1日目《後半》
「それで?」
「え?」
思わず自分の運命を悲観していたリーリアは、フィードの言葉に首を傾げた。
そんなリーリアに呆れた様に溜め息を吐き出したフィードが質問を続ける。
「お前の好きな相手はどこの誰だ? 俺も知っている奴か?」
「それは……」
フィードの質問にリーリアは口ごもる。
なんと答えたものか……
「えっと、」
「騎士団の者か?」
「……フィードも知ってる人だよ」
「……そうか」
「えっと、フィード? どうしたの?」
「どうしたもなにも、協力すると言っただろう。相手の事を知らなければ協力もなにもないからな。俺が知っている奴だと、ロイドか? それともエルランか?」
「いや、違うけど……」
ロイドもエルランもリーリアの同僚だ。
騎士団に入った時期も年齢も近いからよくセットで扱われる。そして二人ともリーリアの片想いの相手を知っているよき相談相手だったりする。
「ならハーギルか? スジンは流石に年上過ぎるか……あとは、クライシス? それともコーライか?」
「……騎士団の人についてやけに詳しいわね。ロイドとエルランは分かるけど、ハーギルさんとかスジン副隊長とは面識はないでしょう? クライシスとコーライに至っては私とは隊が違うから名前すら知らないと思ってた」
「……」
あ、地雷を踏んだ。
自分の言葉に黙り込んだフィードの様子にリーリアは瞬時にそう悟った。
眉間の皺が深さを増して、只でさえ悪かった目付きが更に悪くなる。口はきゅっと引き結ばれ、視線は右斜め下に固定され、右手の人差し指がコツコツと一定のリズムを刻む。
端から見れば、何か深刻な考え事をしている様であるが、実際は彼にとって触れられたくない事に触れられた時などによく見られる癖だ。
「……騎士団と魔術師の塔は相互協力関係だからな、仕事として付き合いがある奴も当然居る」
「そっか、そうだよね。まぁ、全員違うんだけど。騎士団に私の好きな人は居ないよ」
「……ならば、」
「ねぇ、フィード」
誤魔化す様にして告げられた言葉に頷いたリーリアは、更に範囲を広げて好きな人を突き止めようとするフィードを慌てて遮る。
暴かれてダメージを食らうのはなにもリーリアだけではない。
「魔術で呪いを解く事は出来ないの?」
「さっきも言ったが、魔女と魔術師は全くの別物だ。当然、扱う力も違って来る。特に"呪い"ともなれば俺達魔術師にとっては未知の領域だ。そもそも魔術で解く事が出来るなら、呪いは災害に認定していないだろう」
「そっか……」
「いや、まぁ、一応調べてはみるが……その、期待はするなよ」
「うん、ありがとう」
明らかに気落ちした様子のリーリアにフィードが慌ててフォローする。
なんだかんだとこの幼なじみは優しいのだ。
まぁ、他人にはそれなりに丁寧な言葉で話せるのに、リーリアの前では雑な口調になるし、殆ど不機嫌そうな表情をしているけれど、それでも訪ねてきたリーリアを追い返す事はしないし、なんだかんだと話を聞いてくれる。
背が高く、目付きも悪いから初対面の人からは怖い印象を抱かれやすいが、それでも根は真面目で少し分かりにくいけれど優しい。それがリーリアの自慢の幼なじみ、フィードである。
「今日は報告だけしようと思って来ただけだから、もう帰るね。取り敢えず、フィードが言った様にお洒落でもしてみるよ。ありがとう」
「あ、いや……リーリア、その……俺も明日から休みを貰える様に申請するから、その、明日も来いよ」
「え?」
「いや、あれだ。呪いについて調べるならその報告をしないと、だしな。うん」
自分で言った言葉に自分で納得した様に頷くフィードに首を傾げるリーリアだが、どちらにしろ惚れさせないといけない相手はフィードなので言われなくとも会いに来るつもりだったのだ。
着飾った自分を見たら彼も少しは意識してくれるだろうかと思いながら頷いたリーリアは、取り敢えず着飾る為の服を買いに街へと繰り出した。
フィード
王家直属の魔術師が所属する"魔術師の塔"に所属している。
黒髪黒目。体つきがしっかりしているため、騎士に間違われる事も度々あるが、腕は一流の魔術師。
目付きが鋭く、身長も高いので、初対面の人には大抵怖がられるが、顔の造り自体は整っている為、密かに女性人気がある。
リーリア以外には割りと丁寧な口調と態度で接しているが、幼なじみのリーリアの前では素に戻ってしまう。
父親は元々居らず、母と二人暮らし。そこそこ稼ぎはあるので、割りと広めな庭付きの一軒家を買って住んでいる。