7.私のフリーパスチケット
翌朝、パンにバターを塗りながら両親に切り出してみた。
「バイトしていい? 家庭教師ならいいんだって桜子と涼が教えてくれたの」
「う――ん」
「家庭教師なんて奈美にできるの?」
「できるよ! 私だって無駄にずーっと勉強してきたわけじゃないもん!」
「そうねぇ」
「でもすぐに生徒が見つかるのか?」
それもばっちり聞いたのだ。
「うん。桜子のイトコの女の子にちょうどぴったりなんだって」
「あら良かったじゃない」
「その子いくつなんだ?」
「……小学生」
爆笑された。
ふ――んだ!
「子供だからって手を抜いちゃダメだぞ」
「もちろん! 全力で教えるよ!」
抜く以前に力入りまくりなんだけどね。だって念願のバイトなんだもん。
聖クロスを受験するらしいし、いい先輩にならなくっちゃね。頑張るぞ!
「今日まだ時間あるよね? ちょっと散髪に行ってくる」
「あら、伸ばすんじゃなかったの?」
「どんな髪型にするんだい?」
「ナイショ!」
っていうかまだ決めてないんだ。
雑誌を見て考えるつもり。
まずは本屋さんに行こう。そうだシャーペンも探して……っと。
手早く出かける用意をして靴を履く。
「じゃあ行ってくるね!」
お母さんが玄関に見送りに来た。そして私を見て目を細めた。
「まぁ……奈美も聖クロスの生徒ね。ぴかぴかよ」
「?……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ほんとに?
だって私はまだバイトを始めてないし、髪も切ってない。それでもぴかぴかに見えた?
そっか。
いきなりひらめいた。あのステンドグラスと七不思議。
真ん中の色のない長方形がフリーパスチケットを表しているんじゃない。
あれは私。
ほんの少し踏み出せば別の色になれるのに、動けなかった私。そう、私が行動しさえすれば『なんでもできる』し『どこにでも行ける』んだ。
現にバイトのことを話したらすぐに決まった。
思っているだけじゃどうにもならなかったのに。
曾お祖母さんは、いつか自分と同じように道を見失ってしまった生徒の支えになるように、あの場所にステンドグラスを置いたんだろう。
道は一つじゃなくてまわりにたくさんある、一つがダメになってもあきらめないで探してごらん、遠回りでも他の道から行けるかもしれないし、他の道もいいかもしれないってステンドグラスで伝えたかったんじゃないかな?
ハルたちがすぐにステンドグラスに気づいたのは、そんな経験があったから。
私はいいことなのか悪いことなのかわからないけれど、今までそんな気持ちになったことがなかった。
でもこれからは道を見失ったとき、あのステンドグラスと七不思議を思い出すだろう。
自分が望んだ通りに動けば『何でもできる』し『どこにでも行ける』。フリーパスチケットをすでに自分は持っているんだって。
見えないフリーパスチケットを今の私はしっかり確認することができた。
ありがとうございました。