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1日目《前半》

 魔女に呪いをかけられた。


 そう告げた時のフィードの表情は、リーリアが今まで見てきた中でも上位に入ると思われる不機嫌顔だった。


「は?」


 返ってきた言葉にも不機嫌が滲み出ている。


「いや、だから、魔女に呪いをかけられたの」

「何故……いや、相手は魔女だからな。理由などないのか」

「まぁ、魔女だからねぇ……」


 "魔女"と言われる生き物は、気紛れに人に呪いをかけていく。

 千差万別、ありとあらゆる呪いを、ただの気分でかけていくのだ。

 それは、毎朝棚の角に小指をぶつけるという地味に嫌なものから、全ての人から存在が忘れられてしまうという本当に嫌なものまで様々であり、リーリアの場合は後者に当たるとリーリア本人は思っている。


「呪いの内容は?」

「3日で愛を成就させないと死ぬ呪い」

「……は?」


 地を這う様な低い声だった。思わず被害者であるはずのリーリアが謝ってしまうくらいには怖い声音だった。


「愛を成就、ねぇ……しかも3日で」

「うん」

「魔女は他に何か言っていたか?」

「えっと……」


 フィードの問いにリーリアは昨日の事を思い出す。


 事は1日前に遡る。

 王国騎士団に所属しているリーリアはその日、街の巡回に出ていた。

 そこでローブを目深に被った人物にいきなり手を掴まれたのだ。


「やぁ、素敵なお嬢さん。この、心優しい魔女がお嬢さんにぴったりの呪いをかけてあげたよ。その内に抱えている愛を3日で成就させないとお嬢さんは死んでしまうよ。言葉だけで偽ってはいけない。真に、心の底から思い合ってないと呪いは解けないよ」

「なにを……」

「そうだね、『シンデレラ』って話を知っているかな? あれに因んで12時を境にしようか。今からだとお昼の方が近いから、3日目の正午が期限だ。頑張りたまえよ、素敵なお嬢さん」

「まっ!?」


 振り返った先にはもう魔女は居なかった。

 ただ、魔女に掴まれていた右手の甲に花の蕾の様な紋様が浮かび上がっていた。それは魔女に呪いをかけられた証だ。


 気ままに現れては人々に呪いをかける魔女の被害はこの国だけでも年間で数件はある。

 呪いは解く方法もちゃんとあり、魔女は呪いをかけた相手にその呪いの内容と解き方を伝えてはくれるのだ。その解き方が実現可能かどうかは考慮されてはいないけれど。

 だから国は呪いを"災害"として、呪いにかかった者はそれが解けるまで仕事を休んでもいいと決めた。その間の給金はきちんと支給されるし、呪いが解けずに命を落とす事があったとしても、きちんと"災害認定"して貰っていたなら遺された人達に見舞金が渡される。

 だからリーリアは取り敢えず、共に巡回していた同僚と共に上官に報告し、"災害認定"を貰って呪いが解けるまで仕事を休む許可を取った。


 全ての手続きが終わった時には既に夜も幾ばくか過ぎた頃だったので、次の日に念のため仕事の引き継ぎをして、正午前に幼なじみで魔術師でもあるフィードの元を訪ねた。

 彼なら呪いついて少なくともリーリアよりは詳しいと思ったし、リーリアは彼に会う必要があったのだ。


 リーリアの右手の甲にある紋様を確認したフィードは、長い長い溜め息を吐き出してから残念だが、と言葉を発した。


「魔女と魔術師は全くの別物だ。そもそも魔女の操る呪いについても詳しくは分かっていないんだ。だから国を挙げて呪いにかかった者達の手助けをし、同時に詳しく話を聞く事で呪いについての調査が行われてきたんだからな」

「そっか」

「あぁ。……というか、ちょっと待て。12時が境だと?」

「うん」

「昼の?」

「そう」


 リーリアが頷いたところで、街の中央にある時計台から正午を報せる鐘の音が聞こえてきた。

 

「今、1日目が終わったところ」


 ゴーン、ゴーン、と一定の間隔で鳴り響いた鐘の音が12を数えたところで止む。

 ついでにリーリアとフィードの会話も止んだ。

 

「…………好きな相手は?」

「へ?」

「だから、好きな相手は?」

「あ、えっと、」


 暫く続いた沈黙は、フィードの心底嫌だと言う表情と共に発せられた質問によって破られた。


「好きな人は……」


 名を告げる事もせずに赤面して俯いたリーリア。その態度にフィードは眉間の皺を深くした。


「何も難しい事はない。残り2日でそいつに好きになってもらえればいい。時間はないが、3日目までに告白して受け入れて貰えれば取り敢えず魔法は解けるんだ。女らしい可愛い格好をして、化粧もちきんすればお前は十分可愛いんだから、可能性はあるだろ」

「可愛い……」

「まぁ、3日目に両思いにさえなっていれば魔法は解けるし、後々振られたとしても大丈夫だろ。ほんの2、3日、普通の女みたいに振る舞えばいいだけだ」

「待って、なんでその後に振られる前提なの?」

「なぜって、お前は基本的に面倒くさがりだし、女なのにそこら辺の男より強いし、お洒落よりは剣と食べ物の方に興味があるし、男より男らしいだろう」

「……」

「友人としては最高かもしれないが、女としては見れないって感じだな。だがまぁ、大丈夫だろう。元はいいから、きちんと着飾って、化粧して攻めれば相手を落とす事も出来る。俺も協力してやる」

「……」


 リーリアは死にたくなった。いや、このまま行けば3日目に死ぬのだけれど。それでも、何故にここまでズタボロに言われなければならないのか。

 しかも好きな相手に。

 そう、リーリアの片想いの相手はフィードなのだ。

 だがしかし、リーリアはたった今、好きな相手に失恋した。

 だって女としては見れないと言われただけでなく、恋の応援までされたのだ。

 これは私死んだなぁ、とリーリアは1日目の終わりに自分の命の終わりを覚悟した。

リーリア


王国騎士団の第三分隊に所属している。

お洒落よりも剣を握り、お化粧よりも食事を選ぶ23歳。

茶髪に新緑色の瞳を持ち、顔の作り自体は整っている綺麗系の美人。

フィードとは産まれ育った家が隣同士だったため、幼い頃から一緒に育った幼なじみ。

両親は既になく、今は騎士団の独身女性寮に住んでいる。

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