目覚め
目を覚ました私は、どこかの森の中にいるという事を瞬時に理解した。
それは甘い花の香り、草木の青々しい匂い、渇いた喉を刺激するような水の香りや、視覚による生い茂る草、高々と聳え立つ大木、色彩豊かな花。
そんな森の中で寝ていたようだ。
なんでこんな森の中にいるのか思い出そうとすると、自分の名前がわからないことに気づく。
「名前がわからない?」
だが特に慌てるようなことはしない。慌てたところで仕方がないということがわかっているからだ。
まずは立ち上がり、名前がわかる手がかりになりそうなものがないか探すことにした。
最初に自身の身につけている物を確認したが、布地の服とズボン、それ以外は何も無かった。もっと何か身につけていて欲しかったが、ないのだから仕方ない。
今度は辺りに注意を向ける。もしかしたら何かあるかもしれないと探してみると、近くに剣が落ちていた。
それを拾い上げ、鞘から剣を抜くと刃こぼれひとつ無い白銀の刀身が現れ、木漏れ日が反射した美しく輝いた。
間違いない、私の剣だ。
そして剣を握った影響か断片的に記憶を思い出した。
まずこの剣の銘はジゼルド。
この剣で私は数多の戦場を生き抜き、数多の敵兵を殺していた。命乞いをする敵を殺した。逃げる敵を殺した。立ち向かってきた敵を殺した。俺は敵であれば誰であろうと殺した。
慈悲も容赦もないことから剣鬼と呼ばれるようになった。
記憶通りであるなら剣鬼と、そう呼ばれてもおかしくはないだろう。
しかし、私が剣鬼と呼ばれていたのはわかったが、名前は思い出せない。記憶でも私のことは剣鬼だとしか呼ばれていない。それは味方からも敵からもだ。
他に何か記憶を取り戻すための物がないか探してはみたが愛剣のジゼルド以外には何もないようであった。
自己分析はこれ以上無理だと判断し、現在置かれている自身の状況確認をすることにした。
ここは森の中だ。獣の匂いはこの辺りはない。安全だとは確定はできないが、昼夜を問わずに襲われる可能性があるような危険な森ではないだろう。
そう判断した瞬間、近くから音が聞こえた。ガサガサと草が擦れて出る音だ。
小さい獣か?
私は注意深くその音が聞こえる方を見つめた。すると一人の青髪の少女が現れ、その少女と目があった。
「……」
「……」
互いに何も言わずに互いに様子を見ていた。いや様子を見ていたの私だけだろう。少女は首を傾げて不思議そうに見つめていたのだから。
先に言葉を発したのは少女だった。
「どこからきたの?」
少女はそう言った。
私が怖くないのだろうか? それとも危機意識が足りない子共なのだろうか。警戒心を持ってもらいたいところだ。
とはいえ、状況としては幸運だ。あの少女はこの辺りの場所を知る手掛かりになる存在なのだから。
「アリシア、誰に話しかけてるんだい?」
少女の後ろから男の子がでてきた。
む、他にも誰かいたか。
「あ、ライル。ほら、あそこに知らない男の子がいるんだよ!」
ぴょんぴょんと跳ねながらアリシアは私の方に指を向けてライルに言っている。
現れた少年は背がアリシアより大きい茶髪の少年だった。
「まさかこの森に知らない男の子が迷いこむなんて…」
男の子と私の目が合うと、「ほんとだ」とでも言うような顔をした。
「ほんとだね」
「だからそう言ったじゃない!」
頬を膨らませてアリシアが拗ねた。
「ごめんごめん」
それを宥めるようにライルは謝る。
私は何を見せられているのだろうか。この場を離れてもいいのだろうか?
定期的に更新していこうと思っていますので、よろしくお願いします。