦笑した。


「どうして告白しなかったの!? このままじゃあなた、明日死んじゃうじゃない!!」


 再び、信じられない! と声を上げたカーナにリーリアはだって、と溢し、そしてそこで言葉をきった。

 フィードの前では飲み込めた熱い塊がとうとう堪えきれずに溢れだしたのだ。途端に視界が滲み、喉が痙攣する。


「だって、フィ、フィードが……」

「リーリア……」


 しゃくり上げながら何とか事の顛末を語ったリーリアをカーナはギュッと抱き締めた。


「あー、それはあれね。フィードはあなたが自分の為にお洒落したとは思ってないから、きっと他の男の為に可愛く着飾ったあなたが気に入らなかったのよ」


 ポンポンと一定のリズミカルで背中をあやす様に叩かれながら言われた言葉にリーリアはうぅ、と小さく唸って否定する様にカーナの肩にグリグリと頭を押し付ける。


 今のリーリアは物事をそこまでポジティブに考えられない。

 魔女に呪いをかけられて急に余命宣告された。

 しかも猶予は3日しかない。それでダメ元で片思い相手に会いにいけば、恋の応援をされてしまった。

 それでも皆に協力して貰って着飾って会いにいけば、気に入らないと言われる始末。

 3日後の死因は呪いではなく精神的苦痛によるモノではないだろうかと本気で思ってしまう程には、リーリアの精神はこの2日弱で傷付けられまくった。


「拗らせてるわよねぇ……」


 泣き疲れて眠ったリーリアを見ながらポツリと呟いたカーナ。

 さて、どうやってこの二人を明日の正午までにくっ付けようかと嘆息した所で部屋の扉がノックされた。


「カーナ、リーリア。居るか?」

「ロイド? どうしたの?」


 声の主はカーナとリーリアの同僚であるロイドだった。

 王国騎士団の独身寮は3棟からなる建物で出来ており、正面向かって右手が男性寮、中央棟を挟んで左手が女性寮とで分かれてはいるが、出入りに制限はなく、それぞれの寮を繋ぐ中央棟には食堂や談話室、実技室などの共同部屋がある。

 なにぶん住人が全て騎士であるので、有事の際は性別関係なく徴集や伝令に駆り出されるのだ。

 故に、入寮者は『自分の身は自分で守る。』『自己防衛は過剰であってもやむ無し。』を原則として暮らしている。

 

 なので、例え現時刻が深夜に差し掛かる時間であっても、カーナ達の部屋をロイドが訪ねてくるのは別に問題はない。

 ただ、何時如何なる時でも元気だけは失わなかったロイドのその声に、なんとなく覇気がない気がして、カーナは少し首を傾げた。


「いや、ちょっとリーリアの呪いの事で相談……というか、お願いというか……」

「? リーリアは寝ちゃったよ。どうする? 起こす?」

「は!? いや、起こすな! いい、寝かせといてやれ! 寝ているリーリアを起こすなんて、あいつに知られたら俺達が殺される……」


 後半部分が聞き取れずに聞き返せば何でもないと返される。

 そういえば、ロイドともう一人、エルランはリーリアの同期であった筈だと思い出したカーナは、この二人がリーリアの恋の相談にも乗っていた事も思い出した。


「もしかして、リーリアと何か話したの? それともフィードと?」

「話した……あれは話したと言えるのか?」

「? まぁいいわ、談話室に行きましょう」

「あぁ」


 そうして向かった談話室にはリーリアのもう一人の同期、エルランが居た。


「それで? リーリアの呪いの事でお願いって何なの?」


 三人で席に着きエール片手に問えばロイドとエルランの顔が曇る。


「あー、その、な。俺達さっきまでフィードに呼ばれてあいつの家に行ってたんだけどよ……」


 それから語られた男達の苦労にカーナは心から、自分が女で良かったと思った。


「それでな、リーリアにフィードに告白するように言ってくれないか?」

「あー……」


 やっぱりそこに行き着くよね、とカーナは思わず頭を抱える。

 それが出来ていたらきっと、ここに居る三人はこれ程頭を悩ませてはいない。


「そもそもね、リーリアはフィードに嫌われていると思っているのよ。こればっかりは、私達がいくら言ったところでフィード自身の態度に問題があるから、そうそう信じて貰えないのよ」

「だよなぁ……俺達もフィードに、リーリアに対する態度を少しは柔らかくする様に言ってるんだが、あれはもう、反射の様なモノだからさ。二人が思いを通じ会わせない限り改善はしないと思うんだよな」

「だけどフィードはあんな成りで石橋を叩いて叩いて叩いて叩いて叩き割る様な奴だろ? 絶対に自分からは言わないと思う」

「だからって、リーリアもこの2日でだいぶ打ちのめされてるみたいなのよ。そんなあの子が、最後の一日で決死の告白をするとは思えないわ」


 三人で同時に溜め息を吐き出して、エールを呷る。

 何にしても期限は明日の正午だ。

 生きるも死ぬも二人次第。


「たけどまぁ、」


 一杯目のエールを空にしたカーナがポツリと呟く。


「あの二人の事だから、ギリギリで何だかんだと丸く収まりそうよね」


 その言葉に苦笑気味に頷いたロイドとエルランは、何だかんだとここまで人を巻き込んで悩ませているのだから、明日の夕飯は二人に奢って貰うしかないだろうと笑い合い、三人は新しいエールで乾杯した。

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